第41話 キャサリンはリューの実力を測りたい

ミムルの街の新ギルドマスターのキャサリンは、冒険者リュージーンとギルドの訓練場に居た。キャサリン自身が、リュージーンの実力を確認するためである。


キャサリンとしては、できれば今後は、リュージーンには高ランク向けの難度の高い依頼を受けてほしいと思っていた。


ランクが低い者は相応の危険度の低い依頼しか受注できないルールになっている。それは、実力のない者が無理に高難度の依頼を受けて死ぬ事を防ぐためである。


だが、ランク制度自体はギルドが認定したもので、本人の実力と一致していないと言う事も偶にあるのも事実である。これは制度上の欠陥と言えるかも知れない。


報告通りであれば、リュージーンという冒険者はAランクの実力があるのは確実である。


リュージーンほどの実力者をFランクだからと初心者向け依頼だけしかさせないというのももったいない。ランクアップさせればよいのだが、リューがランクアップを拒否している以上どうしようもない。


前のギルドマスターのしでかした問題は解決したのだから、ランクをあげてはどうか?とリュージーンにランクアップを打診してみたのだが、ランク制度によって受けた不遇な扱いを今なお忌々しく思うところがあるからだろうか、リュー自身があまりランクアップに興味がなくなってしまったと言う。また、冒険者としての知識・技能が未だに初心者の域を出ていないと言う事を理由に、ランクアップは今の所考えていないという返答であったのだ。


ランクとは別に、本人の実力を明確に示す「レベル」という指標がある。このレベルも、本人の能力値を示しているだけで、戦闘能力を示すものではないのだが。


どれだけ速く走れるかとか、どれだけ重いものを持ち上げれるかは測定できるが、足がどんなに速くともどんなに力が強くとも、戦闘が強い事とは直結しないのと同じである。戦いには純粋な身体能力だけでなく、技術や戦略、知識や知恵というものが必要だからである。


ただ、能力が高ければ戦闘時にも有利になるのは間違いない。圧倒的に高い能力を持っていれば、戦闘能力も相対的に高いと言う事は確実に言えるのである。時に政治的理由で決まる事すらあるギルドのランキング制度よりは、実力を測る指標になりやすいのは事実である。


だが、その「レベル」がリュージーンには当てはまらないという報告であった。何度鑑定してみても、リュージーンのレベルは“1”のままなのである。


キャサリンはリュージーンを説得して、ギルドにある鑑定水晶に再度触れてもらったのだが、やはりレベルは1、魔力はゼロ、加護もクラスも表示されないのであった。


(当然である、リューは自身のレベルを必要に応じて可変できるのである。そして、レベル1の状態ですら、普通の人間の力を凌駕してしまっているため、どうしても必要出ない限りは、常に最低の1の状態にしておく必要があるのだった。)


竜人だから人間のレベル1とは比較にならないのだろうという報告は受けているが、そもそも、このレベルというのは種族は関係なく、共通の指標として使えるもののはずなのであるが。


竜人だけは別格であると言うことなのかも知れないが―――そもそも、竜人というのはこの世界では伝承の中にしか登場しない失われた種族であり情報が少なすぎる。


「規格外」とするしかないが、そうなると、リュージーンの扱いをどうすればよいのか、困ってしまうキャサリンであった。


高ランク冒険者が少ないミムルの街では、実力のある冒険者は貴重なのである。ランクもレベルも当てにならないなら、それによらない対応を考えなければならない。


リュージーンに関しては特例扱いにする事も視野に入れているが、その前に、キャサリンはリュージーンの実力を自身の目でキチンと確認しておきたいと思ったのであった。


現状では、報告としてあげられる客観的な「肩書」としては、リュージーンは「三年経ってもレベル1のままのFランク冒険者」でしかないのである。以前、ヨルマ達とのランクアップ試験はあったが、その時の目撃者もほとんど街に残っていなかった。特例扱いするために本部を納得させるだけの材料にもやや欠けている。


ミムルのギルドだけでリューが活動してくれていれば、キャサリンの裁量だけでもなんとかできなくはないが、竜人だなどと報告を上げても本部は信じないだろう。


リュージーンがダンジョンのドラゴンを倒せる“ドラゴンスレイヤー”であるというのは聞いているし、納品されたドラゴンの素材も本物ではあるのだが、リュー自身がドラゴンと戦っているところを未だ、誰も見た事がないという問題もあった。リュージーンがどこかからドラゴンの素材を入手しているのではないか、と言う噂が出てしまうのが予想できる。そもそも、リュージーンは、狩りに行っている時間が短すぎるのだ。


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キャサリンはリューに「リューの実力を確認させてほしい」と正直に伝えた。とりあえずは、キャサリン自身を相手として、軽い手合わせして欲しいと。


「俺の実力と言われても……正直、自分でも分からない、測り知れないとしか? 未だに全力を出した事は一度もないからな……本気で全力を出したら、この国が多分なくなる」


もちろん、キャサリンは本気にしなかったが、本当の事である。


リューのレベルは“可変”であり、現状の“1”ですら、力を抑えるのに苦労しているのだ。リューは本気になったら、レベルをどんどん上昇させる事ができる。


実は一度、どこまで上げられるのか一度ダンジョンの中で確認してみた事があるのだが、レベルは1000を超えてもなお上昇し続け、リューの気配だけでダンジョンが崩壊しそうな恐怖感があったので、それ以上は試す事ができなかった。


レベル1000の時のリュー自身の感覚では、おそらく、大地を一発殴っただけで、「地殻」を割ってしまえそうなほどの力を感じた。


ただ、それは、リュージーンにとっては転生時に女神に要求した能力がちゃんと備わっていると確認できただけで、驚く事ではないのだったが。


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キャサリンは、引退した身であるが、かつてはAランクまで上り詰めた冒険者であった。


しかし、引退するにはまだまだ早い年齢である。実は、ギルド内での仕事が忙しくなり、冒険者としての活動をしている時間がなくなってしまっただけなのである。


キャサリンはそれなりに剣の腕に自信があった。いくらリュージーンが強いと言っても、それなりには渡り合えるだろうと思っていたのである。


だが、木剣を構えるキャサリンに対し、リューは、無手で良いという。さらには、一切リューからは攻撃しないとも言う。いくらなんでも舐められたものである。。。


少しムッとしたキャサリンは、本気を出す事にした。多少痛い目を見せ、その高くなった鼻をへし折ってやる必要もあるだろう。


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数十分の後、訓練場にへたり込んでいるキャサリンと、涼しい顔で立っているリューが居た。


果たして、鼻をへし折られたのはキャサリンのほうであった。


キャサリンの振るう剣は、一度も、リューに掠る事すらなかったのである。


リューに打ちかかるキャサリンの攻撃は確かに鋭かった。さすがは元Aランク冒険者である。


だが、リューが僅かに移動しただけで、その剣は空を切る事になるのだ。


本気の、全力を出した最高速の一撃も躱され。


緩急をつけてみたり。


フェイントをかけてみたり。


奇策、奇襲攻撃を試みてみたり。


自分の持つ技術のあらゆる引き出しを開けて挑んだ攻撃は、しかし、後ろに手を組んだままのリューに掠りもしなかった。


そしてついに、体力の限界でキャサリンはへたり込んでしまったのだった。



  

その結果は当然である。


リューは、手加減なし、自分の特殊能力全開で対応したのだ。


まず、リューには“神眼”がある。


神眼の能力は多岐に渡るが、近未来の危険を察知する事を強化した常時発動の予知能力も含まれている。攻撃はすべて予知によって分かってしまう。リューに不意打ちは通用しないのだ。


さらに、相手の心を読む事もできる。次にどんな攻撃をしようとしているのか程度であれば、常時発動の神眼の範囲内だけですべて読めてしまうのである。


“予知”であれば、はずれる事もある。未来は常に不確定なのである。


心が読めても、実際の動作がその通りにならなかったり、アクシデントがあったりする事だってある。


だが、予知と読心、両方の能力が併用されれば、攻撃の予測はほぼ完璧に近くなる。


さらに、時間を操る能力をもリューは持っている。これもパッシブに発動する能力であり、リューの必要に応じて、リューの行動速度はシームレスに加速される。


リューから見れば、リューの動きが速くなっているのではなく、周囲の動きが遅くなっているのだが。


(その気になれば、リューが極限まで集中を高める=時間の流れを遅めると、時間を停止させる事すらもできる。だが今回はそこまでの必要はない、キャサリンの速度を何割か落とす程度で十分であった。)


そのようなチート能力てんこ盛りの状態で、キャサリンの剣がリューに当たるはずもないのである。。。




「もういいか?」


「……悔しい。私だってAランク冒険者だったのに……どんだけ?!」


「言ったろ、測りようがないって」


「これは、Aランク以上の実力があるのは間違いなしというところね。そのうち、なんとかSランクの冒険者を呼び寄せて戦わせて見たいわね」


「理由もなく戦いは受けないけどな」


「とりあえず、Fランクになんてしておけない。ギルドマスター代理権限でAランクを認定します」


「はぁ?! いらない、断る。試験も受けてないのに、さすがに職権乱用だろ?」


「ふふ、今の手合わせをランクアップ試験と認定するわ」


「いらんて言ってるのに……


…やっぱり冒険者ギルドは潰すか?」


「スイマセン嘘デス、Fランクのままでイイデス。いまのはただの練習でした」


一瞬で前言撤回するキャサリンであった。。。


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だが、キャサリンは、今度はリューの狩りに同行させてくれと言い出した。


断ろうとしたがしつこく食い下がるので、その場で連れて行って見せてやる事にした。


リューの狩りは、転移でダンジョン内へ瞬間移動し、その階層にいる魔物の魔石を転移で一括収納、その後、魔物の死体も転移で収納して終了してしまうのである。


あっという間に終わってしまう。モンスターと対峙する事もない。


突然、ダンジョン内に転移で連れて行かれ、何もないところから収納した魔物の死体と魔石を出して山積みにして見せるリュー。


「チョット待って、待って、ちょっ待てよ!!」


転移?収納魔法?色々トンデモ情報が多すぎて、目を白黒させるキャサリンであった。。。


「転移魔法って、失われた古代魔法じゃないの!!現実に使える人が居るなんて……


それに収納魔法!?収納の魔道具じゃなくて?」


「転移魔法と収納魔法はどちらも同じ“時空魔法”に分類される。つまり、転移が使えるならば収納魔法も使えてもおかしくはないだろう?」


「魔物は?!あ、前に倒した魔物を収納してあったってこと?」


「だったら訓練場で出しても同じだろ。今倒して集めてきた、できたてホヤホヤだよ」


「集めてきたって……まだ暖かいわね」


リューが出したオークの死体に触れてみるキャサリン。


「それに、傷一つない……」


「転移で魔石を抜き取ってるんだ。こんな感じで」


「?!」


リューが手をかざすと、いつの間にかキャサリンが腰に帯びていた剣がいつの間にかリューの手の中にあった。


絶句しているキャサリンに剣を返すリュー。


「ダンジョン内からモンスターを転移させる事もできる」


リューの背後の地面に魔法陣が浮かび、ミノタウロスが現れた。リューがダンジョン内を検索し、転移させたのである。


「ミノタウロス!?」


ミノタウロスは危険度Aランクのモンスターである。


一瞬、リュー達を見て戸惑ったあと、持っている戦斧を振り上げたがミノタウロス。


だが、ミノタウロスの動きはそこで止まり、ゆっくり倒れていった。


「こんな感じで……」


リューの手には、少し大きめのサイズ魔石が乗っていた。ミノタウロスの魔石である。


「戻ろうか」


リューはミノタウロスを亜空間に収納すると、転移を発動した。


ポカンと口をあけた状態のまま、気がつけばキャサリンはギルドの訓練場に戻っていた。まるで夢でも見たかのようである。


しばらく間があってから、キャサリンは口を開いた。


「そ、その力は、人間相手でも?」


「人間には魔石がないが、臓器を抜き取ったら死ぬかな?やった事はないからどうなるか分からんが」


臓器を抜き取られるのを想像して、思わずキャサリンはゴクリと唾を飲み込んだ。



   *  *  *  *



一方その頃、ギルドの受付で別の問題が発生していた。


一人の幼女が冒険者ギルドに入ってきて、盗賊退治の依頼をしたいと言い出したのだ。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


悪い人を退治して下さい!

幼女の依頼はプライスレス?


乞うご期待!



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