第13話 愚かな冒険者達の最期

最近、ミムルの街では、最近、姿が見えなくなった冒険者が増えていた。主にレイドに参加した冒険者である。

 

ダニエルは、姿を消した冒険者達はリュージーンが殺したのではないかと疑っていたが、何も証拠はない。

 

そもそも、冒険者の移動は自由である。どこか別の街に移動して帰ってこなくなる冒険者も多い。姿がしばらく見えないというだけでは、何も言えないのであった。

 

実は、姿が見えなくなった冒険者の多くは、リューにお灸をすえられ、キッチリ反省させられた上で、過去に捨て石にした冒険者の遺族への謝罪行脚に旅立って行ったのであるが。

 

ただ、素直に心を入れ替えてくれた者達は良いのだが、中にはそうでないものも当然居たのである。

 

一度は反省したように見せかけて、後日、仲間を連れてリューを襲撃したり闇討ちしようとしたりするのである。

 

だが結局、そういう者達は全員まとめて返り討ちにあう事になる。

 

一度お仕置きを受けてなお、反省しなかった人間はもはや矯正不可能である。ましてや、二度も自分を殺そうとしてきた相手を、リューもさすがに生かしておく気もなかった。

 

もちろん、簡単に楽にはしてやらない。きつ~いお仕置きをたっぷり受けて後悔してもらった末に始末される事になるのであった。

 

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― ― ― ― ― ― ― ―

 

この日も、買取を終えた後、リューはいつものようにダンジョンに向かうつもりだったのだが、商業ギルドを出たところで数人の冒険者に囲まれた。

 

「なんだ?」

 

リューが不愉快そうに片眉を釣り上げながら言った。

 

「ちょっと付き合ってもらおうか?」

 

囲んだ冒険者の一人が言う。

 

「断る。忙しいんでな。」

 

「オマエに拒否権はない。」

 

「ほう、どうするというんだ?」

 

「俺たちも手荒なことはしたくない、黙って着いて来い。」

 

歩き出すリュー。冒険者たちも歩き出す。

 

「こっちだ……っておい、どこへ行く?!」

 

路地を曲がろうとした冒険者だったが、後ろを歩いていたリューはそのままそのまままっすぐ歩いて行ってしまう。

 

慌ててリューの前に回り込む冒険者達。

 

「言ったろ?俺は忙しい。それに、人の都合を無視して無理やり連れて行こうって態度が一番嫌いでな。」

 

「どうやら力づくで連れて行くしかないようだな?」

 

「ふん、やれるものなら、な。」

 

殺気立つ冒険者達とリュー。

 

だが、周囲に野次馬が集まり始めていた。

 

「ちっ、どうする?」

 

「引き上げるぞ!」

 

そうしてその場は引き上げていった冒険者達であったが……

 

だが、2時間後、ダンジョンでの狩りから戻ってきたところ、住処近くの路地で、リューは再び囲まれたのだった。

 

 

 

リューを取り囲む十数人の冒険者達。

 

「で、取り囲んで、どうする?」

 

「ビビったのか?」

「この人数ではしょうがねぇか」

「情けねぇな、おい?」

 

ヘラヘラ笑いながら言う冒険者達。

 

「一応確認しておこうと思っただけだ、戦う気がなかったのに殺されてしまったら気の毒だからな……」

 

「てめぇ、舐めるのもいいかげんにしろよ……!」

 

「この人数ではさすがのお前もどうにもできんだろう?」

 

囲みの後ろからヨルマが出てきて言った。よく見れば、囲んでいる者達の中にヨルマのパーティのメンバー、アーサー・ビル・バンの姿もあった。

 

「見た所、全員、あのレイドに参加していた冒険者のようだな?」

 

リューの お仕置き をまだ受けていない高ランク冒険者はのこり3パーティほどとなっていたが、そのメンバーが全員揃っているようだ。

 

「お前がレイドに参加した冒険者を逆恨みして襲ってるのは分かっている。」

 

「どうせ不意打ちでもしてたんだろうが、これで卑怯な手はもう使えんだろう。」

 

「街中でやるか? どうせなら、人目に付かないところに行って思い切りやろうじゃないか?」

 

取り囲んだ冒険者達は、一瞬、めまいに似た感覚を覚えた。周囲の景色が別の景色と混ざり合うようにして変わる。

 

……気がつけば、全員洞窟の中であった。

 

「……? ここは……???」

 

「ダンジョンの中に転移した。ここなら思い切りやれるだろう?」

 

動揺して周囲を見渡す冒険者達

 

「馬鹿な、転移魔法だと?!」

 

「ダンジョンの中では、人を殺しても証拠がないから罪に問われない。そうだったよな、ヨルマ?」

 

「…ふん、馬鹿め。わざわざ証拠が残らない場所に自分から来るとはな。抜くがいい、リュージーン!」

 

ヨルマの言葉で一斉に腰から剣を抜く冒険者たち。

 

だが、リューは動かない。

 

「どうした、お前、剣も持っていないのか?」

 

「いや、剣は持ってるけどな……」

 

リューが剣を握るような手の形にすると、突如、その手の中に剣が現れた。リューが転生時に女神から貰った武器のひとつ、「魔剣フラガラッハ」である。

 

実は、時空魔法を使えるリューにとって、剣を持つ必要などないのであったが。

 

ダンジョンのモンスターも、リューを取り囲んでいる人間たちも、リューがその気になれば全員瞬殺してしまえるのだ。

 

だが、リューはあえて剣を手にして、少し遊んでやることにしたのだった。

 

「ここがお前達の墓場だ。掛かってくるがいい。」

 

「……殺れ!」

 

ヨルマの号令で一斉にリューに襲いかかる。

 

だが、その瞬間、リューの目には相手の動きがスローモーションになる。

 

リューが素早く動こうとする時、自動的に時を操る魔法が作動し、リューの行動速度は加速されていくのである。

 

襲い来る無数の刃。しかし、ゆっくり動いている剣を余裕で掻い潜りながらリューは魔剣を振るう。一撃で致命傷は与えない。足を中心に狙い、動きを封じていく。

 

数十秒後、その場にヨルマ以外全員、血を流しながら倒れていた。

 

ヨルマを見るリュー、次の瞬間には、リューはヨルマの背後におり、ヨルマの左足は斬り飛ばされていた。

 

「ば……かな……」

 

まったく反応できなかった。ヨルマは、呆然としながら倒れていった。

 

リューは加速の能力を最大限に発揮したのである。

 

リューの動きが速くなっているのは、裏返せば、実は周囲の人間の時間の流れが遅くなっている現象とも言える。それをフルパワーで発動した時、相手の時間の流れは限りなく遅くなり、ついには停止したかのような状態になる。

 

つまり、リューは時を止める事もできるのである。本当に時が止まっているのかどうかはリューには分からないが。

 

それは、リューが要求した、“全世界を一人で相手にしても負けない最強の力”を実現するために与えられた、時空を司る女神の加護によるものである。つまり、時間は本当に停止していた。

 

止まった時間の中、リューはヨルマの背後に移動し、足を斬った。超高速で移動したのとも違う、時間が停止しているのだから、反応できる人間など居るはずがないのである。。。

 

ヨルマはすぐに我に帰り、斬り落とされた足を掴むと切断面に合わせ、懐から高ランクポーションを取り出し振り掛けた。最高級なポーションであれば、切断された手足であっても繋ぐことができるのだ。どうやらヨルマは、リューを襲う計画のために、そんな最高級ポーションを用意していたらしい。

 

だが、リューが言った。

 

「ああ、いい忘れていたが、この魔剣で斬られた傷は治癒しない。」

 

「!?」

 

治療系の魔法が使える者が慌てて治癒魔法を唱えはじめた。慌ててポーションを取り出し、傷に掛けたり飲んだりする者も居た。

 

だがリューの言ったとおり、斬られた傷は一向に治癒しない。魔剣フラガラッハによる治癒阻害の能力である。

 

それを確認したヨルマ達が青くなる。

 

「馬鹿な、治癒魔法でもポーションでも傷が治らないなど、そんな事、ありえない!」

 

「俺からすれば、魔法やポーションで傷が治るほうが不思議なんだがな……」

 

本当は、魔剣フラガラッハは鎧の上からでもバターを斬るように一刀両断できるほどの切れ味を持っているのだが、あえてリューは即死させるような斬り方をせず、足を狙った。それは、彼らに絶望を感じてもらうため―――そう、置き去りにされた過去の冒険者達のように。

 

「終わりだ。じゃぁな、帰らせてもらおう。」

 

「……待て! …俺たちを置いていく気か?!」

 

「俺の時も、足を斬って置き去りにしたよな? そもそも今日だって、俺を 殺すつもりで襲ってきたんだろう? まさか、相手を殺す気だったのに、自分達が死にそうになったら助けてもらえるなんて思ってるわけじゃないよな?」

 

「待ってくれ!頼む、謝るから……置いていかないでくれ……」

 

「これまで何人、新人冒険者を捨て石にしてきたんだ?置いていかれた者達がどんな気持ちだったのか、それを味わいながら死んでいくがいい。」

 

リューの足元に転移魔法陣が浮かぶ。

 

「待ってくれ!!」

 

だがリューは消えていき、やがてすぐに、血の臭いに誘われて、魔物たちがヨルマ達のいる場所へ集まってきた。

 

足を斬られ立てないながらも剣を振り回し、何匹かのモンスターを倒したのは、さすがDランク以上の冒険者達であったが、出血は止まらず、徐々に力が抜け、気が遠くなっていく。

 

この世界は傷は魔法で治療してしまうので、地球のような外科的な治療方法の知識がほとんどない。流れ続ける血を止める方法もよく知らないのであった。

 

もっとも、応急的な止血方法を知っていたとしても、ダンジョンから脱出できない以上、死ぬのをしばらく遅らせる事にしかならないが。

 

やがて、冒険者達は全員魔物に食い殺され、死んでいったのであった。。。

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

次回予告

 

リュー、毒を盛られる

 

乞うご期待!

 

 


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