第6話 しかしランクアップは拒否られる

ギルドマスター・ダニエルは、ランクアップ試験に合格したリュージーンに執務室で待つように言った。


言われたとおり、執務室に行き、ソファに座って待っていると、しばらくしてダニエルと受付嬢のレイラがギルドカードを持ってやってきた。


リュージーンにカードを渡すレイラ。だが、何故か浮かない顔で声に張りはなかった。


「手続きは終了しました。ランクアップおめでとうございます、今日カラFランクトナリマス……」


その言葉を聞き、渡されたギルドカードを確認したリューは抗議の声をあげる。


「Fランク? 俺はさっきBランクの冒険者を圧倒したんだが? 最低でもBじゃないのか?」


「いえ、それが……」


「悪いが規則でな。昇格の条件は戦闘の強さだけではないんだよ」


「規則? 今慌てて作った規則じゃないのか?」


ギロリとダニエルを睨みつけるリュー。


「そ、そんな事はない! ギルドマスターを信用できないのか! ?」


リューは訝しげにレイラの顔を見る。


「い、一応、本当です、規則的には……」


「説明してやれ」


「リュージーンさんは、ランクアップのためのノルマを満たしていないのです。FからEに上がるためには、指定数以上の魔物の討伐証明と魔物の素材の納品が必要となっています」


リュージーンは3年間、薬草摘みしかやってこなかったため、ランクアップのための討伐ノルマを達成していないというのだ。


だが、これは明らかにダニエルの嫌がらせであろう。


そもそもFというのは、冒険者に初めて登録する者が試験なしで認定されるランクである。


Gランクからのランクアップとはいえ、Fランク冒険者では絶対クリアできない困難な試験を突破して合格したリュージーンが初登録者と同じFというのはいかにもおかしい。最低でもEランクは認められるべきだろう。


さすがに思うところがあるのだろう、レイラが抗議の声をあげた。


「これはおかしいと思います! これまで、条件に満たなくてもマスターの裁量でDランクまでは認められた事例があるじゃないですか!」


「うるさい、余計なことを言うな! ルールはルールだ。今後はルールを厳格に守っていくことに決めたんだよ!」


これ以上余計な事を言うなとレイラを追い出すと、ダニエルは、リューに訊きたい事があると言い出した。


「オマエ、強さを隠していたのか?」


「別に、隠していたわけじゃない」


「じゃぁ何なんだ? どうして急にそんな強くなった? ダンジョンの中で何があった?」


「強くなった、というか思い出した、というべきかな」


「何をだ?!」


「……秘密だ」


リューはニヤッと笑った。


「……!」


「言う必要ないだろう? どうやって強くなったかなど、いちいちランクアップの度に訊くのか?」


「昨日まで気弱で一般人以下の力しかなかった者が、突然、実力も性格も別人のようになったら、事情を訊く必要はあるだろ」


「自分の強さの秘密を説明する義務などないだろう? 冒険者は皆、自分の力や奥の手は秘匿しているもんじゃないのか?」


「義務はないが……


……ギルドの職員は、所属の冒険者がどのような能力を持っているかを把握しておく事は必要なんだよ。それを知っておけば、より適した依頼を紹介したりとか、便宜を図る事もできる。


まぁ、中には、職員にも言えないような秘密を持っている奴も居るがな。ギルドのマスターとしてはそういう情報もなるべく把握しておきたいのだ。


守秘義務は必ず守るから安心しろ」


「信用できるわけないだろ」


「たかがFランクの冒険者のくせに、ギルドのマスターの言うことが信用できんというのか?」


「俺は殺されかけたんだぞ? しかも、ギルマス公認の計画殺人でな。自分を殺すことを指示した人間を信用できると思うか?」


「指示などしとらん! あれはあいつらが勝手に……」


「つまり、ヨルマ達が俺を殺そうとした事は事実として認めるってことだな?」


ダニエルはしまったと言う顔をした。


「で、ヨルマ達は殺人で罰してくれるのか? 今回レイドに参加した連中は全員知ってて黙認してたようだからな、全員罰する必要があるだろ?」


「それは……また別だ。そんな話が広まれば、ギルドの信用問題になる。証拠もない事に対して処分などどできんのだよ」


「ふん、これ以上話しても無駄なようだな」


「待て、これはギルドマスターの命令だ! 全部正直に言え! 命令が聞けないなら、マスターの権限でオマエにペナルティを課すぞ!」


「何を言えって? ? ?」


「全部だ、ダンジョンからどうやって脱出した? オマエが強くなった秘密はなんだ?」


「言ったろ? ひ・み・つ だ」


「いいのか? 俺に逆らったらペナルティだ。“無期限の依頼受注禁止”、“素材の買取禁止の処分”にしてやる! 依頼が受注できない、素材も売れないのでは、ランクも上げられないぞ」


「ふん、別に構わんさ。ランクアップにも興味がなくなった。俺はFランクのままでいい。話は終わったなら帰るぞ」






リューが退室した後、頭に血が登ったダニエルは、すぐにギルド職員にリューについての処分を通達した。


『Fランク冒険者リューは、ギルドマスターの命令に従わなかったため、無期限の依頼受注禁止、素材買取禁止とする。』


それを聞いた職員たちから、そんな処分は聞いた事がない、重すぎないか? という声が上がっていたが無視した。


なぁに、依頼が受けられない、素材も買い取ってもらえない状態では、リューもすぐに泣きを入れてくるだろう。そうダニエルは考えていたのだった。


     ・

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― ― ― ― ― ― ― ―

翌日、リューはギルドに現れ、依頼が貼ってある掲示板を見ていた。


そこに、レイラがやってきて、申し訳無さそうに言う。


「リュー、さん、すみません。実は、ギルドマスターから通達が出されまして……」


「ペナルティだろ? 知っている、昨日聞いた。依頼の無期限受注禁止、素材の無期限買取禁止だろ?」


「そうです……


…でも! こんなのおかしいです!


ギルドマスターの職権を超えた不当な処分だと思います、私、ギルド本部に報告します!」


「いや、大丈夫。余計な事はしないでいい」


怒るレイラをリューが宥める。


「依頼の受注禁止と言っても、ギルドに出入り禁止ってわけじゃないんだろ? 依頼を受けなくても、どんな依頼があるか見るのは何も問題ないわけだよな?」


「そ、それはそうですが……」


「素材買取だって、別にギルドに買い取ってもらわなくても、他に買い取ってくれるところはいくらでもあるしな」


リューは笑った。


「レイラに迷惑は掛けないから安心してくれ」


これまで「さん」付けで呼んでいたリューが、急に自分を呼び捨てにし始めて戸惑うレイラ。リューの笑顔にドキッとして思わず顔が赤くなってしまうのであった。


「ギルドマスターの権限を振りかざすなら、こちらもギルドのルールに則って、落とし前はきっちり付けさせてやるさ」






そこに声を掛けてきた冒険者が居た。Cランク冒険者のゴジである。


「邪魔だ! 退け! 薬草取りしかしねぇGランクのクズ冒険者が掲示板の前に突っ立ってんじゃねぇ!」



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ギルドで冒険者に絡まれるテンプレ的展開?


乞うご期待!



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