第二話「排水溝」
数週間前、自宅の流しが急に流れなくなったんです。
手入れには気を使っていたつもりでしたので、私は少し驚きました。何かまずいものを知らぬ間に流してしまっていたのか、ただ心当たりがまるでないのです。とりあえず掃除をしようと思いまして。ゴミ袋とかゴム手袋とか色々用意して、中のものを取り除こうとしたんです。何が詰まっているのかも気になりましたし。一番外側のカバーを外して、中を覗きこんだ時でした。
目があったんです。
真っ暗な排水溝の中から見えたそれは、間違いなく人の眼球でした。
じっと、こっちを見ていました。
私は恐怖より目の前の光景が信じられなくて、呆然としてしまいました。その眼球は何をするでもなく、こっちを凝視していました。眼球しか見えなかったので何とも言えませんが……私のことを狙って見ているというよりかは観察しているような、誰なのか確かめているような感じがしました。私のことを数秒見つめたあと、その眼球は突然ふっと消えてしまいました。
結局、排水溝に詰まっていたのは髪の毛でした。ただ……
どう考えても私のものではない、絶対に一日で抜け落ちるものではない夥しい量の長い黒髪の束でした。私はとにかく気味が悪くて、余計なことを考えずにさっさと掃除してしまおうと思いました。幸い何事もなく取り除けましたし、そのまま捨てました。あれ以降その眼球は一度も現れていませんし、他に変なことも起きていません。でも、気になることがあって……
数日前、不審死の報道があったのはご存知ですか?
最近この近辺に引っ越してきた男性が、自宅の洗面所で亡くなっているのが見つかったんです。その男性は首を締められて窒息死していたようなんですが、彼の首には、その……
明らかに本人のものではない大量の髪の毛が絡みついていたそうなんです。そして彼が前に住んでいた地域で、半年ほど前に女性が行方不明になる事件があったみたいですね。警察は事件性はないとして捜査していたようですが。
……私思うんですよ。証拠はないんですけど。
彼が犯人なんじゃないかって。
行方不明に見せかけて、罪から逃れようとしたんじゃないかって。
私があの時排水溝で見たのは、被害者の女性で。
──復讐する相手を、探してたんじゃないかって。
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