第2話 新生活
私、河北えり奈は、本日からこの広島の1LDKのアパートで独り暮らしを始める。来週からは大学生デビューだ。
先ほど引っ越し業者がいくつもの段ボールを部屋の隅に積み上げて帰っていった。全部で20箱くらいある。今日はこれからこれらの荷解きをしなければならない。
早速、洋服や食器などすぐに必要なものを優先して段ボールから出していく。
しばらく黙々と作業をしていると、懐かしい写真や思い出の品物が出てくる。どの写真を見ても私は写真の端っこで少し微笑んでいるだけ。小学校から高校まで対して友達もおらず、あまり人とかかわらずにやってきた。特にいじめられてもないけど、友達を作るのは得意でなくて、いつも図書館で本を読んだり、勉強をしたりしていた。
「このしおり、懐かしいな~」
手に取ったのは、使い古したフクロウの絵柄が入った和紙のしおり。これは中学の間ずっと愛用していたしおりだった。小学校の卒業祝いで家族で旅行に行った際に行った動物園で見つけたものだ。
その後もたまに思い出の品に手を止めながらもテキパキと荷解きを進めていく。おかげで夜ご飯を食べるころには、ほどんど荷物は出し終えていた。
夕食は適当にカップ麺をすすり、初めてこのアパートでお風呂に入ってみる。お湯を張るのは面倒だったので、シャワーだけ浴びる。
実家を出たのは初めてなので、人の家のシャワーを使っている気分になる。でもこのアパートは築年数もそんなに立っておらず、部屋はもちろん、水回りもきれいなので、快適だった。
お風呂上がりの牛乳を飲みながら、推しを眺める。
私の一番の推しはKPOPアイドルの人で自分と年が変わらないのに世界で活躍していて、ダンスも歌もうまい。韓国人だけど日本語も上手で、かっこよくてかわいい。マジックも得意でたまに動画でさりげなく披露するちょっとしたマジックが地味にすごいのである。
とにかく、この推しは私にとって癒しであり、頑張れる源にもなっている。そんなことはどうでもいいのだが、家では読書だけでなく、こうやって推しの動画を見るものすきなのだ。
まあ、一緒にイベント行く友だちもいないので、直接会ったことはないのだけれど。そもそも応募しても当たらないし。 先週もFC限定のサイン会に外れたばかりだ。
次の日は荷解きの続きと、大学までのルートの確認した。
大学へ向うときはスーパーなどの確認もかねて、近くの大通りを通ってみた。
アパートを出て、目の前の道をまっすぐ歩けばすぐに大通りに出てこれる。車通りもそれなりにはあって、夜暗いときはこの道のほうが安心かもしれないなと考える。
大通りにでたところですぐ右手にスーパーが見える。かいものは基本的にここでいいかもしれない。
そのまま大通りを通って大学に行ってみる。
アパートから歩いて5分くらい。随分と近い。
帰りは最短ルートを通ってみよう。住宅地の中をくねくねするように歩いてみる。初めてのところだから迷わないようにスマホで地図を見ながら、家の方向へと、右左に曲がりながら抜けていく。
すると途中で大きめの古びた建物が見えた。
その建物の壁はツタで覆われていて、一見しただけじゃ廃墟と間違えそうだ。でも窓や、建物の入り口まで続く通路を見るときれいに手入れされていることがわかる。
気になってその建物の前で足を止める。ヨーロッパにありそうなバラをイメージした黒くて細い柵が建物を囲っており、その策にもツタが絡まっていた。
建物の扉もおしゃれな洋風で茶色で大きな両開きの扉のようだ。ドビラの横には看板が設置されている。
「図書館?」
そこにはかすれた文字で”***図書館”と書かれていた。
最初のほうはかすれていて読めない。
読書好きとしては図書館なら行ってみたい気もするが、こんな住宅地の中でしかもツタだらけで、ツタで隠れているがおしゃれな中世ヨーロッパを思わせる雰囲気の建物。場違いすぎて、入る勇気はなかった。
手に持ったスマホの地図でみてもここに図書館の記載はない。
なんか気になるな。。。
この図書館のことが気がかりのまま大学入学までの日々は過ぎていった。
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