第2話【ファンとの遭遇】
「おーい綾斗、帰るぞ」
大学の講義が終わり帰ろうとしていると、小学生の頃からの仲である
「いや昨日はマジでびっくりしたわ。SNS見てたらトレンドにお前の名前が載ってるんだから。どんな炎上したのか見てやろうと思ったらまさかのルナちゃんとのコラボが決まったらしいじゃん」
「なんで俺の名前がトレンドに載ったら炎上したってなるんだよ……」
この隼人という人物は俺がVTuber、
そして俺がVTuberを始めたのも隼人がきっかけだ。
俺の家は母子家庭で、父親は俺が物心付く前に事故で亡くなった。
母親一人の収入でも充分に生活はできていたけれど、俺もバイトをしてお金を貯めておきたいと思ったのだが、家事もしないといけないため家で何かお金を稼ぐ方法は無いかと考えていた。
そんな時に隼人からVTuberという存在を教えてもらった。
隼人からは『お前顔と声は無駄に良いんだしやってみれば案外成功するかもよ?』と言われ、その日の夜にVTuberの配信を幾つか見にいった。
その配信の一つがルナちゃんだ。
ルナちゃんは当時ブイラブに所属しておらず、今の俺と同じように個人勢として活動していた。
チャンネルを開設して間もないのに、チャンネル登録者数は既に十万人を超えており、同時視聴者数も企業勢と同じくらいの人数が居た。
楽しそうに視聴者と会話をしながらゲームをしたり雑談をするルナちゃんを見て、例え人気になれなくても、稼げなくても良いから俺も配信をやってみたいと思った。
その日から俺はVTuberの配信を片っ端から視聴したり、どうしたらVTuberとして始められるのか等を調べまくった。
幾ら必要なのか、イラスト等は誰に頼もうか、機材は何が必要なのか。
費用に関しては今まで全く使わずに貯めてきたお年玉に加え、目標金額に達するまでバイトをした。
目標金額まで達成してからはSNSで好みの絵師さんを探して2Dモデルを依頼した。
色々な準備を重ね、俺がVTuberデビューをしたのは二年前の高校三年生の冬だ。
そして昨日、俺の最推しであるルナちゃんとのコラボが決まった。
今でも夢を見ている気分だ。
「まぁ良いじゃねぇか。とりあえずラーメンでも食べに行こうぜ」
「隼人の奢りな」
「なっ……お前配信でめちゃくちゃ稼いでるんだから奢れよ」
「一応言っておくけどお前の思ってるほど稼いでないからな。まぁ、今はルナちゃんとのコラボも決まって過去一気分が良いから奢ってやらなくもない…………ん?」
隼人と廊下を歩いていると、少し前を歩いている女性が何かを落としたのが見えた。
「……え? 俺⁉」
落としたものを返そうと拾ってみると、それはリスナーから希望されて俺が初めて出した自身のキーホルダーグッズだった。
それも数量限定の特別仕様の方だ。
「本当だ、お前じゃん」
「……あの!」
声をかけると、女性は綺麗な栗色の髪を揺らしながら振り返った。
「私……ですか?」
振り返った彼女を見て、俺は少し固まってしまった。
整った顔、スタイルも抜群で誰がどう見ても美少女だ。
「……あ、これ落としましたよ」
「え!? あ、ありがとうございます!」
そう言って彼女は俺からキーホルダーを受け取った。
「……星之彼方くん好きなんですか?」
「え⁉ 彼方くんの事知ってるんですか⁉」
そりゃ僕が彼方なんで、なんて言えるはずもなく、俺は「はい」と二つ返事をした。
「私、彼方くんの大ファンで……これ凄く貴重なグッズなのでありがとうございます!」
「そうなんですね」
「えーっと、貴方もVTuber好きなんですか?」
「はい、僕は月宮ルナちゃんのファンです」
「ッ⁉ ……そ、そうなんですね! あ、私
そう言って花里さんは笑顔を浮かべた。
「俺は
「えへへ、ありがとうございます! また見かけたら声かけさせてもらいますね!」
花里さんは一度頭を下げ、また今度と言って振り返り歩き始めた。
「……あの超可愛い子お前の大ファンだってよ。全く羨ましい限りだな。僕が星之彼方ですって言ってファンサービスでもしてやれば良いじゃねぇか」
「馬鹿か、そんな事できるわけねぇだろ」
「冗談だよ」
☆
隼人とラーメンを食べ終え、家に帰って来た俺は真っ先にパソコンの前に座った。
「うわっ! マジか」
配信の待機画面を見ると、同時視聴者数が既に二千人も待っていた。
昨日のルナちゃんの配信の影響だろう。
:このゲーム気になって昨日やってみたけど、これならルナちゃんでもできそうだったぞ。
:マジで早くコラボしてほしい。
:ルナちゃんめっちゃ怯えながら待ってそうw
:このゲームの彼方の反応めっちゃ楽しみw
凄い速さで流れていくコメントを見ながら配信の準備を全て終え、俺は配信を開始した。
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