第32話

どうもこのままでは平行線が続いてしまうのではないか?

という思いが頭の中を過ったその時!! 今度は井上馨の方が俺に向かって声をかけてきたのだ。

「どうやら二人の間で何かがあったようだね?」

(やべぇぇぇええ~、もしかして感づかれた?)

そんな思いはおくびにも出さずに俺はその問いに答えたんだ・・・。

もう後戻りなどできる筈がないだろうからな!

当然俺の返事に対するその問いはとてもシンプルなものである!!

「「それは語るべき時が来るでしょう」」

まさにそんな感じで声をそろえて言ってしまう俺たちだった。

そんな二人の答えを聞いた清水寺次郎兵衛からの言葉は非常に冷たい物であったのは言うまでもあるまい! だがここで、俺たちのそんなやり取りを目の前で見せられているこの男がどんな感情を持つのか?

(さすがに俺でもこればっかりは何とも言えんな~)

そんな感想を抱きつつも俺は更に言葉を綴るようにこう問いかける。

「貴方は先ほど言った『この世界』って言葉をどう思われますかな?」

その問いかけに対する彼の反応はと言うと・・・。

見事に混乱した様子を見せてくれたものだ!!

(なぜ『この世界』などという言葉が飛び出てくるのか?)

そんな疑問を抱くのも当然だよな? 俺はそんな疑問に答えようとしたのだが、それよりも先に口を開いた人物がいた。

それは勿論目の前にいる桂小五郎である!!

「どうもこうも無い!俺の目の前には面白そうな奴らが大勢いるって事だけで十分だろうが!!」

俺の言葉を遮る形で発せられたそれは、先ほどの質問に対して『そんなことは考えるまでも無い』という事を示しているようであった。

(それにしても俺が求めていた答えとは違うものだな~)

しかしまぁそんなことも言ってられないし話を続けることにするか・・・。

「ではもう一つだけ聞きたいことがあるのですがよろしいですかね?」

問いかけと同時に俺の顔をマジマジと見つめる清水寺次郎兵衛に

こちらも彼の顔をしっかりと見つめ返しながらその先を口にした!!

「貴方が何故ここに来たのか?それを詳しくお教え願えませんか?」

と。

(間違いなくこの男が『京都編』におけるキーパーソンで間違いはないと思うのだが、彼もまたこの世界にとってのイレギュラー的存在なんだろうか?それともただの暴君なのか??)

そんな思いを抱く俺であったのだが・・・。

そしてそんな問いを受けた清水寺次郎兵衛はと言うと何やら面白げにクツクツと笑い声を上げた後、その口が開かれることになった。

「彼と同じです」と。

何とも要領を得ない答えに困惑していると彼は先を続けるのだった。

「まぁ正確に言うなら『彼と交わした約束を果たす為』といったところでしょうか?ほら!これって貴方達が今必死こいて追いかけてる事件にも関わってくるお話ですからね!」

そんな前置きと共に語り始める彼の言葉は俺の知らない情報の連続だった!! それは桂小五郎が御倉伊勢武こと武市半平太を慕い、彼の進む道を共に歩もうと決心したその裏にある出来事である。

その日は大阪へ向かう旅路の途中であったそうだ・・・。

当時吉田東洋暗殺によって荒廃した江戸には未だ攘夷の動きが根強く残っていた。

そんな中、猛者たちに襲われ傷付き倒れている者を見れば・・・誰だって心配くらいはするものだろう。

何しろ彼は指名手配犯にされていたのだ。

そんな男が命の危機に瀕しているなどと言われれば・・・そりゃあ助けるに決まっている!! それが江戸から追われる身であったとしてもな・・・。

それがあったからこそ、彼は武市にこうも声をかけたらしいんだ!

「すまないが同行させてくれ」と。

(なるほどなるほど・・・。それでそのお眼鏡にかなったってわけか)

「それで貴方は吉田先生を殺したその者たちに報復しに大阪まで足を運んだってことですかね?」

俺のその質問に対し清水寺次郎兵衛はニヤリと笑ってみせた後でとんでもない事を語りだすのだ!!

「いやいや!少し違います。彼らのことなら放っておいてもいいと考えていますからね!」

それを聞いた俺は即座に疑問を口にすることになる・・・。

『ならば何故だ!!』と!!

(まさかこんな大事件を見逃す男がいるなんてっ・・・。こいつの考えがまるで分からんぞ!)

などと思ってしまっていると清水寺次郎兵衛はこんな事を口にするのだ!!

「どうやらまだお分かりでないご様子・・・。では教えて差し上げましょう」

と言って・・・。

「それがただの気まぐれだとすれば?」と。

(何っ?気まぐれだと・・・そんな理由であのような大事にしたというのかこいつは!!)

そんな思いから俺の口からは思わず怒気を含んだ声が漏れていたと思う。

そして同時にこう口にしたのだ!

『ふざけるな!』と。

そんな俺の気持ちとは裏腹に清水寺次郎兵衛はあくまでも落ち着き払っていた。

「ええ、確かにそうですね~。まさかこの私がただの気まぐれでこんな事を起こすわけないじゃないですか!」

(クソっ!そうあっさりと断言されると言い返せんではないか!!)

そんな風に焦る俺を見ても彼は落ち着いたまま続きの言葉を紡いでいく。

「私には野望があってね、それを叶える為に京を出る必要があったのですよ」

などと言って俺を見つめる清水寺次郎兵衛。

(う~ん、野望がどうこう言われても俺にそんなことを求められても困るんだが・・・)

そんな考えに至ってしまうのだが彼から続きの言葉が発せられたのだ!

「そして大阪で知り合った者たちが見事に私の思惑通りの動きをしてくれました!!」とね。

(いやいや全く意味が分からんぞ!?それなのに何故か話の内容が共感できる部分が多いな・・・。まぁそれがかえって怖さを助長させてるみたいだがな)

そんなことを考えている俺とは裏腹に話を続けていく彼。

「それは『攘夷派』として動いてもらうためです!」

彼はそう言うとまるで自分の自慢のおもちゃを親友に見せびらかす子供のように嬉しそうな声でこう続けてくる。

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