第30話

そこまで心の中で思った俺に彼は更なる攻撃を仕掛ける!

「小栗殿ッ」

という声を挙げながら飛び上がった彼に対して清水寺次郎兵衛も呼応する形になるのだが・・・。

(あれか?あの刀での攻撃はさすがに避けなければならないということか!!)俺は彼が繰り出した刀による攻撃をなんとか回避した!!

(いやぁ・・・本当に命のやり取りは怖いもんである!)

(ただ、この相手の攻撃をやり過ごすことができたら少しばかりお話が出来るわけだがね?)

そんな言葉が頭に浮かんでいる俺だが今は彼に集中することとする。

そんな俺の考えが上手くいったのか攻撃を受けて倒れる事になった桂小五郎はそのままその背を地面につけてしまうと完全に意識を失ってしまったようになってしまった。

どうやらあれだけの攻撃を受けては意識を保てなかったらしい。

そんな彼が意識を失っている間にも清水寺次郎兵衛が近寄ってくることになる訳だがさてこれからどういった展開になるのかな・・・。

(やはりあの御仁がいるというのであれば俺も出ないといけないか?」

そんなことを考える俺ではあったがそれを決めるのはまだ早いであろうと考えを改めることになったのだ。

なぜならばあの『尊王攘夷派』の一員である井上馨という男も一緒にいるからだ!! それは何かを探るためにこの場へと来ているらしいんだが、いったい何をしに来たのか俺は知らない。

(だが・・・『この男』は使えるかもしれない!)

「なぁ?そちらのお方はどうしてこの場に?」

だからこそ清水寺次郎兵衛からの質問に素直に答えてやることにした!

俺のその答えは至ってシンプルなものである。

「なに、ただ散歩してただけだ・・・」

そんな彼の言葉を受けると共に清水寺次郎兵衛もまた言葉を返してきた。

『井上馨』の歴史について語るしようか。

彼は第14代将軍徳川家茂が江戸城に将軍として初めて入城する以前、つまりは幕閣時代において水戸藩で大規模な汚職事件を起こして謹慎処分を受けていた人物である。

だがしかし後に彼は許されたかと思えば新たに発覚した横領容疑に対して摘発するために関東各地を飛び回ることになるのだが、そんな時に偶然にも出会ったのが・・・まだ少年であった桂小五郎である・・・。

(それに俺の知る『清水寺次郎兵衛』という人間は水戸学を重んじる穏健派であり尊王攘夷派の中でも大きな存在感を示している人物である)

だがしかしだ、その後彼がどのような人生を歩むかはまた別の話であって・・・。

(この様な場面で実際に彼と出会うとやはり感慨深いものがあるというものだ!)

そんな気持ちに捉われつつも俺は改めてその場の様子を確認するのだが、どうやら話はついたみたいだな!!

さてどういった展開になるのか少しばかり楽しみであるな。

次は『清水寺次郎兵衛』の歴史に語るとしようか。こうして幕は上がることになる。俺の知る彼の歴史に語るべくその口が開くことになるのだが・・・。

俺よりも先に清水寺次郎兵衛が口を開いた!

もちろんそれが始まりの合図でもある。

「小栗殿よ・・・お主どうして今、こ奴のことを『桂』と呼んだのだ?答えろ!」

少し強い口調でもっての問いかけと視線を受けるや家茂はただ微笑むだけに留まったようだ。すると今度はその桂小五郎に向き直り清水寺次郎兵衛が更に言葉を投げかける。

「先ほどお主が言っていた事は誠か?返答によってお主の命は無くなると思えよ」

それに対して桂小五郎も満面の笑顔で答えた。

「なんとも馬鹿馬鹿しいことを!!ここはいったいどこなのだ??『牢屋』だとでもいうのか?ならば俺はそこから脱する事など造作も無いことよ!!!」

その言葉に対して清水寺次郎兵衛の心境がどういった物なのか・・・それは俺には分からないが、彼からすれば目の前の男はよほど気分が悪くなる存在だったらしい。

「悪いがお主にはこれから少々付き合ってもらうからな!おい!この桂とやらを牢屋に入れておけ!!」

そんな命令とも取れる言葉を彼が発した所で、一人の娘が現れ頭を下げながら声をかけたのであった!!

(やっとか~ようやくお初殿のおでましだぞ~)

(このやり取りを見るだけで勝手にニヤニヤしてしまうのだが・・・。お初殿の事だ!どうせこれから上手く『かわす』のだろうなぁ)

そんな思いが心の中で蠢いている!!

しかしそんな事は知らない彼は今まさにこのタイミングで口を開いたのである!!

「失礼ながら・・・それは少し難しいのではないですかな?さすがに『将軍様のお膝元』でそのような無粋な行為は宜しくないのでは?」

彼の言葉を受け清水寺次郎兵衛は多少考える様子を見せた後、彼に述べた。

「・・・確かに将軍のおひざ元で不埒なことは出来んよな?・・・分かった!」

そんな彼の決断に桂小五郎は嬉しそうに声を上げるのだ!!

「ほぉ、話が分かる御仁ではないか!」

(なぁおい!これで俺も牢屋から出られるのか?)

単純にそう考えているのだろう彼は清水寺次郎兵衛にそんな問いかけをしたんだが・・・。しかし彼の口から出たのはそんな思いとは正反対の言葉だったのである。

「何を言っておるこの馬鹿が!この場でお前を牢にブチ込むことなど容易い事だぞ!」

お初殿、ではなくお初殿からその言葉が出たならきっと内心ドッキドキなんだろうが・・・残念ながらここでは清水寺次郎兵衛である!! そんな彼の回答を受けた桂小五郎は笑いながら再度口を開くことにしたのであった。

「ほぉ・・・。ここは俺の知る江戸ではない様だな。将軍様の膝元である俺を牢に入れるとな?そんなことが出来るというのであれば是非見せて欲しいものだなぁ?」

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