第28話
小栗邸の前には火の手が上がっており、焼け跡だけが残されていたのだ。
そこにはまだところどころに焦げた匂いが漂い続けておりとても嫌な予感しかしないわけで……。
(まじかよ・・・)
そんな彼の懸念していた通り家の中で倒れている人物を発見してしまうことになるんだが・・・その者こそが『お庭番(おにわばん)』の元締めであった。
『小栗上野介』とは、後藤象二郎と同じように江戸の時代から『幕末期の重要人物』の一人として名を連ねることになる。
維新後『お庭番(おにわばん)』を幕府の諜報機関として利用することを決めると抜擢することになる。
また同時に松平慶永(まつだいらよしなが)もこれに目をつけて自ら隠密部隊を立ち上げていくことになるのだが・・・。
この2人が現代でも語り継がれていくこととなる『長州系 反幕府隠密組織』の創設者であった。
そんな小栗上野介は慶応2年(1868)3月20日に京から江戸へと戻る途上で襲撃されるという場面にあってしまう・・・。
後にその現場にあった焼け跡を調べるとやはり『清水寺次郎兵衛(しみずでらじろうべえ)』と思われる遺体も発見されたという。
こうして小栗上野介もまた帰らぬ人となってしまったわけだ。
しかしまだ彼を亡き者とした者がいたという・・・。
(ふむ、そういうことか・・・)
と考えながら小栗邸の近くにあったお寺に向かうことにするのだった。
お寺で死んだはずの人間を見かけたら普通はびっくりするよな。
(でも残念ながらそれが幻なんだよなw)
そんな僧侶の死体を見つけた俺は近くの民衆に先ほど見た人間について聞いたところ『あれは田中新兵衛(たなかしんべえ)だ』という答えが返ってきたのだ。
(これは小栗上野介を亡き者にした奴だろうな・・・)
そんな田中の新兵衛という人物については後で登場することとなる人物なのだが、今は省略させてもらうとしてここで一つ重要なことがある。
それはこの『清水寺次郎右衛門(しみずでらじろうえもん)』という人物も長州のお抱えの武士だということだ。
(ってことはさ、この清水寺次郎兵衛って奴も長州のお抱えの武士ってことだよな?)
少し話が逸れるがちょっと調べてみて判ったことがある。
それは新兵衛は小栗上野介暗殺を行った後江戸に逃げ帰るところで西郷吉之助率いる軍勢によって阻止され、殺害されたという記述があったのだ・・・。
もちろんそれを俺が見ていたということは・・・まぁその話には先があるがとりあえず割愛させていただこう。
そしてその新兵衛って奴の死体もまた焼かれた後に発見されているという・・・。
(ちなみにもう一人の小栗上野介暗殺の首謀者である『前原一誠(まえはらいっせい)』の方は首を打たれた後で捕えられて斬首されたみたいだが・・・)
「相変わらずわからない奴らだよ・・・この幕末って時代の連中は・・・」
そんな愚痴を言いながら清水寺次郎兵衛と思われる遺体は埋葬され、空に向かって手を合わせることに・・・。
(なんかまどろっこしいことするなぁ・・・)
と思っていた時だ!
「悠太郎よ。」
そんな俺のもとに連絡が入ってきたのである!! それは今京都にて起こっていることであるが・・・。
(ふむ・・・。どうやら桂小五郎が二条城から脱出するみたいだぞ?)
という報告を受けてしまったのだ!!
(なるほどな、それでは折角なので応援でもしておこうか)
そういうことにした俺は桂小五郎の後を追うことにするのだった・・・。
清水寺次郎兵衛が隠(かく)れていたお寺を後にした家茂は、その足を東へ向けることに・・・。
(さて、もう少しで寺田屋事件のあったあの宿場か・・・)
そんな思いを巡らしていた彼はそこで新たな出会いをすることなる。
それはまるで未来のレールに沿うかのようなものだった!!
「そんな気はなかったんですがね?今となってはちょいとばかり『方便』が必要らしい・・・」
と言いながらその男は刀を振り回してきた!!
(貴様は一体?!)
そんな突然の奇襲に対し対応できなかった家茂はその攻撃を避けつつ相手の様子を見ることとする。
だがしかし、相手は一向に攻撃を仕掛けて来ようとはしない・・・。
「よもや幕府の要人が今(こん)日(にち)の夜更けに出歩くなどとは思いもよりませんでした。」
そんな彼の言葉に対して、家茂もまた口を開くことになる。
「二条城に火を放ちしはそなた達か?それに私は知っておるぞ!!お主達は長州藩の者であろう?」
そんな彼の問いかけに男は軽い笑い声を上げると・・・。
次の瞬間にはその鋭い眼光を向けていた。
「あれについては許せなかったものでね、恨むなら我々『尊王攘夷派』を恨みなされ。」
そう言うと再度刀が迫ってきて家茂はその一撃を受け止めることとなった。
しかしそれと同時にその一瞬の隙をついて相手の懐に潜り込むことに成功し、手に持つ刀を一気に振り上げたのだった。
だが・・・。
男はそれを分かっていたかのように後ろに下がり致命傷には至らずに終わる事にはなるものの、肩に切り傷を負わせることに成功する!!
(・・・どうやら私の攻撃はこの男には通用しそうにはないようだな)
そんな諦めにも似た感情を持った家茂だが、刀を持つ手に再度力を籠めると今度は攻めに転じることにしたのだ。
それから2人の激しい攻防が繰り広げられることになる。
だがしかし実力差は明らかであると共に相手の方に分があるようだ・・・。
徐々に傷を受けていく彼・・・。
そんな状況で彼は心の中で考えていたのだ!
(この御仁!!この男の太刀筋には見覚えがあるぞ?)
そんな確信を得る一方でお互いが一度距離を置くと男が一言口にし始める。
「ご心配なく。致命傷は避けてありますからな?まぁ死期がわずかに延びた程度にしかならんだろうがな」
そう言って笑う彼は既に自らの勝利を確信しているようであった・・・!!
(ほう・・・。この男はまるで私が斬ることができないことを確信していると見える)
そんな彼の言葉に対して家茂もさらに笑い声を上げる。
「ははは、よく分かっているではないか。確かに今(こん)日(にち)の夜更けに出歩いたのは真に不忠者でな、ちょいと『行く所』があってここに来ちまっていたんだが・・・」
そしてその言葉を聞いた男は訝しげな表情を見せた。
「どこへ行くつもりですか?まさか逃げるおつもりで?」
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