エッセイ置き場
江来欠
漫歩
毎秒360度、思考のどん詰まりでいよいよ埒が開かなくなったので外へ出た。と言ってもただ近所を回るだけだ。ぷっくりした腹をなんとかしたいと思いつつ慢性的な運動不足のおかげでますます筋力は低下する。のらくらと過ごしていてもそれなりの危機感は持っているから、底に落ちきる前に動く事にした。
携帯をポケットにしまい、予備薬のポーチを持って外へ出る。扉を閉め、鍵をかける。何かあってはいけないから、いつもなら保険証やら何やら大荷物で出かけるが、今日はもう面倒になって、最低限のものだけで家を出た。
月並みな言葉だが、空は綺麗だと思う。私はそう思えている。幸いな事に。開発激しい私の町でも、見上げれば透き通った水色だ。
歩いていると、二つの白い物体を上空に見つけた。飛行機かと思ったが、それにしては見たことない、細長い形をしていた。くっきりと空に浮かぶそれはゆっくりすれ違って、やがて屋根で見えなくなった。あれはいったい何だったのだろう。
また歩き出して、川沿いをざくざく通り田んぼに出る。視界が開けて、黄金の稲穂が姿を現す。ところどころまだ緑も残っている。田んぼは随分少なくなった。
遠くには山々が、空には大鷲が羽を広げたように巻雲が広がっている。今は純粋に美しいと思う。三年前ここに来た時は、余計に哀しくなって、背中を丸めて、逃げるように帰った。明日が来る事がひたすらに怖く、皆の晩飯も作れなかった。今はできている。あの頃とは違う。
家の隙間から陽光が差し込む。その光に照らされて、フンがきらきら落ちていった。初めて鴉がフンをするのを見た。誰かの庭に落ちたフンを目で探してみたが、見つからなかった。
鴉は電線に止まり、雀たちも各々羽を休めていた。鴉は動かない。じっと田んぼを見つめている。私はまたフンをされたらタマラナイ、と下を駆け抜けた。
遮る場所がなければ、太陽様はその力を遺憾なく発揮する。空を見るには厄介だ。私は手をかざしながら顔を上げた。太い飛行機雲が引かれていた。
帰りはもうすぐそこだった。大して長くもなかったが、まあ十分だろう。
通りを曲がって我が家に着く。多少スッキリはしたが、思考はまたすぐ回りだす。答えの出ない議題を飽きもせず回し車に乗せて、夜が更けていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます