第33話

気づくと、僕は魔王城の自室に戻っていた。

僕はベッドに寝かされていた。

体を起こし、キョロキョロと周囲を周囲を見回す。

ベッドのすぐ横で、ティアさんが椅子に座って控えていた。

なにやら古びた巻物を手に、それを読んでいる。

起きた僕に気づくと巻物をテーブルに置く。

数十個の巻物がテーブルに山となっている。


「おはようございます。

と言っても、深夜ですが」


そう声をかけてきた。

慌てて時間を確認する。

深夜二時を過ぎていた。

そして、愕然とする。

また記憶が飛んでいるのだ。

まただ。


「お気分はどうですか?」


「あの、その」


僕はシドロモドロに返す。


「だいじょうぶ、です」


特に吐き気も頭痛もない。

けれど、また記憶が飛んでいて、さらに初代魔王の墓に入ってから数時間が経過している。

その事実に、僕はまた怖くなる。

得体の知れない恐怖だ。


「そうですか」


「あの、すみません。

僕、また記憶が飛んでるみたいで。

なにか、二人に失礼なことしませんでしか??」


ティアさんは、安心させるように微笑んで首を横に振る。


「いいえ」


嘘には見えなかった。


「とりあえず、なにか温かい飲み物を用意しましょう。

大丈夫です。

怖いことは何もないですから。

むしろ、いろいろわかりましたよ」


そう言って、ティアさんは一時的に部屋を出て、しばらくすると戻ってきた。

その手には、湯気のたつホットミルクが注がれたカップがあった。

ホットミルクを渡されて、チビチビと飲む。

蜂蜜も入っているらしく、優しい甘さに心が緩んだ。


「えっと、それで。

いろいろわかった、というのは?」


僕の質問に、ティアさんは答えてくれた。

初代魔王の墓に入って、僕の記憶が途絶えている前後のことを話してくれた。

どうやら、エリーはしばらく僕が目覚めるまで待っていたらしいが、門限もあったので帰宅させたらしい。

魔王城に来ていた理由は、九代目から適当にでっち上げてもらったとか。

九代目も今回の墓荒らしに関しては、知っている。

ティアさんから報告済みらしい。

とくに怒っているということは無いようだ。


「ツクネ様のもう一つの人格と、九代目も話をしました。

とても面白がっていましたよ。

まさか、自分の剣と話せるなんて、と」


現魔王でもあるのだから、魔剣は僕と九代目の共用となっている。

だから、九代目が魔剣のことを【自分の剣】というのはたしかにその通りだ。


「やはり、九代目もどうしてご自分が魔王に選ばれたのか気になっていたようで、スレ民達と同じ質問をしていました。

九代目の時も」


魔剣はなんとスレで書き込みを行い、スレ民達と交流したらいし。

携帯端末で、僕が立てたスレを確認する。

全く記憶にない書き込みが、僕のコテハンでされていた。


「まぁ、答えは同じでしたけど」


僕は、魔剣がした書き込みを見た。

どうやら、魔剣の人格と魔王を選ぶ機能は別らしい。

しかし、九代目もどうして自分が魔王に選ばれたのか気になっていたとは意外だ。

選ぶ基準について、色々知ってそうだったのに。


「守り人とか柱とか、九代目は色々知ってそうだったのに」


「九代目は、もっと相応しい方がいたのに、どうしてご自分だったのか、ということが気になっていたようです」


「なるほど」


その気持ちはわかる。

僕も、エリーの方が魔王には相応しいと思う。

それなのに、何故僕だったのか。

謎だ。


「そういえば、初代の日記はどこに?」


ティアさんは、テーブルに置いておいた巻物を手にし、見せてくる。

僕が目覚めた時、ティアさんが読んでいたものだ。


「目を通されますか?」


「あ、はい」


ちょうどホットミルクを飲み干したので、空になったカップをティアさんへ渡し、代わりに巻物を手にする。

1万年近くを経た物とは思えないほど、巻物は劣化することなく存在している。

もしかしたら、劣化させない魔法が施されているのかもしれない。

僕は巻物を広げてみた。


うん、全く読めない。


一万年前と現代では、文字が少し違うし、文法も違うのだろう。

全く読めない。


「古代魔族語の勉強のいい教材が手に入りました」


僕の様子を見て、ティアさんがそう宣った。

歴史的資料なのに、教材にしようとしてるところにこの人も中々アレな性格なんだな、と思ってしまった。


「まぁ、授業は後日改めてするとして」


ティアさんは、テーブルに置かれていた巻物の中から一つを取り出すと、広げて見せた。

そして、とある部分を指して言ってくる。


「ここに、魔剣を手に入れた時のことが書かれています」

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