第22話
僕は先輩に、喧嘩技(一般的に言う反則技含む)をいろいろ教えて貰った。
けれど中々、先輩のように動くことは出来なかった。
「まぁ、あとは経験積めばなんとかなるよ。
頼まれたの、保護観察終わったあとで良かった」
ニュースやドラマくらいでしか聞いた事の無いような単語が出てきてギョッとした。
【保護観察】なんて、身近な人から聞くことなんてそうそうない。
「色々勉強になりました」
「勉強になったらダメなやつだからね、これ」
先輩の喧嘩講習は、僕が時間を調整することで受けることができた。
今日は最終日だ。
街中の公園でやると、目立って通報されかねないので、郊外の空き地で講習を受けた。
今のところ、教えてもらった喧嘩技は委員会でも使う機会はそんなになかった。
暴力沙汰のほとんどは、他の委員や委員長が対処しているからだ。
「じゃ、教えることは教えたから」
先輩は手をヒラヒラさせ、帰っていく。
今日はシフトが無いらしいので、帰ったらまた寝ると言っていた。
「ありがとうございました」
僕はこの後、バイトである。
一度魔王城に戻ってシャワーを浴びなければならない。
僕は、停めておいた自転車に跨り、帰宅した。
シャワーを浴びながら思ったのは、不良時代の先輩の方がもしかしたら一番魔王っぽいかも、ということだった。
先輩も人間種族だ。
それにも関わらず、能力的に優位だとされている魔族、その組織からドラゴンを盗み出して暴走行為に及んだというのは、かなり魔王っぽい。
歴代魔王の逸話のなかには、そういう大暴れした話がたくさんあるのだ。
九代目にすらある。
生憎、僕はそういう逸話は残せないと思うけど。
人間の国同士の戦争も、ここ三十年くらいはおさまっている。
この国だって、基本的に平和そのものだ。
シャワーを終え、身支度を整える。
貸与されているコンビニのユニフォームに着替え、ティオさんが用意してくれるお菓子を少し摘む。
栄養補給だ。
バイトに行くまで、まだ少し時間があったので、なんとなくテレビを付けた。
録画した番組のチェックをしようと思ったのだ。
こまめに消化しているが、たまりに溜まっている。
容量のことを考えると、そろそろ観たものから消さなくてはならない。
テレビを付けると、ニュースをやっていた。
人間の国から、勇者の子孫たちがこちらの国に留学してくるとかなんとか。
友好の架け橋に~、というある種お決まりのセリフをニュースキャスターが口にしていた。
「勇者の子孫かぁ、凄いなぁ」
魔王の好敵手的存在だ。
初代から、三代目くらいまでの頃ならまだしも、現代では魔族側も勇者の子孫のことは嫌っていないと聞いている。
ちなみに、勇者は結構多い。
その時代ごとに現れるからだ。
英雄が後に勇者認定されたという話も聞いたことがある。
ふと時間を確認したら、もう出る時間になっていた。
録画番組のチェックは寝る前にやろう。
僕は部屋を出る。
そこには、ティオさんがいた。
「あ、行ってきます、ティオさん」
「行ってらっしゃいませ、十代目」
魔王城を出る。
いつも通り、自転車に跨ってこぐ。
漕ぎながら、
(久々にスレ立てもしたいなぁ)
検査入院のことや、委員会に入ったこと、喧嘩技を教えてもらったことなどを話したいな、と思った。
翌日、昼過ぎ。
偶然にも、夕方まで少し纏まった空き時間を手に入れた僕は、これを実行したのだった。
報告を終え、バイトの先輩のことでスレは盛り上がった。
空き時間はあっという間に消費された。
この後は、ティオさんの授業だ。
その授業のあと。
僕は再び携帯を操作して、掲示板を覗いて見た。
すると、特定班さんが書き込みを行っていた。
「……わかった、かもしれない?」
僕は、その書き込みを読み上げた。
意識を失う、あの症状について特定班さんは何かを掴んだらしい。
その呟きが聞こえていたのだろう。
授業の後片付けをしていたティオさんが、こちらを見てきた。
僕の隣に来て、携帯の画面を覗き込んでくる。
九代目にも、話を聞いた。
しかし、九代目にはそんなことはなかった。
八代目の行方は未だわからないままだった。
歴代魔王を輩出してきた、ラングレード家、ヴェリドット家、クォールスロー家には史料の提供をそれとなく依頼していたらしいが、なにかしら勘ぐられているのかやんわり拒否されたとのことだった。
一応、代替わりこそしているが、こういう事に隠居した前当主達が口出ししているのだろう、というのがティオさんの考えだった。
エリーや、生徒会長、副会長、風紀委員長のお爺さん世代だ。
そういえば、ちょっと前に暗殺云々の話をエリーにしたことがあった。
彼女は大笑いした。
少なくとも、自分の親世代はそんなことはしないと言っていた。
その時は聞き流したのだけれど、つまりその上の世代は、そういう事をしかねない世代なのだろう。
お手上げ状態だったところに、この朗報はとても嬉しい。
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