第20話
その日から数日かけて、僕は各委員会を見学した。
殆どの委員会は、昼休みに活動するところが多かった。
必然的に、放課後活動するところは候補から省かれることになる。
その中に、図書委員も入っていた。
当番制とはいえ、放課後に図書室で貸出の仕事があるからだ。
活動もほとんど委員会が当番制で行っている。
週一回、月曜日に全ての委員会で、放課後十分から三十分程度のミーティングが行われる。
このミーティングの時間は、委員会によってことなるが部活動もあるので最長三十分ほど、と決められているそうだ。
「そんなに図書委員になりたかったの?」
エリーが見学に付き添ってくれたのだが、僕の落ち込みをみて訊ねてくる。
「まぁ、ね。
小学校と中学校でやってたし。
古本屋に先生と出かけて、本を選ぶの楽しかったから」
「本、好きなんだ?」
「物語が好きなんだ」
少しだけ、現実を忘れられるから。
母が日に日に弱っていって、死に近づいている現実から逃げるときに頼ったのが、昔から好きだった物語だった。
でも、こんなの一々人に話すことでもないので、当たり障りのない返答をした。
「そっか。
ねぇ、別に風紀委員でもいいと思うよ。
これからのこと考えるなら」
言いつつ、彼女は僕の右手へ視線を落とす。
「これからのこと?」
エリーはキョロキョロと周囲を見回す。
幸い、ここはほとんど人がいない渡り廊下だ。
誰も居ないことを確認すると、彼女は言ってきた。
「魔王として周囲を認めさせるなら、風紀委員はその実績作りにちょうどいい。
それに、表向きの理由にも使える」
「表向きの理由??」
「まだ魔王って公表できないんでしょ?
なら、生徒会から直々に勧誘が来たってそのまま理由になるし。
進学、就職の時に有利になるから選んだって言えば、不自然じゃないよ」
妙な説得力があった。
進路で有利になる、というのはとても魅力的だった。
そして、選ぶ理由としての不自然さが無いことにも惹かれた。
僕は今でも、魔剣を抜くことができたのは、そして魔王に選ばれたのは何かの間違いだと考えている。
だからいつか、その間違いが正されて僕がここから離れる日が来るんじゃないかと思う。
「それに、なにかあったら私が支えるから。
私と一緒に風紀委員やろうよ」
「……それは、他の委員会を見学してからね」
僕の返答に、彼女は少し残念そうにするのだった。
そうして、数日かけて各委員会を見学した。
どちらにせよ、図書委員は定員数に達していたので入れなかったことがわかった。
「仕方ない、か」
希望していた他の委員会も似たり寄ったりな事情で、入れなかった。
そして、見学最終日。
僕は、風紀委員を見学することとなった。
風紀委員も、図書委員と同じく放課後にも活動がある。
けれど、これは風紀委員長と相談すれば融通を利かせてくれるとのことだった。
というのも、部活動をしている生徒が大半なので、その生徒の予定とすり合わせることが多かららしい。
この日は、様々な偶然が重なって、バイトのシフトが何も無い日だった。
こういう日はたまにある。
魔王に選ばれる前だったら、図書館に行って時間を潰していたことだろう。
「今日はバイトないの??ほんとに??」
昼休み、エリーが何度もそう確認してきた。
風紀委員の見学に行く途中のことだった。
「うん。
とくに、計画したわけじゃないんだけど。
たまにこういう日があるんだ」
「なら、今日は放課後も見学できるね!」
エリーは、とても嬉しそうだ。
「……うん」
僕の症状は、結局原因不明。
なんで魔剣を抜くことができたかも、不明。
つまり、魔王選ばれた理由がわからなさすぎる。
この数日、各委員会の見学をして感じたのは、魔王候補はその序列さえ抜きにすれば、なりたい人は非常に多いと言うことだった。
そして、相応しい人も沢山いた。
なのに、何故僕なのか。
九代目は、【守り人】とか言っていた気がする。
そういえば、その話はまだされていない。
守り人。
つまり、何かから何かを守る人、という事だろうか。
生憎だけれど、僕にはそんな力は無い。
エリーの方が強いし、魔王に相応しいと思う。
エリーに限らず、魔王になる為努力している生徒は多くて。
僕はその姿を見る度に、心苦しくなってしまう。
もちろん、全員が全員ってわけでもない。
リュークのような生徒もいる。
リュークは、決闘の翌日に僕にこういった。
『お前、強かったんだなー。
いいなぁ、才能があって』
それは、悪気なく言われたことだった。
嫌味もなにもない。
素直な、リュークなりの賞賛だった。
でも、僕は僕のことをよく知っている。
僕には才能なんてない。
そして強くもない。
それこそ、努力だってしていないのだ。
だから、とても心苦しかった。
仮に、このまま僕が十代目としてやっていくのなら。
今のままじゃいけないんだよなぁ。
委員会見学をして良かったと思ったのは、考え方の視野が少しだけ広がったことだ。
そういう意味では、嫌がり過ぎるのも良くないな、と思い始めていた。
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