第6話

魔王様の言葉が、妙に引っかかった。


「柱?守り人?」


魔王様は妖艶に微笑んだ。


「まぁ、その話も教育係にしてもらえばいい。

彼の家の者は、皆いい家庭教師だったぞ」


そう言って、魔王様は僕の自宅のドアを破壊して、さらにここまで連れてきたイケメンを見た。


「そういえば、名前きいてませんでしたね」


僕はふと、彼の名前を知らないことに気づいた。


「ティオドロと申します。

ティオとお呼びください」


「ティオさん、ですか」


「呼び捨てで構いませんよ」


年上を呼び捨てになんて出来ない。

バイト先の社員さんやパートさんたちもこうやって呼んでるからだ。

そう説明すると、渋々納得してくれた。


「魔王は多忙だ。

仕事の引き継ぎもしなければならないし。

そもそも学ぶことが多いからな。

学園にも入らなければならないし」


なお、拒否権はないとのことだ。

次に魔王様は、簡単なタイムスケジュールを渡してきた。

それをみて、僕は叫んだ。


「バイトどうしよう?!」


魔王様が首を傾げる。


「バイト?」


僕は、自分の身の上を説明した。

てっきり、とっくに何もかも調べあげられていると思ったのだ。

しかし、そうでは無かった。


「ふむ、そうか。

ちょうどいい、今後のことも話し合っておこう」


僕の事情を聞くと、魔王様とティオさんが今後の予定について擦り合わせをしてくれた。

基本、休まず毎日バイトに出ていると言ったら、ちゃんと休めと叱られた。


「そういうのは体力貯金なんだ。

今はいいが、人間だと三十代超えたあたりから色々と体に症状が出てくるからな。

体力貯金を使い果して」


やけに詳しいな、九代目。

もしかして、人のことが好きなのかな。


「というか、働きすぎですね」


「そうですか?」


こんなやり取りをした後、僕はそのまま別の部屋へ移動させられた。

部屋を見渡す。

ホテルの客室みたいだ。


「今日はここでお休み下さい」


「え、でも荷物とか」


というか、自宅のドアが壊されたままなんだけどなぁ。


「それに、明日も早朝からバイトがあって」


「…………」


なんか、ティオさんに物凄く塩っぱい顔をされてしまった。

きっと、『こんなんが、次の魔王かぁ』と思われているに違いない。

とりあえず、一旦荷物を取りに戻ることとなった。

と言っても、着替えや歯ブラシ等必要最低限のものだけだ。

あとは、通帳と印鑑などの貴重品。

そして、自転車。

自転車を押しながら、ティオさんと一緒に再度魔王城まで向かう。


「調整や、目くらましとしての言い訳も考えなければなりません」


その道すがら、ティオさんはそんなことを言ってきた。

魔王学園に転入したり、諸々の手続きがある。

そのためには、適当な話の分かる魔族の養子にならなければいけないらしい。

魔王学園は一応名門校だ。

天涯孤独の孤児でも入れなくはないが、両親がいるのといないのではやはり違ってくるらしい。

両親が揃っている、というのはそれだけでポテンシャルが高いのだ。


離婚や死別による片親なんて珍しくもないのに。

現に、中学の頃の同級生には片親家庭の子はいた。

なんなら、家の事情で孤児院に預けられた子供だっていた。

これは、自分が片親育ちでさらに現在は天涯孤独になったから珍しくないと感じてるだけなのかもしれない。

別に寂しいとか悲しいとか、僕自身が可哀想な存在だと思ったことは一度もなかった。

哀れんだ視線を向けられるのは、気持ち悪かったけれど。

でもそんなのは無視してれば良かった。

いちいち目くじらを立てて怒るほどのことでもなかった。


「まぁ、おいおいですね。

とにかく、これからよろしくお願いします。

十代目」


ティオさんが、そう言ってくる。


「……十代目?」


「えぇ、貴方は十代目の魔王として選ばれたのですから」


「名前でお願いします」


なんか、反社組織のボスみたいで嫌だった。

けれど、ティオさんは僕のことを十代目と呼ぶことに決めたらしい。

そう呼んでいるところを魔族、それも魔王候補の誰かに見られたら一発でバレそうだ。


「もちろん、人前では言いませんよ」


僕の思考を読んだのか、ティオさんはさらにそう続けた。

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