秋の散歩道

砂上楼閣

第1話

いつも通り、携帯のアラームで目を覚ます。


朝起きて感じるひんやりとした空気。


ほんの一月やそこら前までは寝苦しい毎日だったと言うのに、今では布団の温もりから脱するのも一苦労だ。


暑さと温もり、温度の差でしかないはずなのにこうも感じ方が違うのは面白い。


なんて事を考えていたら2度目のアラーム。


枕元で振動し続ける携帯に伸ばした指先に冷えた感触。


こんなに冷え切って可哀想に。


携帯と共に再び毛布に包まれる。





せっかくの休日、特にやることはない。


いや、普段やりたいと思うことはいくらかあるが、なんとなく今日でなくていい気がする。


カーテンの隙間から差し込んでくる朝日からそっと目を逸らす。


このまま、毛布に包まれたまま、幸せな時を過ごす。


それのなんて魅力的なことか。


二度寝どころか三度寝なんてそうそうできる事じゃない。


しかし悲しいかな、休みだと言うのにいつになく頭がはっきりとして、気持ちと体が軽い気がする。


それに太陽がのぼってきたことで、少々布団に包まり続けるには暖かい。


空気は冷たいのに日差しは暖かく、布団がなければ寒いのに毛布に包まると暑い。


いつの間にか全開のカーテン。


仕方ないと起き上がる。




いつもより少しだけ遅い朝食を食べて一息つく。


ふいに窓の外を見れば、紅葉に色付く近所の空き地が見える。


なんとなく、散歩したくなった。


窓の外に広がる景色は変わり映えしないが、どこかいつもより鮮やかに見えた。


気分が変わらないうちに着替えて、靴を履いて外に出る。


風もなく、ややひんやりとした空気と、少しだけ眩しい日差しがちょうどいい。


これは絶好の行楽日和というやつだ。


目的地は決めず、気が向くままに歩き始める。





しばらく行くと学校が見えてきた。


校庭の周りを彩る紅葉とイチョウ。


早くも根元に落ち葉を落としているのは桜の木だろうか。


鮮やかに色付いて、目を楽しませてくれたと思えば、ひと雨きたらたちまち儚く散ってしまう。


春の桜に秋の紅葉。


どちらもその時にしか楽しめない。


もう少し遠くに行ってみようか。





古書店を見かけた。


足元に転がる金属片が見た事のない形をしていた。


フェンスに片方だけ手袋がぶら下がっていた。


落ち葉をはく女性がいた。


そんな何気ない景色も、普段は視界に入っていても意識していなかった。


近所の道が、なんとなく真新しく感じる。


線路沿いの道に出ると、遠くで電車の甲高い音がした。


そして前から小さく、少し遅れて後ろから大きく踏切の音。


ああ、前から電車が来るんだな。


間も無くやってきた電車はあまり見かけない形と色。


特急かな?


なんとなく、電車に揺られたくなった





満員ではない電車は久しぶりだった。


余裕を持って腰掛け、横に流れていく景色をぼーっと眺める。


途中ベビーカー押す若い女性が乗ってきた。


ベビーカーで偉そうにふんぞりかえる赤子は恐れるものは何もない、そんな満足げな表情。


まったく赤子は可愛らしい。


しかしもぞもぞと、収まりが悪いのか体を小さくもだえさせている。


ついには片足をベビーカーのふちに、もう片足はなんと口元へと持っていってしまった。


そんな姿勢で、リラックスできるのだろうか?


それより、なかなかに柔軟である。


こっちは毎朝靴下を履くのも四苦八苦するようになってきたというのに。





そんな感じに電車で揺られる事数駅分。


戻りは歩こうかな、そんな事を思って実行した自分を呪いつつ歩く帰り道。


一駅ならよかった。


二駅過ぎると足がきつい。


三駅目も歩くかどうか悩んで、ここまで来たのだからと歩き始めた自分が憎い。


いつの間にか太陽も高く、日差しも強い。


じんわりとかいた汗が少しだけ不快だ。


行きは見上げた紅葉を、帰りはとぼとぼ下に見て。


家に帰れば、まぁなんだ。


たまにはこう言う日があってもいいかと現金なもの。





そんなとある秋の散歩道。

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