クーちゃんはASMRで安眠させたい

雨竜三斗

プロローグ:クーちゃんのしたいこと、されたいこと

あー、こんなところで授業サボってるー!

いけないんだー。


畳の上でゴロゴロしちゃってー。

茶道部の部室だよー?


えっ? クーちゃん?

そりゃ~、もちろんクーちゃんもサボりだよ。


だーかーらー、お互い様だね。


でもでも、クーちゃんはね、

友達のフーちゃんに使っていいって

ちゃーんと許可もらってんだよ~。

きみは~ふほーしんにゅー。


ま、いいけどね~。ゆるゆるすごそうよ~。


ん~、ふたりでねんねもいいかもだけど……そうだ!


お昼寝するなら~、枕がほしくな~い~?


茶道部の部室に枕があるわけないって?

あるんだよ~。

ぽんぽん。


クーちゃんの膝枕、使ってみない?


いいじゃんいいじゃん。

クーちゃん、膝枕するの好きなんだ~。


いくら畳が良くても、

そのままゴロゴロしてたら首痛めちゃうよ。

えんりょしないの~。


ぽふっ。


えへへ、いらっしゃ~い。

見つめ合うの恥ずかしい?

じゃ~きみは目をつむっていいよ。


クーちゃんは見ちゃうけどね。


ふふっ、なんか落ち着くね。

ひとりでサボるより、

誰かといっしょにサボったほうが気が楽なのかな?


こらこら、リラックスしてもいいけど、

モゾモゾされるとくすぐったいよ~。


そんなことすると、耳かき、しちゃうぞ~。


綿棒なんてどこから出したんだ?って?

なんで耳かき?って?


好きなんだ~。

自分にするのも、他人にするのも。

だから持ち歩いてるんだ~。


耳かきってすっごい気持ちよくて、

ひとによってはちゅーどくになっちゃうんだよー。

げんだいびょーだね。


耳かきの気持ちよさ、感じてみたいよね?


うんうん、今度は素直になれてえらいぞ~。

ささ、横向いて横向いて~。


んっ……。

大丈夫、ちょっとくすぐったかっただけ。


さ~て、お耳はいけーん。どれどれ~。


ちょーっと汚れてるって感じかな?

耳かきの気持ちよさを知らないから、

普段からキレイキレイはしてなかったでしょうし、

しょーがないねぇ。


クーちゃんがキレイにして、

気持ちよくしたげる。

じっとしててね。


まずは外側から……。

かさかさ……さわさわ。


きみの耳っていい形してるね、かわいい。

かしかし……くしくし……しょりしょり……。


えへへ、女の子に……『かわいい』って

言われるの恥ずかしいかな?

それとも嬉しかった?


そりそり……こすこすかりかり……。


あららノーコメント。

クーちゃんはいいと思うよ、かわいい男の子も。


もちろん、かっこいいお耳でもあるよ。

どっちにしてもわたし好みってことかな。


ふ~っ……。


ぴくぴくってしちゃったねぇ。

みんなお耳ふ~は弱いからしょうがないよ。


外側キレイになりました~。

次は、お耳の中のお掃除するね。


まだやるのかって?

お耳かりかりは、ここからが気持ちいいんだよ~?


それじゃ~。あまり動かないでね、ずぷぷ……。


くるくる……ぞりぞり……

きみ、口元ニヤってしちゃってる。

かりかり……って耳かきするの、

やみつきになっちゃうのわかっちゃうよね。


ずりずり……ぐりぐり……

それも女の子に膝枕されながらだもん。


クーちゃんに耳かきされたくて

また授業サボっちゃう、

なんてことあるかも。


ぐるぐる……そりそり……

そんな目をしてどうしたのかな?

そんなことしないって強がりさんかな?


耳垢さん取れてる。


ティッシュで綿棒ふきふきして……。

ふ~。


お耳ふ~で体ほぐれたところで、

再開するよ……ず~っと。


くるくる……すりすり……。

そのままりらっくすだよぉ。

肩とか、顔とかのちからを抜いて、息を整えて。


かしかし……そりそり……

耳かきの音とクーちゃんの声にしゅーちゅー……。


眠たくなったら、

寝ちゃっていいんだよぉ。


しゅりしゅり……かしゅかしゅ……すりすり……。


慣れないことされて寝付けないかな?


大丈夫、そのうち慣れてりらっくすできるよ……。


ふっ、ふっ、ふ~っ。


はい、右耳おしまい。

反対側もしたげるよ。

はい、ごろーんってして。


んっ、そうそう、すなおがいいよ。

いいこいいこ。


寝返りだけで褒められるの変な気分?


いいのいいの。

ひとはみんな生きてるだけで偉いんだよ。


授業サボっちゃうのも、

ちゃんと休めて偉いんだから。


もちろん、クーちゃんがきみの耳掃除したことも、

偉いって褒めていいんだよ。


またノーコメントかぁ。

じゃあ、クーちゃんに褒め言葉が言いたくなっちゃうような、

上手な耳掃除しちゃお~っと。


また外側の溝から、キレイにしていくねぇ。

……じょりじょり……かさかさ。


ほらきもちーきもちー。

お顔だらしなくっちゃうの、

がまんしなくていいからね。


ここにはきみとクーちゃんしかいないから、

がまんないないだよ。


……さわさわ……けしけし……かしゅかしゅ。


ちょっと幼稚な言い方しちゃったのに、

なにも言ってこないねぇ。

もしかして、おねむかな?


……さわさわ……かしかし。


そいえばきみは、お昼寝しに来たんだったね。


ねんねしていいよ……。

クーちゃんが見守っててあげる。


耳の中、かりかりもしたげるからね。

お耳気持ちよくなりながら、

気持ちいいお昼寝だよ。


クーちゃんはきみに耳かきするの楽しくなっちゃったから

……お耳の中、ずぷぷ……。


ぐりぐり……ずりずり……。

もうちょっとで寝れそうかな?

起きたら忘れちゃってもいいお話しよっか。


かしかし……さわさわ……。


きみは好きな女の子っているかな?

どんな子がタイプかな。


お姉さん系? イタズラっこ?

どんな子がタイプでもクーちゃんは笑わないよ。


ほら、マンガだとかんけーなさそうだった男女が、

恋に落ちちゃうって多いじゃん?

ちょうど、きみとクーちゃんみたいに。


だ・か・ら、

クーちゃんときみも、同じだよね。

意外と相性いいかもよ。


ふ~。

ぴくぴくってしてるけど……

どうしちゃったのかな?


クーちゃんはもしもの話をしてるだけだよ~。

もしかしてその気になっちゃった?

なっちゃう?


……じょーだんじょーだん、

もんもん考えないで、

今は耳かきの音を楽しんで。


って、寝ちゃってるのかな。

ぞりぞり……こそこそ……。


なんだか熱いね。夏だからかな?

さわさわ……ぐりぐり……。


きみの顔見てるとドキドキ……してくる。

なんでだろうね?


寝顔がかわいいから?

スヤスヤ寝息が聞いてて落ち着くから?

耳がクーちゃん好みの形をしてるから?


しょりしょり……こしょこしょ……。


そっか、きみの体温がクーちゃんに移ってるんだ。

膝枕して密着しちゃってるからね。なるほど~そうかも。


でもきみにもっと耳かきしてあげたいし、

頭なでなでもしてあげたいし、

他にもいっぱいしてあげたいこと、思いつくんだ。


こうしてふたりっきりで、

きみにしたいこと……。


ちょろろろろろ……

ってコップにお水が注がれる音とか

川のせせらぎに耳を傾けたい。


もみもみ、さわさわ……

って肩や頭のマッサージをしてあげたい。


かきかき……

たまには真面目にいっしょに勉強もいいかも。


そうしたら、とん……とん……って

背中やお胸を優しく叩いて寝てほしいな。


分かっちゃった。

クーちゃんね、君のこと――

キーンコーンカーンコーン。


あ、授業終わっちゃった。

サボりはおしまいかな。


起きてよ~。

きみが起きないとクーちゃんも立てないんだよ~?


……しょうがないなぁ。

次の授業もサボろっか?



うん、いい感じに撮れてたなぁ。


ま、本物の茶道部の部室使わせてもらってて、

たっかーいマイクで撮らせてもらって、

台本も考えてもらって、

気持ちいい囁きや耳かきの方法も教わってるから、

いい感じじゃないと困るくらいかも。


わたしはイヤホンを取って

ノートパソコンに向き合った。

動画配信を開いて投稿の設定を始める。


かわいく作ったサムネをアップ、

一週間くらい考えた説明文を打ち込んで、

師匠に送ってもらった動画ファイルを選んで……、

不備はないね。


動画を投稿したり配信を始めたりするのは

いつもドキドキする。


もしかしたら、恋もこんな感じかもしれない。

シチュエーションを演じたことはあっても、

高校生になった今も本当の恋をしたことはない。


動画を見てもらえるかの不安は、

ラブレターを見てもらえるかの不安と同じ。


動画のコメントをもらえるのは、

ラブレターの返事がもらえるのと同じ。


そして、動画を見て聞いてステキな感想がもらえるのは、

恋が叶うのと同じ。


かもしれない。


ちょっとロマンチックがすぎるかも。

モニターに目を戻して、指を動かす。


投稿っと。


ちょうどいい時間に投稿できたし、

これでみんなも安眠してほしいなぁ。


そうしてもらうのが、

わたし、クーちゃんにとって恋するのと同じ価値があると思う。


もちろん、感想をくれたら恋が叶うのと同じくらい嬉しい。


この動画も『よく寝れた』って感想ほしいな。

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