36
父である公爵とリアムがあの二人を完全にシャットアウトしてくれたお陰で、暫くは静かで穏やかな日を送れていた。
手紙や贈り物なども毎日届いていたらしいが、その辺は使用人達が上手く目の届かない所に隠してくれた。
だが一週間が過ぎた頃、業を煮やしたジェフリーがリアムの目を盗んで
団長としてあるまじき行為だが、それだけベルベットに会いたいという事なのは分かる。が、それとこれとは話が違う。
「突然すまない……叱責してくれてもいい。だが、少しだけ時間をくれないか?」
頭を下げ懇願するジェフリーに強くは言えず、仕方なく少しだけと言う約束で話を聞くことになった。
きっと気配に気付いたリアムが影から見張ってくれているだろうし大丈夫だろう。後から小言は言われるだろうけど、そこは承知の上だ。
「……体調の方はどうだ?」
「お陰様でこうして動けるほどになりました」
「それなら良かった」
ホッと安堵するかのように柔らかな笑みを向けられ、思わず胸が飛び跳ねた。
ゲーム内でもジェフリーの笑顔は貴重で、ジェフリーの笑顔を集めるスチルが流行ったぐらいだ。
そんな笑顔を向けられてときめかない者がいたら見てみたい。
「それで?私に用が?」
誤魔化すかようにベルベットが話をふった。
「ああ……どうしても伝えておきたくてな」
そう言うなり、片膝をつきこちらを熱い目で見つめてくる。騎士が跪く行為は敬意・服従・忠誠心を表し求愛行動の一つにも表れている。
ベルベットは慌てて止めさせようとしたが、ジェフリーの真剣な瞳にグッと言葉に詰まってしまった。
「俺……いや、私はベルベット嬢、貴女を愛している」
言っちゃったし聞いちゃった……
出来る事ならなかったことにしたいが、目の前の人物はそれを許してはくれないだろう。どうしようかと悩んでいると「抜け駆けですか?」と背後から声がかかった。
振り返るといつもの微笑みは消え、強張った顔をしているロジェが腕を組んで立っていた。
「随分と卑怯なことをしますね」
「お前に言われる筋合いはない」
お互いに睨み合いながらそんなことを言い合っている。それに関してはごもっともだと思うが、今はそこを気にするところじゃない。
「ロジェまで……どうして?」
ベルベットが声を振り絞ったように言うと、ロジェはいつもの笑みを浮かべながらベルベットの傍に寄って来た。
「ようやく承認いただけましたので、ご挨拶に伺ったのですよ」
「なんの……?」と戸惑っているベルベットの手を優しくロジェが取り、ニヤッと口角を吊り上げた。その顔は完全に獲物を捕らえたようで満足気であるが、その瞳の奥には狂気めいた何かを感じゾクッと粟立った。
「先にベル。私とそこの騎士。どちらと添い遂げたいと思ってます?」
「ん?」
「ああ、失礼しました。私の気持ちもお伝えしなければいけませんね。ベル……愛しております。この世にある何よりも貴女だけが私の生きる理由の全てです」
狂気めいた目で言われ、言葉一つ一つが重く感じて眩暈がする。
「おい、ベルベット嬢が困っているだろ!!……大丈夫か?」
「え、ええ。ありがとうございます?」
ジェフリーが間に入ってロジェを引き離してくれたおかげで何とか気を失う事だけは避けられた。が、状況的には何も変わっていない。
「まったく、これだから騎士言う者は荒っぽくていけませんね……」
「なに?」
「おや、失礼。気に障りましたか?」
「貴様……!!」
クスクスと嘲笑いながら言うロジェをジェフリーが睨みつけている。一発触発の雰囲気が漂っているが、ベルベットはこのまま流れが変わればそれに越したことはないと内心思っていた。
「貴様なんかにベルベット嬢は渡せん!!」
「それを決めるのは貴方ではありませんよ」
二人同時にこちらを振り返られ、思わずビクッと肩が跳ねた。
「さあ、ベル。どちらです?」
「俺だよな」
「えっと……」と言葉に詰まるベルベットに、二人はじりじりと距離を詰めていき壁際まで追い詰めた所でベルベットが叫んだ。
「お、お二人から一人を選ぶことなんてできません!!!!」
その言葉を聞いた二人はピタッと動きを止めた。
「ようやく諦めてくれた」そう思ったが、二人は溜息を吐きながらお互いに向き合った。
「そう言うと思っていましたよ……仕方ありませんね。ここでどちらか選んでいただけたら良かったのですが……」
「俺を選んだ場合、大人しく引き下がるのか?」
「まさか。奪い取るまでです。貴方だってそうでしょ?」
「当たり前だ。やはり、先に話合っといて正解だったな」
二人はベルベットの答えを聞く前から知っていたような素振りで話を進めている。
「予定通り
ロジェの溜息交じりに言い放った言葉にベルベットは困惑を通り越して驚愕していた。
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