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『なるほどね。こういう感じになるのね……完全にやられたわ』


 そう言いながらゲームを手にしているのは前世の私。


『まあ、確かに愛を通り越した何かがあると思ったのよ』


 ニヤニヤしながら独り言をつぶやいているが、こちらには何の事だかまったく分からない。


(ちょっと、今日こそは教えてもらうわよ!!)


 息巻きながら私を見つめる。

 すると、寝返りを打ちながら楽しそうに口を開いた。


『紳士だと思っていたジェフリーが執着系男子。誠実だと思っていたロジェは支配系って……制作者なかなかいい趣味してるわ』


 きゃはははは!!と夢の中の私は楽しそうに笑っているが、現在ゲームの世界こちらにいる私はまったく笑えない。


(まさかそんな裏設定があったなんて……)


 いや、薄々は感じてた。ただ、自分が悪役ポジションだからと気付かないフリをしていた節はある。


 今やこの世界はゲームの世界であるがゲームとは無関係な世界になりつつある。

 その証拠に悪役であるベルベットがジェフリーとロジェと親密な関係になりつつある。じゃなきゃ、監禁なんてされない。


『この設定賛否両論出るとは思うけど、独占欲とかってそれだけ愛されてる証拠だもんね。私はこっちの設定の方が好きだなぁ』


 呑気にそんな事を言っている自分を後ろから思いっきり殴り飛ばしたい。


(前世の私!!それは違うわ!!)


 前世はそう考えられたのかもしれない。所詮ゲームだからなんとでも言える。だが、現実は?


(正直、恐怖でしかない)


 ブルッと身震いせずにはいられない。


 まあ、裏設定が分かっただけでも収穫だと思おう。と、結論が出たところで遠くからベルベットの名を呼ぶ声が聞こえてきた。


 そろそろ目が覚める時らしい。こうして、前世の自分を見るのは最後かもしれない。そう思うと少し寂しい気持ちもあるが、いつまでも前世に縛られる訳にもいかない。


(さよなら、前世の私……)


 そうして、ベルベットは目をゆっくり開けた──……



 ◈◈◈



「ここは……」


 そこは山中の家ではなく、懐かしいダグラス公爵家のベルベットの私室だった。


「ああ、目が覚めた?」


 呆然としているベルベットに声を掛けたのはリアム。


 リアムは窓枠に腰かけながら、外にいるであろうネリーに目が覚めたことを伝えていた。


「え?リアム、これはどういう事?」


 状況が読めず、狼狽えながらリアムに問いかける。


「それは私から話そうか」

「お父様!!」

「久しぶりベル。災難だったね」


 労うように優しく声を掛けてくれた。久しぶりに会う父は少しやつれた感じがして、気苦労させてしまったんだなと申し訳なく思った。


 そして、そのままベルベットの傍によると、眠っていた間のことを話して聞かせてくれた。


「単刀直入に言うと、ベルを嵌めた二人はもうこの国にはいない。当然ベルの国外追放も白紙になった。また一緒に暮らせるんだよ」

「え?」


 父であるダグラス公爵は嬉しそうに微笑んでいるが、ベルベットは困惑していた。


 私を嵌めた二人って……


「王子と聖女だ」

「団長様!?」


 再びドアの方から声がかかって見ると、そこには団長のジェフリーが立っていた。


「君の従者から言われた言葉が引っ掛かって城に戻って来たのだが、すでに君のお父上が調査を終えていてな」


 ジェフリーが公爵の方を見ると「当然」とばかりに鼻を鳴らしていた。公爵はベルベットがこの国を出たその日から王子と聖女の事を調べ上げていた。

 そこで明らかになったのは、ベルベットに悪人に仕立て上げる事だけではなく国庫金まで使い込んでるのが分かった。

 その事実を告げられた王子は開き直って「自分は国王になるのだから自分の金を使って何が悪い!!」と騒ぎ立てらしく、流石の陛下も「育て方を間違えた」と自身を悔いたらしいが今更だ。

 全ての責任は自分にあると、一人息子である王子を廃嫡。ほぼ無一文で国外に追放されたらしい。国王自身も後任を見つけ次第王の座を降りると明言した。


 聖女であるシャノンは野放しにするのは危険だと、最果ての修道院に送られたらしい。その際、暴れて大変だったとジェフリーが苦笑いを浮かべた。


「だから君を脅かす存在はここにはもういない」


 そう優しくジェフリーと共に公爵も微笑んでいた。だが、ベルベットにはもう一人気になっている人物がいる。


「えっと……」

「母親の方も大丈夫ですよ」


 公爵の後ろから現れたのはロジェ。隣国のロジェがなぜここに?と更によく分からない状況だか、先に話を聞くことにした。


「大丈夫とは?」

「母親の方は気が触れたような状態で見つかり、会話すら出来る状況ではないのでそのまま幽閉ということになりました」

「え、何故そのような状態に?」

「まあ、何かがあったのでしょうね」


 にっこり優しい微笑みで言葉を濁された。これ以上聞いてはいけない空気を醸し出していてたので渋々口を詰むんだ。


 正直、こんな展開になっていることに困惑を通り越して混乱しかないのだが、これで完全にゲームのシナリオが破綻したと言える。その事については素直に嬉しい。


 もうコソコソする必要もないし、ヒロインに怯えることもない。


(私は自由だ……!!)


 ベルベットの顔が明るくなったのを見てその場にいた者らも自然と顔が綻んだ。


「さて、これで安心して私の元へ嫁いで来れますね」

「…………………ん?」

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