11
その頃、ベルベットもゾクッとした感じに苛まれていた。
「あら、お嬢様風邪ですか?」
不思議に思いながらも腕を回して身体を暖めようとしていた所で、家の周りの草を刈っていたネリーがベルベットの異変に気が付き声をかけてきた。
「ううん。ちょっと寒気がしただけだから大丈夫」
「いけません!!風邪は引き始めが一番大事なんですよ!!」
そう言いながら全身を包むように毛布をかけてくれる。気のせいか、最近のネリーは屋敷にいる時よりも過保護感が増した気がする。
リアムの自称別荘は少しずつだが、なんとか住めるようにはなってきている。とは言え、まだ草は茂っているし、よく分からない虫にも苛まれているが、毎日が充実していてとても楽しい。
「ベル!!見て見て!!捕まえた」
外からリアムの嬉しそうな声が聞こえた。以前にも同じような事があったなとベルベットは何となく嫌な予感を感じながら外へと出た。すると、笑顔のリアムの肩には何やら大きな物体が担がれている。
よくよく目を凝らして見ると、白い毛並みの狼のようだった。
ドサッ
「ふぅ、重かった」
無造作に地面に置かれた狼を見るが、体は傷などなく気を失っているだけのようだが……
それにしても、優に二メートルはあるんじゃないかと思われる狼を仕留めてくるとは、リアムの実力は計り知れない。
「うわっ!!なんですか、この大きな狼!!!」
「あ、ネリー。こいつ、今晩の夕食に使って」
裏庭で作業していたネリーが騒ぎを聞きつけ顔を出すと、地面に転がっている狼に驚いて目を見開いていた。それも夕食の食材として披露されたのでは、こちらとしても反応に困る。
そっと体に触れればまだ暖かく息もしている。いくらなんでもこれを夕食にするのは腕のいい料理人ですら躊躇するだろう。
今は気を失っているとはいえ、いずれ目を覚ます。それこそベルベットやネリーが目の前にいたのではこちらが餌になってしまう。
「リアム、元の場所に戻してきなさい」
「えぇ!?」
「『えぇ!?』じゃないわよ。いくらなんでも可哀そうでしょ!?」
「……ふぅ、いいかいベル。この世は弱肉強食なんだよ。食物連鎖って言葉知ってる?まさにそれだよ」
最もなことを言って自分を正当化しているが、ただ単にまた森に運んで行くというのが面倒臭いという不純な理由がバレバレ。だが、この大きさではベルベットとネリー二人がかりでも運ぶのは困難。何が何でもリアムに運んでもらわなければならないのだが、当の本人はいよいよ本気で食料にしようと大鎌を持ち出してきた。
「ちょッ!!待った!!流石にこればっかりは承諾できないわよ!!」
「はぁ~……ベル。こんなに上等な肉は早々ないよ?この大きさなら暫く食料にも困らないしね」
狼を庇うように前に出たベルベットを珍しく睨みつけるように言い放つリアム。
リアムが言っていることも分かるけど、前世の記憶が戻った今生きている獣を目の前で殺傷するのは躊躇われるんだよ。私結構動物好きだったし。
「悪いけど、いくらベルの言葉でもこればっかりは聞けない」
射貫くような視線に冷たい声……これはリアムが
ベルベットは「ぐっ」と怯んだが、その場を退こうとはしない。とはいえ、もう後がない。
(どうする……!?)
もうリアムを抑えつけるのも限界。このままじゃ…………と焦り始めたところで、背後から唸り声が聞こえた。
「──────ッ!?!?!?!」
振り返ると大きな瞳と目が合った。
「ベル!!!離れろ!!!」
リアムがすぐに気が付き離れるよう促すが、足が竦んで動けない。
そうこうしている内にのっそり起き上がった狼はベルベットを見下ろす様に座り込んだ。その大きさにベルベットは言葉を失い、顔を青ざめている。
「お嬢様!!!!」
「──ちッ!!!」
ネリーの叫び声とリアムの舌打ちが聞こえたが、どうしていいのか分からない。逃げようにも体が鉛になったかのように動かない。後ろからリアムが何やら叫んでいるが、その声すら届かない。
狼が前脚を上げた所でリアムが飛び掛かって来たのが見えたが、その前脚に吹き飛ばされ地面に大きく打ち付けられていた。
「リアム!!!」
地面に転がるリアムに慌てて駆け寄ろうとすると、頭に大きな肉球が置かれた。「え?」と一瞬で体が強張り全身の血の気が引いて行くのが分かったが、それよりも驚くことがあった。
『変わった魂を持っているな』
「────ん!?!?」
突如、ハスキーな声が聞こえた。だがそれは、耳で聞いたのではなく頭の中に直接話しかけているような感じに自然と狼の方へ視線が向いた。
『小娘、我の声が聞こえるのか?』
視線に気づいた狼は再び話しかけてきた。どうやら声の主は目の前の狼で間違いないらしい。
「……あ、と……ん~……ねえ、リアム?狼って喋ったっけ……?」
あまりの衝撃にリアムに確認を取る。
「は?何言ってるの?肉が喋るはずないだろ?」
ネリーに体を支えられながら呆れるように言い放った。未だに食料としての認識は崩さないらしい。
『すまんな。易々と食料にされる訳にはいかんのだ。これでも神格を持っておるからな』
”神格”その単語を聞いてベルベットは驚きを通り越して愕然とした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます