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ベルベットはテーブルに肘を付きながら真剣な表情を崩さず、黙ってリアムを見ていた。流石に只事では無いと察したリアムは大人しく椅子に座りベルベッドを見た。そして、意を決した様にベルベットが口を開いた。
「急なんだけど、ここを引越そうと思うの」
「は?」
当然の事にリアムは驚きを隠せていない。ようやく基盤が出来たところでの引越し宣言だ。驚かない方がおかしい。ベルベットとて出来ればこのままここに住み続けたいのは山々だが、あの二人との関係を確実に切るにはこれぐらいしなければ無理だと判断した。
「その理由はあの二人?」
「……あのね、私は残りの時間を平穏に送りたいの。未婚の女性の家に入れ替わり違う男が来てるなんて知られたらいい噂がたつ訳ないでしょ?」
「まるであの二人がまた来るみたいな言い方だね。その確信がベルにはあるの?」
流石はリアム。隠密部隊にいただけあって中々鋭い。
「……ない。とは言いきれないでしょ?」
「まあそうだね」
リアムは頭の後ろで手を組み、椅子に寄りかかりながら率直な意見をくれている。
「ねぇ、お願い。断罪された挙句に国外追放までされた私が幸せになろうなんて思ってないの。せめて人として生きていたいのよ」
せがむように言うベルベットの瞳をリアムはジッと見つめ返すと、盛大に溜息を吐いた。
「分かった分かった。そこまで言うんなら僕は反対しない。けど、ネリーの意見も聞いてみなよ?」
「勿論よ!!ありがとう!!」
何だかんだベルベット贔屓のリアムは”お願い”という言葉に滅法弱いのだ。その事を知っているベルベットは確信犯と言えるだろうが、この際どれだけ卑怯で姑息な手を使おうと気にしない。
──リアムからの言質は取った。残るはネリーのみ。
「そうなんですね。いいんじゃないんですか?」
「そうよね、折角慣れてきた家で………って、あれ?」
町から帰ってきたネリーにも事の顛末と今後の対策として引越しをしたい事を伝えた。実の所、この家を一番気に入っているのはネリーだったので、どう説得しようか悩んでいた。リアムにも一緒に説明を頼んだが「自分の尻は自分でね」と言うと何処かに行ってしまい、頼みの綱を逃したベルベットは仕方なく一人で挑んでいた。
結果的に思っていたものと違う答えが返ってきた。本当に分かっているのか心配になり、もう一度聞いてみた。
「いいの?引越すのよ?」
「ええ、いいと思いますよ」
「本当に分かってる?ここには戻ってこないのよ」
「ええ、分かってますよ」
何度も聞き返すがネリーの答えは変わらない。それどころか、驚愕しているベルベットの為に自分の意見を話し始めた。
「確かにこの家は利便がよくて気に入ってますが、私は家よりもお嬢様の事の方が好きなんですよ。それに、住めば都と言うじゃないですか。きっと何処へ行っても気に入ります」
ニコッリ微笑みながら言うネリーの言葉にベルベットは目頭が熱くなり、気づけば思いっきり抱き着いていた。自分の都合で二人を振り回している自覚はある。それでも文句言わずに付いてきてくれる頼もしい二人。
(この二人の為にも…………)
これ以上の関りを立たなければいけない。
◈◈◈
「くそっ!!何故私が謹慎など……!!」
一月の謹慎を明けたヴィンセントは悪態付きながら、缶詰にされていた部屋を後にした。
ヴィンセントが向かった先は新たに婚約者になったシャノンの所。
シャノンは王妃教育の為、城に滞在していると聞いていた。自分の為に頑張っている愛おしい人を早くこの手に抱きたいとヴィンセントの足は無意識に早まり、ニヤつく顔を引き締めシャノンのいる部屋の扉を開けた。
「シャノン!!今戻ったぞ──!?」
「あら、殿下?」
ヴィンセントが扉を開けてすぐ目に飛び込んできたのは、愛するシャノンが何処ぞの男と抱き合い見つめ合っている場面だった。
「貴様ら何をしている!?」
「嫌ですわ。何か誤解しているようですわね」
「は?」
抱き着かれていた男は王子の登場に顔面蒼白になっているが、シャノンは焦ることもなくゆっくり男から離れると、ヴィンセントに微笑み返した。
「私が不貞を働いたとお思い?」
「違うのか?」
「私は聖女ですよ?この者が身体の調子が悪いと言うので診察していたのですよ」
淡々と話すシャノンにヴィンセントは一瞬虚を突かれたが、すぐに相手の男を睨みつけた。シャノンはそんなヴィンセントの腕に絡みつき自分に意識を移そうとしている。そんな魂胆は丸分かりで腹が立つが、それ以上に男を庇う行動に苛立つ。
愛する女の言葉は信用したいが
ヴィンセントはグッと拳を握り心を落ち着かせた後、自身の腕に絡みつくシャノンをソッと離した。
「──……え?」
「……すまない。また日を改める……」
一旦頭を冷やそうと、背を向けたまま一言言いシャノンを置いて部屋を出た。
一方のシャノンは思いもよらぬ事態に茫然としていたが、自身が疑われたことに気付くとギリッと唇を噛みしめていた。
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