第4話 美女に飼われる男子

 話の話題が僕に集中し始め、周りのキャバ嬢達が矢継ぎ早に質問をする。


「後無君って言うんだー。年は?」


「16……」


「彼女はいるの?」


「居たこと……無いっす」


「っす、だって、可愛いー! じゃあ童貞君だ!」


「……っす」


「高校生?」


「あっ、いや」

と、僕が言いかけた時、高山が横から答えた。


「コイツはあの才華学園に四月から転校するんだ」


 は? 才華学園だって? この人何を言ってるんだ?


「えーー! あの才華学園に? 凄ーい! あの学園の制服超かわいーんだよねー」


「知ってる知ってる! 芸能人も通ってるんでしょ!」


 僕の思いとは裏腹に周りのキャバ嬢達がキャッ キャッ 盛り上がり始めた。


「チャミ、お前の直感でいいから答えてくれ。後無は女にとって魅力的に見えるか? 結構重要なポイントなんだ」


 高山が唐突にチャミに質問をする。


「えー、ちょっと厳しいんじゃないかなー」


 聞かれてもいない周りのキャバ嬢達が各々感想を述べ始めた。


 しばらく僕の品評会になってしまい、俯いていた僕は恥ずかしく顔を上げられなくなっていた。


 すると、突然グイッとアゴを強引に持ち上げられ、僕の長い前髪を掻き上げてじっと僕の顔を見つめるチャミの綺麗な顔が目の前にあった。


「ちょ、あっ……あの」


 恥ずかしくて視線をどこへ向けたらいいのか分からずキョドる。


 チャミの目が大きく見開いた。


「高ちゃんこの子……、ううん、後無君をどこで拾ったの?」


「内緒」と、高山がニヤッと笑う。


「ダイヤの原石。磨く人が良ければ凄い逸材になるかも」


 チャミが度が過ぎる程僕を誉めた。


「そうか。じゃあコイツを今日から一ヶ月飼ってくれないか? 女の前でキョドらなくて、女の接し方が上手い陽キャにしてくれ」


 飼うって、僕はペットかよ……


 高山、アンタは何て事を言ってるんだ? レベル1の僕がいきなりラスボスと戦うようなもの。それに、彼女も迷惑するに決まっている。


「いいよ。私も後無君に興味が出てきた。私に任せて! 宜しくねー、後無くん♥️」


 ニッコリと微笑みながら僕に抱きついてきたチャミに僕は固まってしまった。


ドキドキドキドキ


 心臓が破裂する程心臓の鼓動が早くなった。冗談にしては度が過ぎる。


◆◇


シャァァァーーー


「……」


 僕は、チャミさんのマンションに居た。

 同棲するなんて冗談だと思っていたのに。


「じゃあ、一ヶ月後な」と言い残して本当に僕をキャバクラへ置いてけぼりにした時には、高山の神経を疑った。


 そして僕は今、シャワーを浴びているチャミさんをリビングの隅っこで正座をして待っていた。


ガチャ


 チャミさんがタオル一枚でリビングに入ってきて、僕を見るなり驚いた顔をした。


「あれー? 後無君、何でそんな隅っこに正座して待ってるの? ソファーに座らないの?」


「いえ……ちょっと落ち着かなくて……」


 相変わらずのコミュ障、なんのひねりもない

最悪の返し。死にたい。


「あははは、受けるー。ほれほれ私の隣に座りなさい」


 ソファに座ったチャミが左手でポンポンと空いたスペースを叩く。


 僕は仕方なくチャミの隣に座ると、チャミは僕の肩に顔をくっつけてきた。


「なっ! 何する……」


「……クンクン。ねぇ、後無君さー、匂うわね。お風呂ちゃんと入ってる?」


「……もう……何ヶ月も入って無いっす」


 そう僕が答えるや否やチャミは僕の手を引っ張ってリビングを出た。


 家から追い出されるのか? と思うと脱衣所に連れてかれていた。


「脱いで!」


 チャミはそう言いながら僕の上着から脱がせ始めた。


「ちょ! ちょっとチャミさん!」


「大丈夫、私は気にしないから!」


 僕が気にするんだよ!と心の中で突っ込むが、あれよあれよパンツまで脱がされるのに時間は掛からなかった。


シャァァァーーー


 チャミに背を向けて椅子に座った僕の長い髪や背中を彼女が時間をかけて洗う。

 

 グニッ


「うわぁー!」


 思わず声が出る。チャミが突然僕の……あそこを触ってきたからだった。


「ほほぉー、いいモノ持ってるじゃない? ははっ、ごめんねー、冗談。そこは自分で洗ってね? あっ、着替えは洗濯機の上に置いておくから使って」


 そう言うと、チャミは風呂場から出ていった。


 一体何を考えているんだあの人は。高山といい理解出来なかった……



ガチャ


「良かったー、ちょっと小さいけど着れたみたいね」


 リビングに戻った僕を見てチャミはニッコリと微笑んで、左手でポンポンとソファの空いたスペースを叩く。


「後無君、明日は久しぶりのオフなの。デートしようか?」


「デ、デートっすか? い、いいですけど……」


「じゃあさじゃあさー! 後無君の髪を切りに美容室に行ってー、かっこいい服も買ってー、美味しいご飯食べてー、家に帰ってー、部屋でセックスしてー」


「えっ? せ、セッ……ス?」

 キョドル僕。


「あはははー、ごめんごめん、セックスは無し。後無君、反応が面白いんだもん、ついついいじりたくなっちゃってー」


「……」


 チャミさん……あなたの冗談は本当に冗談に聞こえない。


「でも、ご褒美が何も無いのも可哀想だね……ヨシッ! じゃあ私の言うこと聞いてちゃんと達成したら最後の日に童貞卒業させてあげようかな?」


「えっ? えっ? ちょ」


 キョドり過ぎて言葉が出ない。


「少しはやる気が出た? ど・う・て・い君❤️」


 チャミは人差し指を咥えて挑発してきた。


◆◇


「ふぁーあ……もう遅い時間だから寝よっか?」


 チャミがベッドに潜り込むと、着ていたTシャツとパンツが布団の中から投げ出される。


 緊張が走る。

 チャミさんは裸……

 ベッドも一つしかない……

 僕はどこに寝ればいいんだ……


「後無君、おいでー」


 先にベッドに入ったチャミが掛け布団をパタパタ上下させて手招きしている。


 一瞬、下着を着けていないチャミの形の良い胸が見えてしまった。

 

「ちょ、ちょっと……チャミさん……裸じゃ?」


「そうだよー、裸じゃ無いと眠れない体質なの。早く来ないと罰ゲームだよ?」


 仕方なく、そーっとチャミに背を向けてベッドに入る。


パチン


 部屋の電気が消える。


「ルールその一、一緒に寝る時は腕枕をする事」


 チャミはそう言うと、僕の右手を掴んで自分の頭の下に滑り込ませた。


「おやすみー後無君。夢で会おうね❤️」


「お、おや……すみなさい」


 キョドりながらまともに挨拶も返せない自分に絶望しながら必死に寝ようとした……


……寝れない


……寝れない


……寝られるわけがない!


 直ぐ横には裸のチャミが寝ている。


 チャミさんはこんな状態で寝られるのか? と思いながら彼女の顔をそっと見ると、とても気持ちよさそうにスヤスヤと眠りについていた。


 今日初めて会った男の隣で、平気で裸で寝られるんなんて、一体どういう図太い神経をしているんだ。


 こんな事を一ヶ月続けるのか?


 僕には無理だよ! 


 この日僕は一睡も出来ず、朝を迎えたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る