GO2

第一章 「縄張り争い」

 美しく生い茂った緑。

 森林部の空間に歪み――大きな時空のねじれが生まれる。

 闇。

 その中から光。

 俺たち二人は、そこから飛び出した。


「ダンジョンでも、まず死ななくなったな」

 マップを確認しながら俺、ユウトが言った。

 緑や茶色の茂みに木々を掻き分け、道なき道を進む。人生なんてこんなもんだ。

「へっへっへ、最強なのでやんす!!」

 素っ頓狂な声を出すのは、このゲーム『Goodbye Online』における相方のマイナ。比較的弾持ちの良いエネルギー式拳銃のトリガー・ガードに人差し指を引っ掛けてくるくる回転させている。十代後半の快活な少女なのだが、思考はへんてこである。俺にもそんなことを言う資格があるのかわからないが。パーティを組んでからは早数ヶ月。

 最近はハイリスク・ハイリターンなダンジョン探索。また、雇われで中堅組織が絡む大規模戦争に参加したということもあり、なかなかマイナも腕が立つようになってきた。

 俺自身も容易くデスするつもりはない。

「ユウトお兄さんは、次どこに行くの?

 またダンジョン探索?」

 ダンジョンから脱出したばかりだというのに、本当に元気なものである。

「また考えるか。マイナも考えておくといい。

 ここは安全地帯セーフティ・エリアだから、ランクル・タウンあたりに向かうぞ。そこの転移装置テレポーターを安く使おう」

「りょうかーい」

 マイナもマップを確認している。

 ランクル・タウンは調べる限り小規模な町で、交通もそこまで便利ではなさそうだ。

 交通の利便性が薄いということは、商業が発達しづらいということでもある。

 商業が盛んそうなイメージはないが、商売人でもある俺としてはあまり良い話は聞けそうになかった。

 そのはずだった。

 代表的な通行ルートらしき道の一つを見つけて、俺たちは徒歩ですんなりランクル・タウンへと入った。

「さっさと転移装置に向かおう」

 町の景観を眺めることもなく、俺は宣言する。

「お兄さんたち、ダンジョンからの帰りか?」

 壮年、といった年齢の男が話しかけてきた。髭面で、髪は灰色。実弾式のアサルトライフルを持っている。可変倍率の光学スコープに安定性の高いフォア・グリップなど、なかなか高価そうなカスタマイズだ。

 服装も、比較的軽いが防弾性能が十分であろう上着を装備している。最高性能に近い防弾衣だろう。現実だったら、まるで軍を退役して民間警備会社勤務でござい、といった感じだ。

 周辺にも、全く同じではないが似たような装備の連中が居た。

「一目で分かるんだ。腕が立つねー」

 あっさり乗せられて答えるマイナ。まあ、安全な町中だから別に良いか。

 ダンジョンでは高級なアイテムをたんまり持って帰ることも多く、安全地帯でも警戒する。

 ペナルティはあるが、一切プレイヤーを襲えないシステムではないのだ。

 なるべく丁寧に話しかけておく。

「こちらは、転移装置で戻る予定です。

 貴方がたは危険地帯の実効支配にでも出ているのですかね?」

 近辺には危険地帯――正式には低セキュリティ・エリア(低セク・ローセク)という――も隣接していたのだ。

 低セクはプレイヤー間の戦闘が自由で、そのため危険度が高い。出現する敵性NPCも高セク(ハイセク)よりも強力で危険なものが多い。

 無論リターンも十分なものがある。敵の高額ドロップ品や現地から回収できる高い資源、ダンジョンへと繋がる迷宮孔めいきゅうこうも高セクよりもより多く点在する。

 おおむね、低セクはプレイヤー組織――コーポの縄張りであることが多い。縄張り争いもしょっちゅう起こっているのだ。

 俺とマイナが少し前に参加した戦争も、中堅のコーポ同士の低セクでの縄張り争いが主な原因だった。

「聡いコだなあ」

 俺の言葉に、認める言葉を連ねる彼だった。

「勧誘さ」

 男は自分の管理画面を開いて簡単な操作をして、俺たち二人に音が鳴る。

 メールの送付である。安全地帯に来なければ、メールの受信時の音などは鳴らない設定にしてあったのだ。戦闘中に来ると、集中などが乱れて致命傷になる可能性もあるのだ。

「確認します」

 一応の礼儀として、マイナとメール内容を確認する。

 コーポメンバーに職人でもいるのだろう、文字だけで少し派手な外枠的な装飾が為されたメール本文だった。

 よくある勧誘文だ。

 コーポメンバーの人数と、活動拠点ランクル・タウン

 リスクはあるがハイリターンの旨。懸賞金付きNPCを倒したときの税率は十パーセント。

 ランクル・タウン周辺はあまり交通の便がよくないため、わざわざ遠出してくるプレイヤーはそう多くない。低セクエリアも比較的狭いため、大手からすればわざわざ手を伸ばすほどうま味はないだろう。

 それだけに新興コーポが資金の獲得や拡大を狙うには、悪くない場所や地域であるようにも思う。

「持っきてほしいアイテム、例えば弾薬や回復キットなどはありますか?」

「市場に出してくれれば買うだろうな。弾薬は歩兵向けのものが特に需要がある。実弾かENかは問わない」

「おおー、商談だー」

 マイナも興味ありといった感じだ。商売のセンスがあるかは知らないが、どこで何が開花するかはわからないものだ。

 いくらか細かい条件を口頭で聞き、大体は覚えたがメモを取っておく。

「縁があれば持ってきますよ」

 口約束だけして、俺たちは町の転移装置を使って本拠地付近にある同型の転移装置に移動した。


「それで、お兄さんはあそこへ商売しに行くの? 手伝うよ」

「ん。まあ情勢の情報収集にはなるか」

 拠点の商都で俺たちは話す。その足は、市場へと向かっていた。

「稼げても、駄賃程度だろうな。

 定額で買い取ってくれるみたいだし、上手く仕入れて売ればけっこう儲かるか」

 あの男が頼んできた拳銃やライフル銃の弾、EN武器のカートリッジ、回復アイテムの類。

 あとは、自分たちの補充品も忘れずに買っておく。

 俺は高価な徹甲弾を装填したライトマシンガンを好んで使っている。

 閉所では扱いづらい部分を除けば、汎用性が高い。あとは、強力な近接武器のライトセーバーなどか。

 マイナは服装スキンをたまに変え、武器も頻繁に変えてパーツをデコレートするように取り付けることが多い。俺は、マイナの取引しているアイテムを軽く覗いてしまい、驚き半分呆れ半分な気持ちになった。

「今度は五〇口径ピストルに、PDW、狙撃銃かよ。重くなるぞ?」

「大量輸送するんでしょ? 武器はたくさんないと。

 グレネードも忘れずに買っておくー」

 マイナは大口径の拳銃に等倍率ホロサイトなどをカスタム、PDWは小口径高初速弾を発射する携行マシンガンのような武器で、ホロサイト、レーザーにフラッシュライトを付け近距離戦用にカスタマイズしてある。

 狙撃銃は一番お金がかかっていそうだ。今の相場だと、銃本体より高価な可変倍率の光学スコープを取り付けている。

 他にも戦闘距離によって対応を変えられるように、拳銃とPDW用にスコープを予備でもっていく気らしい。別に止めないが。

 マイナのやる気に触発されて、俺も防弾輸送車を買ってみた。

 詰め込めば六人くらいまで入るものの、実際に入るのは二人と輸送アイテムだ。

 安全地帯で多用されるオート運転機能で街から出ると、火薬庫と化した軽装甲の輸送車が南へと向かって走り出す、

「ランクル・タウンが目標だが、途中の低セクに近い小規模商都にもアイテムを売りに行く」

「りょうかーい!!」

 マイナがライトマシンガンの設置された装甲車の上部の穴から顔を出し、そう言った。

 俺の得物は助手席に掛け、手元にはサブマシンガンを置いていつでも発砲できるようにしている。マイナも居るが、周辺の警戒はしておく。

 輸送車両ごと転移装置を起動できれば楽なのだが、さすがにそれができるとゲームバランスが崩壊する。個人でもあまり多くのアイテムを抱えていると、かなりのG(ゴールド。お金)がかかる。

 転移費用をあまりかけずに商売をしたければ、大人しく行商活動をやるしかない。

 いくつかの地点で行商を無事に終え、ランクル・タウンが近づいてきた。マイナは相変わらず全周警戒を一人でしていた。

 そこで、通話機能から連絡が来る。

『やっほー』

 あまり聞きたくない若い女性の、やや低めの声が聞こえてきた。

「スザクさんか」

 黒髪の長髪をした戦闘スーツ、そこから繰り出される恐ろしい戦闘力を思い出し、俺はちょっとげんなりして答えた。

 スザクは悪人ではないのだが、プレイヤーをキルすることに至上の喜びを見出している、いわゆるPvP狂の一人だ。

 商売人で損得勘定が大事な自分とは、だいぶかけ離れたプレイスタイルになる。

『ランクル・タウンに向かっているようだな。

 友軍が発見しているよ』

「ランクルのコーポにでも雇われたのか?」

『臨時の戦力でね。どうやら宣戦布告をふっかけられたらしい』

「……」

『情報通だと思っていたが、知らなかったのか?』

「お兄さん、誰?」

「マイナは車両に戻ってろ。危険な気がしてきた」

 そこで、俺の意図的な車両の蛇行、マイナが頭を下げて車両に戻ろうとする、そして敵の狙撃が重なった。

 複数の要素が複合して、初弾のレーザーは地面へと着弾した。

「撃たれたぞ」

『でかした、敵の位置がわかった』

 今度はランクル・タウンの方から銃やロケットの発射音が響く。援護射撃と砲撃である。

 銃弾や砲弾は、ランクル・タウン西側の丘陵へと落ちて、着弾する。

「くそ、高セクでもお構いなしか」

『そのままランクル・タウンに来てくれ。可能な限り援護する』

 車を加速させ、後方でロケット弾が着弾する。「ひゃー!!」中央座席のマイナの悲鳴は無視。

「マイナ、好きに撃っていいぞ」

「えっと、了解? こんのー!!」

 その後上部からライトマシンガンの連続した発砲の音が鳴り響く。

 マイナによる撹乱射撃を実行しつつ、俺たちはランクル・タウンへと突っ込んだ。

 即座に作動したオートパイロット機能を切り、強引に戦地となったタウン内を走り抜ける。

『コーポリーダーと合流するといい。広場に陣地がある』

 町並みを駆け抜けると、確かに何もない公園のようにも見える広場に土嚢や迫撃砲が配置されていた。

 重装備の兵隊もだ。

「撃つな!!」

 俺と、壮年の隊長がそう言った。


 俺にメールをくれた彼が、コーポリーダーだったらしい。

「参ったよ。

 いや、覚悟はしていたんだが、こんなに早く宣戦布告されるとは。

 しかも奴らと来たら、大部隊を送り込んできた」

 大体の事情を聞いた。

 最大手の無法地帯ゼロセクアライアンス(コーポの複合体)傘下の、低セクコーポの一つが宣戦布告。

 どこかで情報が漏れたかもしれない。けっこう派手に勧誘をして人員を集めた彼のコーポだが、その効果のほどの副作用が出た、といったところか。

 相手方コーポも新興らしく、絶望的な規模ではないのが救いか。

 敵コーポはコーポ潰しの実績が、友軍コーポは防衛の実績がそれぞれ欲しいとも言える。

「私たちのコーポで戦いに出られる者は、今の全員で三十五名。

 敵はそれよりも明らかに多そうだ」

「了解、立ち回り次第でしょう。

 俺も加勢します、マイナは?」

「当然、どんとこい!!」

 さして大きくもない身体を張って、参加要請に答えるマイナ。

「俺とスザクは撹乱をします、その間に防衛をしてください。余裕があれば、こちらにも戦力を寄越してほしいが……」

「ああ、それと……」

 言いたげなコーポリーダー、つまり。

「商談ですかね。買って頂ければ嬉しいですが?」

「支払うよ。乗り物ごと買う」

「毎度あり。今後とも、ご縁があることを祈ります」

 俺の通貨ウォレットに契約金が入るのを確認。

 防弾輸送車の中身ごと全て売却し、傭兵契約の請負金が上乗せされた金になる。

 もちろん、こちらの装備は手元に残してある。

 硝煙臭い、砲弾の音が響く戦場。

 更に銃声が加わる丘陵地帯へと俺とマイナは進んでいく。


 ライトマシンガンが火を吹く。

 等倍率モードのスコープのほぼ中心には敵の胴体が映っている。

 一五〇発入りの箱型弾倉から給弾される小口径の徹甲ライフル弾は、軽々と敵の防弾ベストを射抜いていく。

 右から左へ、横薙ぎの射線。一閃される発砲に二人が倒れ、三人目もマイナの銃弾を受けて倒れた。真ん中の敵から左に向けて撃ってくれた。

 こちらの射線を意識して射線を考えたのだろう。安心と信頼があるからできる連携だ、とは思う。

「こちらユウト、ひとまず三人の斥候は始末した。損害ゼロ」

「リロード」

 マイナがPDWを再装填リロードする。五〇発マガジンのはずだが、念の為だろう。

 からんころん、というには乾いた音。少し手前に投擲物が投げ込まれたのだ。

 音からして手榴弾ハンド・グレネード

 マイナともども大きな樹木に隠れ潜み、爆発した手榴弾をやり過ごす。爆発後にマイナが正面方向へと自分のグレネードを投げ込む。

 俺とマイナは一定距離を保ちながら、爆発音と共に右回りへと進んでいった。

 無線VCが入る。

『こちらスザク。

 どうやら敵を挟み撃ちにできそうだ。こちらは装甲車一両を仕留めた。他にもPS(ピーエス。パワード・スーツ)を一機発見したが、取り逃した。歩兵は一〇名弱を確認。交戦中。

 方向的にそちらに向かったようだ』

 早口でそう、スザクがまくし立てた。

 それなりに木々が深い丘陵地帯だ。視界が悪いので、マイナも狙撃銃は構えていない。

「マイナ。機械の足音だ。

 歩兵の処理を頼む」

「わかった!!」

 俺は背中に二本背負った、小型携行式の対戦車ロケットランチャーの一つを構えた。

 簡易照準器を展開し、敵に備える。

 音が大きくなる。聴覚を保護し増強させる軍用ヘッドセットは、その敵の方向を確実に捉えた。

 パワード・スーツ。

 丸太のような筒から、ロケット弾を射出。反動制御のためのバックブラストが後方で土煙を作る。全高四メートルほどのPS――鋼でできた強化ロボットスーツがこちらに跳躍して着地したと同時に、着弾。胴体ど真ん中に命中したロケットの成形炸薬弾頭が、中のパイロットごと爆炎で焼き尽くした。

 さらに大きな影、大きな姿。

「二機目だと!!」

 マイナは周辺の歩兵とやり合っている。劣勢ではないが、いつ死ぬかともわからないシビアな状況だ。

 二機目のPSは一瞬考えるように破壊された一機目を見る。

 その間に二発目のロケットランチャーを用意した俺だが、直撃させるのは難しいだろう。

 狙いを定めたいが、左右に俊敏に動いて近づいてくる。まずいな。

 右手に持った大口径のマシンガン、おそらくは二〇ミリ口径のPS用アサルトライフルが、こちらが身を隠している樹木を引き裂いていく。

 一か八か、砲弾に木の幹が貫通する前にダイブして飛び出し、伏せて俺は泥濘の中でロケットを構える。

 マイナも一瞬の隙を突いて、PS側にグレネードを投げる。PSにとっては大事ではないが、跳ねて回避行動を取ってきやがるな。

 腹部を狙ったが、焦ったせいで照準がずれる。PSの左腕が吹き飛ぶが、アサルトライフルを持っていた腕とは逆側。腕部が吹き飛んで、その手から飛んだ近接用のPS用ブレードが地面に突き刺さる。

 まずい。

 そこで、光の矢が左斜め後方より飛来。正面のPSの右腕が吹き飛ぶ。

 射手が見えないほど離れた距離からの、高出力のプラズマ・ライフルによる狙撃だった。

 続けて背面に二発命中。急所を撃たれて爆発、炎上するPS。

『援護する』

 スザクの声でVCが飛ぶ。

 光が上から着弾していき、ほぼ一撃で敵部隊が狙撃されて死んでいく。

 俺はライトマシンガンを乱射して後退、敵歩兵から何発か喰らったので、隠れてから回復キットを使う。

 マイナがこちらの方向へ銃口を向けてカバー、にじり寄る。

「怪我は?」

「ほぼ全回復した」

 簡単なやり取りをして、事態を考える。

『こちらスザク、敵部隊全体が移動した。戦線を立て直される前に全滅させたい。

 私たちは追撃できるが、そちらは?』

「こちらの損耗も軽微だ。

 支援に感謝する。できれば挟み撃ちといきたいね」

『了解、こちらも味方は無傷だ。

 私を含めて一一人。数ではまだ劣勢だが、練度と装備でどうにかできるだろう。

 防衛目標の町も、特に襲撃されている気配はない』

「気兼ねなく、やれるな」

『そんなところだ。オーバー』

 VCが切れ、本格的に戦闘再開だ。

 とはいうものの。

「どうしたの、ユウトお兄さん?」

「まあ、スザクは信用ならない部分はあるからな。

 あと、単に数はこちらが劣勢だ。

 完全に二人だと知られたら、まずこちらが狙われるはずだろ?」

「なるほど、少し足踏みをするの?」

「まあそんなところ。

 いかにも敵を狙いやすそうな場所を探してみるのも良いだろう。

 少し下がって、狙撃ポジションを探そう」

「了解」

 俺たちは敵に見つからないように後進し、丘陵の斜面へ向けて歩を進めた。

 遠くから銃声が響く。スザクの部隊が攻撃をしだしたのだろう。

 

 パーン、と乾いた銃声が響く。

 俺とマイナは三〇メートルほど離れて、それぞれ狙撃をしていた。

 こちらは最大四倍までのサイトなのでやや狙い辛いが、伏せた状態で徹甲弾をフルオートで浴びせられるライトマシンガンだ。

 今回はバックパックの中に、予備でもう一弾倉の一五〇発弾倉を持ってきた。撃ち切れば三銃連の縦長弾倉に切り替えるだけだな。

 相手がロケット砲を撃つも、こちらの頭のだいぶ上を通過するのみ。直後にマイナに頭を撃ち抜かれ、敵にデスが追加される。

 周囲への着弾が激しくなってきたので、一旦退避。

 下では友軍信号を発し、視覚情報で簡単に識別可能なスザク軍が動いていた。

 敵の陣中、閃光手榴弾フラッシュバンが空気を引き裂く。スザクの持つ光剣ライトセーバーが、閃光と轟音で固まっていた敵軍三人を斬りつける。三デス。

 スザクは銃撃を加えられるも、前面展開が可能な電磁バリアを発動。展開可能限界になるだいぶ前に連携。スザク軍の他メンバーが、複数のポイントから銃撃等を加えていく。

 敵方のコーポの主力は、いとも容易く粉砕された。

『殲滅完了。

 撃つなよ。特にマイナ』

「名前覚えられてたのねん♪」

 よく分からないが、マイナは嬉しそうだ。よく見るとマイナの銃口かスコープは、スザクの方を注視しているようにも見える。

 結局、高脅威目標はこちらに向かったPS二機だけだったらしい。

「早めに拠点に戻るぞ。二キロもないはずだ。

 っと、依頼主から連絡。マイナにも開いておく』

「はーい」

 コーポリーダーの声は、比較的軽やかだった。

『やれやれ、コーポ運営は始めから大変だったな。

 例の『スザク戦争』のスザクを引き入れられたのは幸いだったが』

 俺の目には懸念があった。

「一応、スザクを信用し過ぎないほうがいい」

『金払いはちゃんとするつもりだが? 傭兵なら、わきまえているはずだ』

「あいつにあまり損得勘定が通用するとは思えない。

 スザクには不吉さがある。まあ……ゲームではあるが、慎重にしたほうが良いし、そもそもあいつはプレイヤー・キルのし過ぎで恨みを相当買っているはずです。

 ……厄災を持ち込まれないように気を付けて」

「ペストのネズミみたい」

 マイナ、黙っておれ。

『うむ……君らもこちらに関わる気はないか?

 優遇するぞ』

 俺はマイナに目で問いかけ、マイナは笑顔で親指を立てる(サムズアップ)。

「いえ、遠慮しておきます」

 盛大にずっこけるマイナを無視して、俺は伝える。

「ま、こちらも用事が多すぎまして。

 機会があればまた商売に来るかもしれません」

『む、まあ悪くはしない。

 それでは』

 そこで連絡VCが切れた。

「えー、ざんねーんー」

 マイナは不満げだった。

「スザクに関われば、いろいろと面白くはなるだろう。

 が、リスクとの兼ね合いを考えるとどうしてもな……。

 街に着いて拠点までワープしたら、俺はログオフするよ。いったんリアルで次に手を出すコンテンツを考えておく」

「はーい」

 

 VR世界からのログオフ後、俺は身体を揉みほぐし、スポーツドリンクで水分を補給する。

 現状――悪くない。GOは(厳密に言えば間接的にではあるが)稼いだゲーム内通貨を現実にペイアウトできるゲームだ。

 今回の稼ぎも、まあ悪くない。

 GOなどの優秀なゲームは、人生おける遊べる場所・世界を増設するようなものだろう。悪いものではない。

 行商以外の、拠点内だけで行う流行・傾向トレンドをつかんでアイテム売買を行う取引も相当な収益を上げている。

 誰かに言う気はないが、俺もゲームの中でくらいはひとかどの存在になったのかもしれない。

 いや、まだ気が早いか。うぬぼれたい気持ちも混じっているな。

 マイナも腕前は確かだ。最初に出会った頃より遥かに戦闘面は上達している。俺と同じくらいか、超えてくる可能性も十分にあるだろう。シンプルな反応速度とかは上っぽい気もする。

 散財癖があるのが難だが、だからこそ商人(俺)と組むのは大正解な気がしないでもない。

 今で動きには満足していて人員を増やす気もないが、即席パーティを作る程度なら良いのかもしれない。

 しばし沈思黙考というところだが、さて次は何をするか。

 まるでデートプランでマンネリを避けたい男だが、自分も刺激はほしい。

 にしても、参ったな。二人で実質的にできる戦闘コンテンツは種類が少ない。

 大きく分けてPvE、PvP。前者がNPCを狩る戦闘で、PvPはプレイヤー同士の戦闘。

 人数を増やせば大規模レイドといった高難易度PvEもあるが、コミュニケーションがかったるいというのもある。

 レアNPC探しやダンジョン攻略、低セクでのPvPvE(対人&対NPC戦闘)

 どれも飽きてきた。マイナもそうなのかもしれない。飽きというのはゲームではトップクラスに危険な引退要素である。

 上手く金策できないとか、ここの攻略方法が分からないとかは努力、知恵と工夫、労力の支払いでどうにかなるが、この『飽きた』だけは本当にマズい。

「無目的に風景でも眺めていたほうがマシだな」

 ん、風景?

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