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「その女・・・家に入れるの?」
勝也の家の前・・・。
立派な、綺麗な一軒家の前で、樹里ちゃんが私を睨み付けている。
「ここは樹里の家なの!
お母さんとお父さんとお兄ちゃんと、樹里の家なの!!
変な女なんて、入ってこないでよ!!」
私を必死に睨み付けている樹里ちゃんの目に、涙が溜まってきた。
「そうだよね、ごめんね。
じゃあ、私は帰るね。」
困った顔で笑っている勝也を見る。
「明日、少し早めに来られる?
宿題・・・写す?」
勝也が笑いながら首を振った。
そんな勝也に、私も笑い掛ける・・・。
「何が・・・出来るかな?」
勝也を見てから、樹里ちゃんを見る・・・。
「私に、何が出来るかな・・・?
お礼がしたいの。」
「お兄ちゃん、何かこの女にしたの?」
「俺?何も・・・俺の方がいつもしてもらってるし・・・。」
私は大笑いしながら、2人をまた見た。
「私・・・凄く性格が悪くて・・・。
勝也が少し、良くしてくれたの。」
樹里ちゃんが少し驚いた顔をしている。
「樹里ちゃんのお兄ちゃん、優しいね。」
「そんなの!!樹里が1番知ってる!!
お兄ちゃんが優しいのなんて、樹里が1番知ってる!!!」
勝也の腕から離れ、私の腕を引っ張った。
「優しいだけじゃないから!!
お兄ちゃんは凄いんだから!!!
何でも出来るんだから!!!」
そう言って、私を家の中に引っ張る・・・。
驚きながら勝也を振り向くと、勝也も驚いた顔をしていた・・・。
勝也と樹里ちゃんの家の中・・・
綺麗で・・・新しい匂いがした・・・。
「ただいま~!」
と、2人が大きな声で言って・・・
リビングの隣の部屋、そこに2人が直行した。
そして・・・手を合わせていた。
「お邪魔します」と小さな声で言い、私もゆっくりとそこに・・・。
大きな仏壇があって・・・
そこには、勝也とも樹里ちゃんとも似ていない男の人の写真が・・・。
笑顔は、なんとなく・・・勝也に似ているような気がした。
2人の隣には並ばず、少し離れた後ろの方で・・・私も手を合わせた。
少ししてから目を開けると、樹里ちゃんが私を睨んでいて・・・
でも、その目には涙が沢山溜まっていて・・・。
でも、絶対に流すことはない・・・。
「凄いね、私より強いんだ・・・。
私、結構すぐに泣いちゃうから。」
そう言うと、樹里ちゃんがまた驚いた顔をして・・・
「泣いたら、可愛い樹里の顔が可愛くなくなるから。
アンタはいいんじゃない?
元々全然可愛くないから。」
「可愛くなくて、私は安心だね。」
「そこまで・・・ブスではないけど。
でも、樹里の方が可愛い。」
「ブスでもなくて、安心した。」
私には妹がいないからよく分からないけど、なんだか・・・可愛い子だなと思った。
だって・・・
酷いことを言う時の顔が・・・
凄く可愛くて・・・。
笑いが堪えられず・・・大笑いしてしまった。
そしたら、勝也も笑って・・・
2人で笑っていたら・・・
「なんで、2人で笑ってるの!?」
と、樹里ちゃんが怒っていて・・・
なんだか、それも面白くて・・・
勝也と2人で笑った。
そしたら、最後は樹里ちゃんが怒りながらも、少し笑っていた・・・。
*
それから、放課後は毎日・・・
勝也と一緒に、保育園に樹里ちゃんを迎えに行った。
そして・・・
「アンタ、字・・・キレイだよね。」
「そうかな、ありがとう。」
宿題をしている私の隣で、樹里ちゃんもお絵描きをしたり、塗り絵をしたり・・・。
「それ終わったら・・・樹里に教えてくれてもいいよ?」
と・・・。
私に何かをお願いする時は、樹里ちゃんはいつもこう言っていて。
それが可愛くて、私は笑いながら頷く。
宿題が終わり、樹里ちゃんに字を教えていると・・・
そろそろ、6時で・・・。
勝也を見る・・・。
家に帰ると、すぐに洗濯機を回し、部屋に干してある洗濯物を畳み、片付け・・・
朝の分の食器を洗い、部屋の片付けをして掃除機や拭き掃除をサッとしていった・・・。
「樹里ちゃんのお兄ちゃん、凄いね。
本当に、優しいだけじゃないね。」
「お父さんが建ててくれた家だから・・・。
綺麗に大切にするの。
皆でここに住みたいって、お兄ちゃんと樹里がお母さんにお願いしたから。」
キッチンで料理を始めた勝也を見る。
「そろそろ6時だし、帰ろうかな。」
「・・・・。」
私がこれを言うと、樹里ちゃんはいつも不機嫌な顔になる。
それがいつもいつも可愛くて、妹が欲しかったなと思ってしまう。
「明日も、来ていい?」
「来たければ来れば・・・?」
「ありがとう。」
笑いを堪えながらお礼を言って、キッチンにいる勝也に近付く。
「樹里ちゃんのお兄ちゃん、私そろそろ帰るね?」
「うん、今日もありがとう!」
勝也が笑いながら、カップを渡してくれて・・・
中を見てみると・・・
「コーンスープ?」
「それくらいなら、飲んでも大丈夫だろ?」
家での夜ご飯が食べられなくなるので、勝也の家では何も食べないようにしていて・・・。
コーンスープなら、大丈夫かな・・・
そう、思って・・・
一口、飲んだ・・・。
その、瞬間・・・
脳が、私の脳が・・・
喜んだ・・・。
その快感をよく感じようと、目を閉じる・・・
快感がより分かり・・・
我慢出来ず、手足をバタバタとさせた・・・。
目をゆっくりと開けると、勝也が面白そうに笑っていて・・・
「すっっっごく美味しいね!!!!」
「そうか?」
「これ、どこで買ったの!?」
「作ったんだよ!
結構上手く再現出来たやつ!!」
それを聞いて、私は思い出す・・・。
「あそこの・・・ここからも近い、あのレストランの・・・コーンポタージュだ。」
「だよな!?」
「凄い!!!凄いね!!!!」
私がコーンポタージュをゴクゴク飲んでいると、樹里ちゃんが私の隣に立った。
「お兄ちゃんは、家のシェフなの。」
「シェフ?」
「お母さんがよく言ってる。
お兄ちゃんが料理をして出してくれる間は、家のシェフなの。」
「凄いね、樹里ちゃんのお兄ちゃんは・・・。」
「今度・・・次は、食べさせてあげてもいいよ。
お兄ちゃんの・・・家のシェフの料理。」
玄関に立ち、2人を見る。
「ご馳走様でした、ありがとうね。」
「うん・・・。
ちょっと、暗くなってきたから送っていくよ。もう10月になったし。
樹里、すぐ帰ってくるから!」
靴を履こうとした勝也に、私は首を振った。
「私は大丈夫だから、樹里ちゃんと一緒にいてあげて?」
不安そうな顔で勝也を見ている樹里ちゃんに、笑い掛ける。
「樹里ちゃんのお兄ちゃんは樹里ちゃんといるから、安心して?」
樹里ちゃんが少し安心した顔で、私を見た。
そして・・・
「樹里も・・・行ってあげてもいいよ?」
と・・・。
3人で、少し暗くなってきた道を歩く・・・。
いつもは勝也の隣、私から離れた方・・・そっちで勝也の腕を組み歩いている樹里ちゃんが・・・
今日は勝也と私の間で歩いていて・・・。
勝也と組んでいた手を、片方放し・・・
私の手を、少しだけ握った・・・。
でも、不機嫌な顔をした横顔で・・・
それが可愛くて、可愛くて、私は笑いを堪えるのが大変だった・・・。
そして・・・
勝也と樹里ちゃんが、立ち止まった・・・。
そこには、あの、レストランが・・・。
「ここね・・・お父さんが生きてた時は、たまに行ってたんだ。
誕生日とか、クリスマスとか・・・。
でも、この前の樹里の誕生日には・・・お母さん連れてきてくれなかった。」
「母ちゃん、仕事だったからな!
ごめんって謝ってただろ!」
「分かってるよ!!!
樹里だって・・・分かってるよ!!!」
樹里ちゃんがそう怒って・・・
勝也から手を放し・・・
私の腕に両手で絡み付いた・・・。
驚き、樹里ちゃんを見下ろした後・・・
勝也を見ると・・・
勝也も驚いた顔をした後、私に笑った・・・。
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