第2話 燕と言う美しい若者
(2)
僕は彼の言ったことが気になってしょうがなかった。
翌日、会社へ向かうメトロの中で幾つかの言葉をネットで検索する。
…空海
…死
…首
だが、特に何も見つからない。その殆どが歴史的な定説で、どこにも奇妙な点は寸程も見つからなかった。
(…何だというのだ)
僕は夢中になっている。
彼の言葉に。
――空海の首を探してくれませんか
(どういう料簡で彼が言ったのか…)
僕は仕事が終わると足を古書街に向けた。そこで空海に関する本を見つけては買い、貪り読んだ。
それは数十冊にも及んだが、だが別に空海の首について何か言及するようなこと等、全くと言っていい程見つからなかった。僕は古書街だけでは飽き足らなくなり、古物商にも足を運んだ。それは京都、大阪、兵庫一円だけでなく広く名古屋、三重までも及んだ。
何ゆえに、そうまでして僕を気狂いの様に熱中させたのか。
それはひとえに彼があの時見せた失望の為だ。
勿論、僕はインターネットにも変名を使いながら投稿をし尽くして情報を求めたのだが、一向に僕が伸ばしたあらゆる所の蜘蛛の巣には全く何も引っかからず、週末の夜になれば『得一』にも顔を出して彼を探して見たものの、不思議と彼の姿は無く、やがて空海の為に虚しくも猛暑の夏は過ぎていった。
そんな徒労の夏が過ぎたのを感じたのは風が冷たく感じた頃だった。
夕暮れ時の帰路で僕はメトロを降りた時、突然、肩に手を掛けられたのだ。
肩に乗せられた手に気付いて振り返ると、そこにはとても美しい若者が居た。まるでどこかのホストでも勤まりそうなそんな夜の香気を紫色のスーツに纏った若者。
じっと僕を見つめた若者の二重瞼が動くと、彼は舌を出して唇を舐めながら言った。
「――アトムこと、阿刀さんと言うんは…あんたやね?」
柔らかい上方訛りで彼は続けて言った。
「…空海の首、なんや探し回っているそうやんか。
言うと驚いている僕の方を指差す。
「言っとくがこちらは約束通りに従っただけや。何も悪いことなんてしてないで」
そしてジャケットの内側から手帳を出すと、惜しげもなく言った。
「あんた本名…阿刀…ん、何や…マオっちゅうんかい。可愛いアイドルの子みたいな名やなぁ」
美しい若者は手帳を広げて、舌をまたぺろりと出して唇を舐め擦る。その様子を訝し気に見ている僕に勘付いたのか彼は手帳から視線を外すことなく言った。
「…ぁあ、気にせんといてな。やっぱ
僕は棒立ちでいる。
最早、彼が言ってることが僕には分からない。
そんな僕に彼は言う。
「ちょっとほんならどこか行こうか。ああ、地上にはいかへん。地下がいいな。…あっ、丁度いいわ、ほら」
彼が指差すところに一人掛けの椅子が並んでいる。
「あそこにしよ」
言うと彼は僕をそこに連れてゆく。僕は彼の背について行くだけだった。
その時、急に彼が僕を振り向いた。
「そう、ワイね。名前は燕というねん」
「えん?」
僕のしどろもどろした口調に彼はムッとしたのか、美しい顔に眉を寄せて僕に言った。
「あんた、ちゃんと漢音発音しいや」
「えっ!?」
「えっ、ちゃうわ。ワイは『燕』や、覚えときや。アトムはん」
言うと彼は先に椅子に腰かけて足を組んだ。
まるで自分がこの地下世界の
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