第2話 これって「好き?」
遠藤はいつも眠そうで、ちょっと天パがかった髪で、刈り上げたりせず前髪が少し長めで大人しい印象だ。陰気さはないけれど、勉強も運動も目立つほうではない。放送部。知ってるのは、それで全部。あ、あと出身小学校で大体住んでる地域はわかる。内田と篠崎のほうが、いつも聞かされている分、詳しいくらいだ。
彼女持ちでなく、極端に高嶺の花でなく、趣味悪いほどでもない、という視点からの人選だから、「まだ好きまでいってない」ではなく、名前を出してから意識するようになった、が正しい。
「実はゆずこが遠藤って、ちょっといいじゃんて思ってた」
りーみょんがつまんだポテトで指してくる。
「あいつ結構女子に優しいと思う」
「え、そうなの? 遠藤ってよくわかんないからなあ。あ、りーみょんは遠藤と
ナホチがりーみょんのポテトに食いつく。
「姉ちゃんいるし、小学生の頃はよく女子とも遊んでたよ」
「おお、新情報! ゆずこ、メモメモ!」
「こらナホチ、あんたじゃないんだから」
りーみょんに窘められたナホチはポテトを唇の前に立てて“しー”の仕草をした。それがおかしくて、私たちはまた笑った。
そう、私には遠藤のデータは要らない。たぶん私は今以上に遠藤への気持ちを育てないし、遠藤からも好かれる可能性はゼロだから。
最初は名前だけ借りるつもりだったけど、無意識に“彼”を目で追うようになっていた。視線がぶつかってドキッとする、を何回か繰り返して、自分の不審な行動に気づいた。
自覚してからは、見るともなく彼を視界に入れる方法をとった。休み時間に友達と笑い転げていたのは新鮮だったし、部活の当番でお昼の校内放送を読み上げる彼を聞き分けられるようになった。
これって「好き」かな。いやいや。湧いてきた考えは否定した。りーみょんとナホチに話すネタを探しているだけだし、目が合えば焦るけど、ときめいたわけではないし、そもそも動機が不純だ。
そうこうしているうちに、彼の視線の先を確認するくせがついた。彼女はいなくても、好きな人はもういるかもしれないからだ。そして昨日、いつもと違う遠藤を見てしまった。
国語のおばさん先生、英語のお姉さん、理科のおじさん、数学と社会の両おじいに対しては、遠藤の態度に差はなかった。授業を聞きながら眠そうにしていて、たまに本当に寝ていた。
美術の時間、船木という男の先生にだけ、遠藤は強い眼差しを向けていた。船木は女子生徒から人気のある若い先生だ。
放送部の顧問だから、ほかの先生より打ち解けているだけかもしれない。
それとも、黒板の前から離れない授業スタイルじゃなくて、作業を見に席までやってくる距離の近さからか。
遠藤の絵を見て船木が何か言い、遠藤は伏し目がちに微笑む。それは、まだ片想い中だった頃のりーみょんが、内田の話をする時の表情に似ていた。
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