スーパーヒロインの優雅な休日

タヌキング

ファンは空気を読もう

いつものレトロな喫茶店の窓際のテーブル席に座りコーヒーをすする絵になる美女。

それが私だ。

私の名前は桜井 京子。スラッとした長い足にボンキュッボンの抜群のスタイルを持ち、ショートボブの髪型に知的な眼鏡が光るクール系美人である。

そんな私だが、一度眼鏡をはずしてコスチュームに着替えれば、スーパーヒロイン【サクガンガール】になって世界を救っている。空を自由に飛び回り、鋼鉄よりも固い鉄拳でいかなる敵の装甲も撃ち貫く。サクガンガールの名前の由来も削岩機から取られたものである。由来は可愛くないが、私の桜井という名字と少し被っているので自分的には気に入っている。


普段は世界の平和の為に激しい戦いに身を投じている私だが、休日になれば話は別、お気に入りの喫茶店でコーヒーを飲みながら読書をするのが私の癒しの時間である。

で、コーヒーを飲みながら適当に買った小説を読んでいるのだが、少々難解な作品で頭を抱えている。昔の作品だったり、外国の小説は描写が分かり辛かったり、独特の表現や知らない言葉が出てきたりして、イマイチ話が頭に入って来ないで状況把握すら困難になる場合がある。

どうしよう?眠たくなってきた。こんなことなら読みやすいライトノベルにすれば良かった。

そんな風に悪戦苦闘している私の席に、突然ある青年が歩いて来て、私の席の前で止まった。

スポーツ刈りの茶髪、童顔で幼げが残る小柄な痩せ型、歳にして20代前後といったところだろうか?

その青年が開口一番、興奮した様子でこんなことを私に聞いて来た。


「あのサクガンガールさんですよね⁉」


フッ、バレてしまったか。やはり溢れんばかりのカリスマ性を隠しきることは容易じゃないようだ。やれやれ、人気者の辛い所だな。


「絶対サクガンガールさんですよね⁉そのエロい体は間違いなくサクガンガールさんです‼」


・・・エロい体だと?確かに私はボンキュッボンの良い体をしているが、その表現には異を唱えたい。

それにしてもこの青年、本当に私の体で気付いたと言うのだろうか?確かに今日着ているセーターも、ジーパンもタイトなモノを着ているので体の線が丸分かりである。こうなると普段着にも気を使った方が良いのだろうか?


「サクガンガールさん‼僕はアナタの大ファンなんです‼握手してもらって良いですか⁉」


「あのさ、分かったから声がデカいから少しボリューム下げて、他のお客さんも居るからさ。」


カウンターに立っているマスターの針の様な視線が痛い。このままでは喫茶店を出禁になってしまうではないか。


「はい、握手。」


そう言って私が右手を差し出すと、その青年はすぐに両手でガシッと私の手を掴み、恍惚の表情を浮かべていた。


「あの、手に頬ずりしても良いですか?」


「いや駄目だよ。」


過激なファンは要求が激しくなるから厄介である。応援してくれるのはありがたいが、ちゃんと節度は守ろうね。


「はい、握手終了。用が終わったら私に構わないで。今日はプライベートだから。」


「あの対面に座っても良いですか?」


「いや、駄・・・」


「失礼します。」


人の話を聞かないなこの子。サイコパスかも知れない。


「うわぁ、本物のサクガンガールさんだぁ。やっぱり体がバインバインですね♪エロいです♪」


「君さ、さっきから私のことをエロの権化みたいに言うけど、違うからね。私はエロくないからね。」


「えぇ、でもサクガンガールさんがピンチになると薄い本も厚くなりますよ。大分前に体に敵の粘液かけられた時なんか、絵師さんたちがこぞってエロイラストを描きまくってましたから。」


「そうなの⁉」


驚いた私はスマホを使って、サクガンガール、粘液、エロの三つのワードを入力してネット検索をかけてみた。すると出るわ出るわ、酷い目に遭わされる私のイラストが。私が世界の平和を守ってる時に世間の男共はこんな妄想を私でしているのかと思うと頭が痛い。


「どうです?凄いでしょ。僕はサクガンガールさんが、アへ顔ダブルピース決めてるの画像が好きです。」


「君は何でも正直に言うんじゃない。ここは紳士淑女がコーヒーや紅茶を嗜む喫茶店だぞ。次に変なこと言ったら頭蓋骨割るぞ。」


「えぇ‼良いんですか♪」


頭蓋骨割られる事すら喜ぶとか、本物のサイコパスじゃん。

危ないなコイツ。


”プォーン‼プォーン‼”


私の腕時計のアラートが鳴った。これが鳴ったということは、私が必要とされているということだ。

普段なら優雅な休日を邪魔されて舌打ちの一つでも打ちたくなるところだが、こんな厄介なファンに絡まれている時なら大歓迎である。


「じゃあ、緊急呼び出し来たんで、私はこれで。」


そそくさと喫茶店を後にしようとする私。しかし、青年は再び話しかけてくる。


「サクガンガールさん!!この喫茶店に来たら、またアナタに会えますか!!」


はぁ、また来るつもりかコイツ?

出来ればプライベートは大切にしたいんだがな。


「桜井 京子。次に会う時は私のことをそう呼びたまえ。」


「はい!!」


奇抜な言動は目立つが真っ直ぐな目は嫌いじゃない。

……あと顔も嫌いじゃ無い。



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スーパーヒロインの優雅な休日 タヌキング @kibamusi

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