そうやってしばらくの間、司がぼんやりと蛍の光を眺めていると、「……なんの話かって聞かないの?」と唯は言った。

 司が唯の声を聞いて、唯のほうを見ると、唯はいつの間にか、じっと司のことを見つめていた。

 司を見て、唯は、……その大きな目から、透明な涙をぽろぽろと流していた。

「……こんな夜中に突然なんだよって、早く家に帰りたいから、用事があるなら、早く話せよって、言わないの? ……迷惑だって、夜中に呼び出されて、それでいてずっと黙っていて、おまけに突然泣き出して、……迷惑だって言わないの?」

 司を見て、唯は言った。

「そんなこと言わないよ」

 泣いている唯を見て、司は言った。

「……どうして?」

「どうしてって、だって僕はちっとも迷惑だなんて思ってないから」

 にっこりと笑って司は唯にそう言った。

 自分でも、我ながらよくこんな恥ずかしい台詞が言えたものだなと思う。でも、言えた。君にちゃんと言えた。

 泣いている君に。

 迷惑じゃないって、ちゃんと伝えることができた。(それが司は嬉しかった)

 唯は泣きながら、じっと司のことを見ている。

 司も、じっと、そんな唯のことを見つめていた。

 二人は無言。

 そこには、ただ静かな二人の時間だけが流れていた。

 ……どこかで、ぽちゃんと魚が跳ねる音が聞こえた。

「……馬鹿」

 しばらくして、にっこりと笑って唯は言った。

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