三題噺

@i2zai

灰、未来、オレンジ

あるところにオレンジ被りと言われる元気いっぱいの娘がおりました。優しい家族には恵まれていなかったものの、それを物ともしない、笑顔が魅力のオレンジ農家の娘です。ある時舞踏会に招待され───

「というのはどうでしょう!?監督!」

「馬鹿野郎、お隣の灰被り姫と丸かぶりじゃねえか」

 うんうんと唸りながらストーリーを考える若手脚本家に中堅監督が檄を飛ばす。若手は生意気な若手らしく、ぶーたれた様子で不平を言う。

「でも大成功してたじゃないですか。オマージュですよオマージュ」

「お前にプライドはないのか。第一そんな雑なオマージュで納得するわけねえだろ」

 確かに先月よそで行われたシンデレラー灰被り姫ーは大成功、ハッピーエンドで満員御礼、三日三晩祭りのような状態だったらしい。だからと言ってオマージュ(しかもこれはパクリと言っても過言ではない)でいいわけがない。

「シンデレラは可哀想な娘だけどそれでも健気に努力するから王子が見初めたんだ。畑の明るい娘なんてごまんといるだろう」

「でも難しいですよ…納得してもらうストーリーなんて」

「それを考えるのがお前の仕事なんだ。そもそもシンデレラをオマージュするのは違うだろ。こっちはキャストが決まってるんだから、それに合った脚本を描いてくれよ」

「キャストってあの方ですよね…気のきつそうな。あの人じゃなければ書きようもあるんですけど」

「つべこべ言うな。相手は絶対にこの方に決まってるんだ」

 ぶーたれたままの若手がキャスト一覧─舞踏会の参加者リストに目を落とす。王子の結婚相手リスト、でもある。王子が選ぶ─とは建前で王と妃的には東国の王女が結婚相手として決まっているらしい。可哀想になあ、と若手は思う。王子は自分で選んでいるつもりなのだろうが。

「来週なんだからな。はやく舞踏会の筋書きを完成させてくれなきゃ困るんだ」

「わかってますよ」

「我々帝国演劇部の力で来週の舞踏会で王子に姫を決めてもらうのだ。この国の未来のために」

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