第二話 魔界の生活は今日も大変だ!①

――異世界生活一日目。

俺が異世界に転生して一夜開け、俺はレオンとリムに連れられ街を歩いていた。

二人の後ろをトボトボ付いていく俺はボソッと一言。


「眠い……」

「昼まで寝ていて何でまだ眠いんですか!?」


リムのツッコミを聞き流しながら、俺は大あくびをした。

昨日、異世界転生した興奮と寝なれないベッドのせいで全く寝付けず、昼まで爆睡していた俺をリムが来てほしいところがあるとたたき起こされ今に至る。


「それで、俺は一体どこに連れていかれるんだよ?」

「ああ、これから貴様のステータスを測りに行くのだ」


ステータス? そう言えば俺まだこの世界のシステム知らないんだった。

この世界にステータスがあるって事は……。


「なあ、ステータスって事はレベルやスキルもあるって事だよな?」

「? リョータさんまだ寝ぼけているんですか? レベルやスキルなんて、ちっちゃい子供でも知ってますよ?」

「貴様大丈夫か?」


二人の可哀想な人を見る視線が痛いです……。

でも、この世界の事は少し分かった。

そもそも、異世界と言っても色々ある。

例えば、魔法の適性がなければそもそも魔法が使えなかったり。

産業革命レベルまで文明が発達していて、銃弾が飛び交う戦争の世界だったり。

そんな多種多様な異世界の中で、どうやらこの世界はレベルやステータスがあるRPGゲームのような世界らしい。

と、俺がこの世界についてまとめていると、前方から五~六人の子供達が駆けてきた。

すると、先頭を走っていた少年が後ろにいる仲間と話していたため、前に居るレオンに気付かずにぶつかり尻餅をついてしまった。


「うわっ!」

「む? おい小僧、ちゃんと前を見て走らないと危ないではないか。気を付けろ」


おお、レオンってタダのイタい奴としか思ってなかったけど、ちゃんと四天王なんだな。

俺がそう感心していると、レオンが差し出した手を子供が振り払うと。


「ゲッ!? 四天王のレオンだ! 触んじゃねえ、中二病が移るだろ!」


………………。


「おい、ここに闇を何とかして影を何とかするレオンさんが居るぞ!」

「ギャハハハ! ダッセえ! 何でそんな恥ずかしい名乗り堂々と出来るんだよ!」

「なのにコイツこの前勇者に一番先にボコられてたじゃん! だから四天王最弱なんだよ!」


……コイツ、四天王なのに平民、しかも子供に煽られてるぞ。


「貴様らアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


怒りで顔を真っ赤にしたレオンは子供達に殴りかかった。



――子供達に激怒したレオンはとにかくヤバかった。


「こ、これはあんまりだろ……!」

「み、見てられません……!」


俺とリムの足下にはボロボロになった子供達――。


「ハア……ハア……! や、やるではないか……! まさか魔王軍四天王であるこの我と互角に戦うとは……!」


ではなく、子供達にボコボコにされたレオンが倒れていた。


「何が互角だよ! 完全に一方的だったろ! お前ガキ共に煽られた上にボコボコにされるって威厳もクソもあったもんじゃないな!」

「酷いです……コレは酷すぎます……! 何でレオンさんはそんなに弱いんですか……!? いくらヴァンパイアが日光の下だと弱体化するとは言え、コレはあんまりです……!」

「貴様ら、言ってくれるじゃないか……。フッ、良かろう。ならばこの我の闇の力の餌食に……!」


俺とリムがボロボロのレオンに引いていると、レオンがそんなことを言ってきた。


「お前まだ言うか!? 闇の力とか言ってるけど、一切闇魔法的なモノ使ってなかったじゃねえか!」

「う、うるさい! この力はあんな小僧共に使うにはもったいなさ過ぎるのだ! だから我はあえて力を使わなかっただけで……!」

「レオンさん……正直情けないです……」

「がはっ……!」


リムの容赦ない言葉がトドメになったのか、レオンは地面に突っ伏したまま動かなくなってしまった。


「……早くステータス測りに行きたいんだけどなあ……」

「ご、ごめんなさい……」






「――着いたぞ、ここだ」


やっと起き上がったレオンに連れられ、俺はある建物の前に立っていた。

異世界と言ったらまずはここだろう。


「冒険者ギルド……!」


――冒険者ギルド。

採取からモンスター討伐など様々な依頼がここに集まり、その依頼を受ける冒険者を支援する、異世界のハローワークのような組織だ。

異世界転生や召喚された主人公が必ずと言っていいほどここに訪れ、それでステータスが異常なほど高かったり低ランクなのにも関わらず伝説級のモンスターを倒して受付嬢に驚かれるでお馴染みであるこの施設。

俺の目の前には、俺が通っていた高校の体育館程の大きさがある、この国のギルド本部がそびえ立っていた。


「すげえ……これが冒険者ギルドか……!」


巨大な冒険者ギルドを見上げながら目を輝かせる俺に、リムが不思議そうな面持ちで見てきた。


「リョータさんって冒険者ギルドを見たことがないんですか? 普通冒険者ギルドは街に一つはあると思うんですが……」

「あー……、実は俺って遠くの国の、しかもかなり田舎に居たからな……」


まあ、実際に遠くの国というか異世界からきたし、かなり田んぼの多い所に住んでたから嘘は言ってないはず……。


「そんなことより、早く入るぞ」


うぬぬと唸っている俺にレオンがそう言うと、ギルドの中に入っていった。


「俺達も入るぞ……リム?」


俺も続いて入ろうとリムに話し掛けると、リムがギルドに入るのに躊躇しているのに気付いた。


「ああそうか、やっぱりギルドに入るのは怖いか」

「こ、子供扱いしないでくださいっ! 怖くなんかないです!」


そう言うと、リムは意を決したようにギルドに入っていった。


「あ、おい……!」


俺も慌ててギルドに入る。

薄暗いギルドの中は所々にテーブルが置かれ、鎧や武器をしょった冒険者達がたむろっている。

テーブルの上に皿があることから、どうやら飲食も出来るらしい。

俺の格好が気になるのか、やけに注目を集めている。

特にガラの悪そうなヤツは見当たらないが、いつ絡まれるかわからないと俺はビクビクしながら奥に進む。


(おい、アイツか? 魔王に認められたってヤツは)

(よく見ると人間じゃないか。ウチの国にも人間は少なからず居るけど、アイツは見た事ねえ顔だな)


そんな冒険者達の囁き声が聞こえてくる。

どうやら俺のことが噂になっているようだ。

それよりも、やはり魔王国と言うだけあって魔族がたくさん居る。

ローズのように頭に角が生えているヤツや、ワーウルフっぽい狼男もいる。

人間だからとここに居るヤツらが襲いかかってくるのではないかと心配していたが、全員興味深そうに俺を見てくるだけだ。


「おいリョータ、こっちだ」


そう俺が少し安心していると奥から呼びかけられた。

見てみると受付のような場所からレオンが手を振っていた。

その隣にはリムも居る。

俺はレオン達の方に向かうと、カウンターの奥に褐色肌で白髪、耳が尖っているお姉さんが立っていた。


「おお、ここの受付嬢はダークエルフなのか!」


ダークエルフとは、光の魔法を得意とするエルフとは対照的に闇の魔法を得意とする、エルフの近縁種だ。

目を輝かせる俺にダークエルフのお姉さんは軽く笑うと、丁寧に頭を下げた。


「私は当ギルドの受付を担当しております、カミラと申します。レオンさんから話を聞いております。少々お待ちください」


カミラさんはそう言うと、カウンターの奥に入っていった。


「リョータさんはどうしてそんなに魔族に詳しいんですか? 他所の国の人なのに」


すると、俺の隣で見ていたリムが不思議そうに訊いてきた。


「…………実は俺の古い友達に魔族に詳しいヤツがいてな」

「そうなんですね」


実は異世界物のラノベでも結構出てくるからななんて言えるわけがない。

この世界での俺の設定考えておかないとかもな。

そう思っていると、カミラさんが何かを持って戻ってきた。


「お待たせしました。それでは、これから簡単な説明をいたしますね」


カミラさんの説明をまとめると、この世界では他の生き物の生命にトドメを刺すことで、経験値と呼ばれるモノを吸収することが出来、経験値が貯まるとレベルが上がり強くなる。

まあ、そこら辺はRPGをよく知らない人でも分かりきった事だ。

そして自分の強さの値、ステータスを見るために、一番手っ取り早い方法が冒険者になることだ。

その冒険者とは、薬やポーションに必要な薬草を採取したり、人に害をなすモンスター討伐する何でも屋のような者達のことだ。

そして、冒険者にはジョブと呼ばれる役職があり、そのジョブによって獲得できるスキルが違う。

そのスキルを獲得するには、レベルアップとともに手に入るスキルポイントが必要であり、職業別のスキルを獲得するには、誰かにスキルを教えて貰う必要がある。

ちなみに、スキルポイントは最初から何十ポイントか持っているのが普通なのだと。


「基本的に自身のジョブは自身のステータスによって決めるんです。例えば、魔力が高ければ魔法使い系、筋力が高かったら戦士系、俊敏性が高かったらアサシンや盗賊とかですね。あと、冒険者を生業としている方が多いですが、兼業冒険者の方もおります。魔王様もその兼業冒険者という事になりますね」

「へえ。それで、そのステータスを見るにはどうしたらいいんですか?」

「はい、それではこちらを……」


すると、カミラさんは俺に少し大きめだが何も書かれていないカードとペンを差し出してきた。


「コレはギルドカードと言い、持ち主のレベル、ステータス、スキルなどを見ることが出来ます。それでは、これから登録を始めますね。まず、ここに自分の名前や特徴などを書いてください」


俺はカミラさんからカードとペンを受け取ると早速自分の特徴を書こうとし……。

…………。

俺は手を止めると周りを見渡してみる。

いつの間にかレオンは遠くに居る冒険者と話していた。

レオンが顔を真っ赤にして冒険者達が笑っているところを見て、どうやら冒険者達にも馬鹿にされているらしい。


「すいません、立ちながらだと書きにくいんで向こうで書いていいですか?」

「はい、どうぞ」


俺は唯一の常識人であるリムに誰にも気付かれないように手招きした。

リムは不思議そうな顔をしながらも素直に付いてきた。


「どうしたんですか?」


重大なことを忘れていた。

俺は誰にも聞こえないようにリムに耳打ちした。


「実は……俺、文字の読み書きが出来ないんだ」

「ええ!? それは本当でムグッ!」

「シーッ! 他のヤツに聞かれる!」


俺の言葉に驚きの声を上げるリムの口を慌てて塞ぐ。

そうだった、ここは異世界。

当然日本語の訳がないのだ。


「リョ、リョータさん……その年で文字がわからないって、今までどうやって生きてきたんですか……?」


俺が手を離すと、リムは声を潜めてかなりグサッとくる事を言ってきた。


「ほら、俺って遠くの国から来たっていったじゃん? 俺の故郷では、こことは違う文字だから……」

「この文字は世界共通ですけど……」


ヴッ、流石にこれは無理があるか……?

俺はどう言い訳しようかと思考を巡らせていると、リムがハッとしたように。


「も、もしかして……リョータさんって森林の奥深くに住んでいる民族の人だったり」

「それは違う」


リムは俺の即答に多少疑問を持ったようだが、やがてハア……と息を吐き。


「しょうがないですね。今回はリョータさんの代わりに書いてあげますから。あと、文字が分からないなら教えてあげますよ?」

「いいのか!? ありがとうリム!」

「い、いえ! 困っている人を助けるのは大人として当然なことですから……!」


リムは俺の感謝の言葉に、少し頬を赤くしながら胸を張った。

……可愛い。

俺はリムにカードとペンを渡す。


「じゃあリョータさんの特徴を言ってください」

「ええっと、名前は月城亮太。歳は十六で黒髪に黒目。身長は166で体重は55……」


俺が言った特徴を、リムがカードに何かをスラスラと書いていく。


「……はい、どうぞ」

「ありがとう」


俺はリムに特徴を書いて貰ったカードを受け取ると、受付に戻った。


「終わりました」

「それでは、次にこのピンで指を突いて、その指でカードに触れてください。それが終わりましたらカードに自身のステータスが記されていますので」


なるほど、自分の血を使うのか。

俺はカミラさんから受け取ったピンで人差し指を突き、カードに触れた。

すると、カードが淡い光を放ち始めた。

光が収まると、カードには自分のステータスを記すグラフなどが書かれていた。


「クソ……いつか必ずこの借りは返してやるぞ……む? どうやら登録が終わったようだな」


冒険者達にも返り討ちにされてボロボロのレオンが、そう言いながらこちらに向かってきた。


「なあなあ、やっぱ俺ってステータス高いよな? それがテンプレってもんだし!」

「てんぷれという言葉は知らないが、貴様には魔王の力が宿っている。当然ステータスは高いだろう」


ワクワクしながら訊く俺に、レオンが苦笑しながらそう返す。

ふと周りを見てみると、俺のステータスの結果が気になるのか、いつの間にか人だかりが出来ていた。


「リョータさん、私にも見せてください」

「いいよ。さあ、俺のステータスの高さに驚くがいい……!」

「何レオンさんみたいな事を言ってるんですか? まったく……」


決めポーズを取る俺に呆れながら、リムは俺の冒険者カードに目を通し。


「えええええええええっ!?」


驚愕に目を見開き、そのまま固まった。


「な!? な!? やっぱ俺のステータス高いだろ!?」


俺はリムの反応に喜びながら訊くが、リムはまだ固まっている。


「どうしたのリムちゃん?」

「そんなに高かったのか?」


カミラさんとレオンもそう言いながらリムの両脇から俺の冒険者カードを見た。


「なっ……!?」

「こ、これは……!」


すると、二人もリムと同じように目を見開いた。

その光景を見た周りの冒険者達がざわめき立つ。


「ヤッター! コレだよコレ! やっぱ冒険者ギルドでステータス測る時はこうでなくっちゃ! なあなあ、どうだった? もしかしてステータスがカンストしてたりして……!」


俺が飛び跳ねながら今だ固まったままの三人に訊くと、三人が同時に呟いた。


「「「ひ、低い……」」」

「………………え?」

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