魔界は今日も青空だ!

陶山松風

第一章 転生魔王(仮)の異世界奮闘記

プロローグ

暇なときは、近くの書店のライトノベルコーナーで立ち読みをする。

それが俺、月城亮太の日課だ。

今日も学校が終わり、家に帰った俺は、すぐに私服に着替えて書店へと向かった。

俺の住んでるのは町と田舎の中間とも呼べる小さな町だが、すぐ近所に本屋がある事が幸いであった。

顔見知りの店員と軽く挨拶を交わし、俺は早速ライトノベルコーナーの新刊の棚の前に立った。

上から順々にラノベを手に取っていき、パラパラとめくる。

そして興味を持ったある一冊のラノベを決めると、すぐ近くにある椅子に腰掛け読み始めた。

五分ほど経ち、小説をザッと読み切った俺は、気に入ったこの本を買うべくレジへ向かう。

その道中にあった新刊の棚の方に目を向けてみると、そこには五、六歳ぐらいの女の子が新刊の棚を見上げていた。

表紙のイラストが気になっているのだろうか。

辺りを見渡してみたが、その女の子の親らしき人は見当たらなかった。

おそらく、この子は迷子なのだろう。

どうしよう……ここは話し掛けるべきなのだろうか。

俺は少し戸惑ったが、意を決っして女の子に話し掛けようとしたその時。

――地面が揺れ出した。


「うわっ!? 何だ地震か!?」


俺が驚きの声を上げると、女の子は驚いた表情で俺を見た。

辺りからチラホラどよめきが聞こえる。

幸いなことに、揺れはほんの数秒で収まった。

俺はポケットからスマホを取り出す。

どうやら震源はここから近いらしいが、幸いにも震度三程度の小さな地震だったらしい。

俺は安堵のため息をついたその時、地震に驚いたのか俺の声に驚いたのか、目の前の女の子が声を上げて泣き出した。


「だ、大丈夫か!? 怪我とかしてないか!?」

「うわああああああああああんっ!」


俺が咄嗟になだめたが、女の子は更に声を大にして泣きじゃくる。

ヤバイヤバイヤバイヤバい!

こんな時どうすれば良いんだ!?

俺がどうやってなだめれば良いのか分からず、オドオドしていると、俺のポケットの中にあるものが入っているのを思い出した。


「ほ、ほら! お兄ちゃんがコレをあげよう!」


俺はそのある物を取り出し、女の子に渡そうとしたその時、ふと思った。

アレ……? これじゃあ俺不審者じゃね?

俺が女の子に渡そうとした物とは、たまたま俺が家から持ってきたレモン味のキャンディー。

どこの誰だか知らない男が飴を子供に差し出す所なんて、どう見てもヤバい気がする。

ふと視線を感じて見てみると、女の子の泣き声を聞きつけたのか書店に居た人々が集まり、キャンディーを差し出そうとする俺を怪しい目で見つめてくる。


「ちょっと君、このどさくさに紛れて何しようとしているんだ?」

「ち、違うんです! 俺はただこの子をなだめようとしただけで……!」


俺が周りの人に必死に説明していると、女の子は更に泣き出した。


「お母さあああああああああああああああん!」

「……君、ちょっと裏まで来てくれないかな?」

「だから違いますってば! ああもうこの子の母ちゃんはどこにいるんだよ!?」


俺がそう言って頭をかきむしっていたその時だった。


「あ、危ない!」


それは誰の声だったのか分からない。

俺はその声に反応して視線をあげてみると、俺と女の子の前に立っていたラノベの新刊の本がゆっくり傾き始めていた。


……え?


気が付くと、俺は女の子を突き飛ばしていた。

女の子は状況が理解できていないようで、涙と鼻水でグチャグチャの顔でぽかんと俺を見ている。

その顔を見た瞬間、俺の全身に衝撃が走った。

背中にズシリと重たい本棚がのしかかり、上手く呼吸が出来ない。

そして、ゆっくりと霞んでいく視界の中、泣き声を聞きつけたのか、あの女の子の親らしき女性が女の子に駆け寄っていく姿が見えた。

そして、あの人集りの中の誰かが叫び声を上げたのを、薄れかかっていく思考の中で聞いた俺は――



――暗転。

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