第13話 帰路へ……?
「鏡華」
「双魔、ティルフィングはん?」
「うむ、ソーマに呼ばれたのだ」
双魔が行くと丁度、話が終わったのか救急隊員が離れていくところだった。鏡華はティルフィングを見ると少し驚いた。
「ガソリンタンクの応急処置をするのに来てもらった」
「そら、ティルフィングはんの力が必要やね。来てもらって正解やわ」
「ん……さて、この辺りも落ち着かなくなったな……一度帰るか」
「帰るって……うちら当事者やのに帰ってもええの?」
「ああ、また後で話を聞かれるだろうけど今日は大丈夫だ。警官に知り合いがいてな」
「そう言うことなら帰らしてもらうのがええかもね」
双魔の説明に鏡華は納得したようだ。それにお互い騒がしい所は好きではない。日も大分傾いてきた。帰るにはいい時間だ。
「む?お出かけはもういいのか?」
二人の会話を聞いていたティルフィングはこてんと首を傾げた。
「うん、楽しかったからええの。帰ろか」
「ティルフィング、左文は?」
「部屋の掃除をしてからテレビを観ていたぞ」
「ん、そうか……こっちに来る時ちゃんと言ってきたか?」
「うむ、いってきますとちゃんと言ったぞ」
「黙ってきたわけじゃないんだな……分かった。んじゃ、帰ろう。ティルフィング、ほれ」
「うむ!」
双魔が右手を差し出すとティルフィングギュッとその手を握った。
「あ、ティルフィングはんだけはずるいよ?うちも」
そう言うや否や鏡華は双魔の左腕に抱きついた。両手が塞がり、左右から身を寄せられているので少し歩き難いが仕方ない。それに春になったとはいえ陽が落ちればまだ寒い。
ティルフィングに鏡華に挟まれていれば身も心も暖かいというものだ。
アパートに向かうために川辺から街に抜ける道に足を向ける。しかし、事後処理に緊迫する遊歩道の出口には既に規制線が張ってあった。もちろん警備のために警官が大勢立っている。
「さて、説明に手間取らなければいいんだが……」
「帰ってもええって言われたんとちゃうの?」
「警官全員と知り合いって訳じゃないからな……もしかしたら駄目な可能性もある?」
そう言いながら近づいていくと警官数名が双魔たちに気づいた。警戒しているのかかなり圧のある視線を向けられた。が、双魔も鏡華も修羅場を潜ってきているのでそれしきで動揺したりはしない。
ティルフィングは双魔と手を繋いだまま器用に双魔の後ろに隠れていた。
「……ソーマ、邪魔されたらやっつけるのか?」
「……そんなことしなくても大丈夫だ。心配するな」
「ほほほ……」
ティルフィングが隠れながら物騒なことを言うので可笑しくて少し笑ってしまった。鏡華もつられて笑っている。
笑っているうちに警官たちの間合いに入った。明らかに警戒されている。
「……君たちは何だ?関係者か?」
「まあ、一応事故の当事者ってところだ。帰りたいんだが……」
「それならば申し訳ないがまだ帰すわけにはいかないな。事情聴取も終わってないだろう?さっ、戻りなさい」
警官の一人が一歩前に出た。雰囲気的にはこの周辺の班長と言ったところだろうか。ティルフィングが双魔のジャケットの裾を握る。
「ジュール=レストレイド警部に後日詳細な話をする代わりに今日は帰ってもいいと言われている」
(……さて、どうだ?)
双魔は警官たちの反応を窺った。ジュールの部下が一人もいなければ面倒なことになるかもしれない。が、心配は杞憂に終わった。
「レストレイド警部のお知り合いですか?」
一歩前に出た警官の表情が少し柔らかくなった。如何やら彼はジュールの部下らしい。
「ああ、そうだ。身分証も見せた方がいいか?」
「ありがとうございます。警部のお知り合いということなら心配はないでしょうが。一応、提示願います」
「うちも出した方がええよね?」
「お願いいたします」
双魔は王立魔導学園の職員証を、鏡華は学生証をそれぞれ警官に差し出した。
ジュールの知り合いと分かって対応に険が無くなった警官は敬礼をすると双魔と鏡華の受け取り、確認して目を大きく見開いた。
「こ、これは失礼しました!お二人とも王立魔導学園の関係者の方でしたか!しかも、神話級遺物の……」
そこで警官が双魔の後ろに隠れたティルフィングに気づいた。
「も、もしや……そちらのお嬢さんは……」
「俺の契約遺物だ。可愛いだろ」
双魔の笑顔に警官たちの表情が引きつった。魔導が統べるこの世界では魔導に関わらない一般人も”神話級遺物”がどのような存在であるかは分かっている。下手に機嫌を損ねてしまえばとんでもない事態に繋がる、と。
「ご、ご身分の確認は出来ましたので帰っていただいてけ、結構です。引き留めてしまって大変申し訳ない。後日、連絡があるかと思われますのでその時はどうぞよろしくお願いいたします」
「いやいや、気にしないでくれ。アンタたちは職務に忠実なだけで何も悪くない。冷えてきたけど頑張ってくれ」
「はい!それでは、お気をつけてっ!」
気づけば警官全員が双魔たち三人に敬礼をしていた。そんな警官の間を抜けていく。さらに現場の周りに集まった野次馬の人だかりをかき分けて道に出ていくのだった。
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