第6話 曇り顔の理由

 「…………」

 「…………」


 家を出た二人は先ほど双魔が見たカップルのように取り敢えず大通りの方へと歩いていた。


 しかし、会話もなく何となく重い雰囲気が漂っている。


 (……やっぱりこういう雰囲気は早めに解消しておいた方がいいよな…………聞くしかないか……)


 こういうものは何事においても先に延ばせば延ばすほど悪いものになっていくのだ。双魔は意を決して口を開いた。


 「……鏡華」

 「うん?どしたん?」

 「何かあったのか?もしかして、俺が何か気に入らないことでもしたか?」

 「……え?きゅ、急に何?」

 「隠さなくていい。落ち込んでるのなんてすぐに分かる。一体、何年付き合ってると思ってるんだ。何かあったんだろう?俺に解決できることもあるかも知れない。どうしたんだ?」


 立ち止まって双魔が半ば詰め寄るようにすると流石の鏡華も観念したのか。息をついた。


 「……双魔にはお見通しやね……その……服、何やけど……」

 「服?」

 「うん……双魔、そのネクタイ、デートやから着けてくれたんやろ?うちのために……」

 「ん……まあ、な……鏡華もその、化粧してるだろ?……その、俺のために……さっきは何となく言えなかったけど綺麗だぞ?」

 「そ、そう?おおきに……双魔に褒めてもらえて嬉しい……」

 「「…………」」


 互いに褒め合って何とも言えない空気が流れる。端的に言うと二人とも照れているのだ。そんな空気で中断された話を続けようと鏡華は双魔の目を見た。


 「そ、それでな?うちもせっかく双魔とロンドンを歩くんやから綺麗で可愛い服着ようと思ったんやけど……その、制服以外は着物しかなくって……下手に着物なんか着てじろじろ見られたら双魔も嫌やろうから……制服を着てくる他なくて……」


 (……そういうことか)


 双魔は得心が言った。鏡華は納得のいくおしゃれが出来なかったことを双魔に対して申し訳ないと思っているのだ。双魔は普段あまりしない化粧をしてくれているだけで十分嬉しいのだが、鏡華はそういう訳にはいかないのだろう。


 確かに鏡華が洋服を着ているのは双魔ですらほとんど見たことがない。記憶を遡っても思い出せないほどだ。


 しかし、この鏡華の吐露は双魔に閃きを与えた。


 「……なるほど、そういうことか……それなら……ん、それでいくか……」

 「……双魔?」


 鏡華の不安気な視線に気づいた双魔はニヤリと笑って見せた。


 「鏡華、何処に行くか決まった。決まったからには時間が勿体ない。行くぞ!」

 「えっ?双魔?決まったって何が??」

 「いいから、いいから」

 「えっ?えっ?えっ?」


 双魔は鏡華の手を取ると歩くペースを速めた。手を取られた鏡華は珍しく押しの強さを感じさせる双魔に目を白黒させながらついてゆく。


 双魔と鏡華、二人のデートはまだまだ始まったばかり。


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