第14話 注意喚起ライブスタート
翌日の夜。ダンジョン32階層。
「見つけたよ。サラマンドラが1体。東の広場にいる」
荒木田さんと水無瀬さんの下に『
あの動画でSランクモンスターの強さを誤解する人が少なからずでてしまっただろう。だから、今回はサラマンドラの本来の強さを見せつける必要があった。
「アキちゃん、すごい!これで準備はオッケーだね。開けた場所なら撮影もしやすいし!」
水無瀬さんは小型のアクションカメラを取り付けた自撮り棒を構えてやる気十分だ。
「灰戸さん、最終確認です。サラマンドラを引き付けて最低でも5分以上、交戦状態を維持すること。特にブレス攻撃は危険性を示すにはうってつけです。水無瀬さんが撮れるよう、上手く攻撃を誘ってください。自分は水無瀬さんを保護することを優先して動きます。安心して戦いに集中してもらって大丈夫です」
荒木田さんが準備運動をしながら、作戦内容を淡々と告げる。結構な無茶ぶりだけど、『
「それから、いきなり『
正直それが一番キツイ縛りだけど、サラマンドラの強さを引き立たせるには避けては通れないのも確かだ。必要な手順を改めて再認識し、気合いを入れなおす。
「ふう、分かった。それじゃあ始めようか」
各々装備の最終確認を行い、準備完了。水無瀬さんがカウントダウンを始める。
「撮影開始まで、5、4、3、2、1……!」
ゴクリと生唾を飲む。
「こんミーナ~!みんな聞こえてる~?水無瀬しずくだよー!」
ついに始まった配信のオープニング。
水無瀬さんは普段からさらに一段階ギアを上げたキラキラオーラを纏って挨拶を披露した。でも、素の時と比べても過剰な演技をしているという感じはあまりない。
そして、彼女は慣れた手際で配信コメントとのやり取りを始めた。
どうやら音声や映像が視聴者に届いていることを確認してるみたい。
「うん。みんな見えてるね!ではでは、早速始めるよ~。今日は始めましての方大歓迎の特別企画!なんとダンジョン管理局さんとのコラボ生配信なのですー!パチパチパチ~!」
自然体に近く、それでいて印象に残りやすい語り口だ。さすがは人気配信者。彼女が作り出す雰囲気に圧倒されている間にも、流れるように水無瀬さんの司会が進んでいく。
そろそろだ。出番が近づき体中から汗が噴き出す。すでに私の心臓は爆発しそうなくらい激しく脈打っていた。
「さて、みなさんお待ちかね!今日のスペシャルゲストを紹介するね!まずはダンジョン管理局が誇る特級探索者、荒木田葉介さん!」
水無瀬さんのフリに合わせて、荒木田さんが丁寧にお辞儀をする。
「荒木田です。今回は管理局から皆さんに大切なお知らせをするため、このような場を設けさせてもらいました。高評価ボタンなど、拡散へのご協力をぜひともお願いします」
荒木田さんは台本通りに粛々とセリフを言い切った。次は私の番だ。ヤバイ。ドキドキするぅ!
「はい!荒木田さんありがとうございます~。続いては本日のメインゲスト!このわたし、水無瀬しずくをサラマンドラの魔の手から助け出した救世主!灰戸亜紀ちゃんで~す!」
水無瀬さんの手の動きに合わせてついにカメラが私に向けられる。ううっ、もうどうにでもなれぇっ!
「はっ、灰戸です!い、今、サイト21にはSランクモンスターがたくさんうろついていましゅっ!」
あああぁぁっ、かっ嚙んじゃったっ!あ、あれ?次なに言えばいいんだったっけ!?セ、セリフが飛んじゃったよぉ!あわわ、どどどうしよう!?
「そうっ!下層にしかいないはずの超危険なSランクモンスターが、この中層に
あ、水無瀬さん。代わりに私の分まで説明してくれたんだ。すごいアドリブ力。水無瀬さんはこちらをチラリと見て軽くウィンクした。
「ここまで聞いて、興味本位でダンジョンに潜ろうと思ったそこのみんな!Sランクモンスターを甘く見てるんじゃない?今日はそんなみんなに今のサイト21がどれだけ危険なのか、実際に見てもらおうと思います!」
続いて、荒木田さんが声を張る。
「この配信はみなさんにSランクモンスターの危険性を知ってもらうのが目的です。これをきっかけに、事態が終息するまでダンジョンへの立ち入りを控えてもらえればと思っています。ぜひ、最後まで視聴していってください」
荒木田さん、初めてカメラの前に立つのにすごい堂々としてる。人生経験を積むとこれくらいのことでは動じなくなるのだろうか。私にはちょっと無理だから尊敬してしまう。
「ここで最新情報です!今わたしたちがいるこの32階層にもすでにSランクモンスターがいるんだよね~。これからその子と戦って、バトルの様子をリアルタイムでみんなにお届けするよ!でも!これは特級探索者の2人のおかげでできることだから、良い子のみんなは絶対にマネしちゃダメだぞ~」
水無瀬さんはカメラに指を向け、釘をさすように注意を促した。これで配信内容の説明は終了だ。あとは、サラマンドラがいた場所に行って実際に戦うだけ。
私たちは足並みをそろえてゆっくりとダンジョンの中を進み始める。
「ここからはちょっと小声になっちゃうけど、ちゃんと実況していくよ~。もうSランクモンスターは近くにいるから、みんなも静かにしてよーく見ててね」
水無瀬さんはカメラに向かって道中も実況を展開していた。場を繋ぐトークも一切淀みなく、楽し気にこなしている。
さっきはセリフをとちったところをフォローしてもらっちゃったし、水無瀬さんはやっぱりすごいなぁ。次は一番大事な戦闘だ。今度はしょうもないヘマなんてしてられない。両手で頬を叩いて覚悟を決める。
そして最後の仕上げ。左耳にイヤホンを装着する。視聴者の反応を確認しながら戦闘を行うために必要だからだ。読み上げられるコメントを聞いて、十分サラマンドラの強さを示せたタイミングを見計らい止めを刺す。
戦いながらコメントにも注意を払うなんて初めてのことだけど、なんとしてもやり切って見せる!
「いた。みんな見える?あれがSランクモンスターのサラマンドラですっ」
水無瀬さんが小声で囁きながら、サラマンドラにカメラを向ける。まだこちらには気づいていない。
“やっぱでかいな”
“今来たもう始まる?”
“後姿でもすでにヤバそう”
“ドキドキ”
コメントが次々と耳に入ってきた。すでに視聴者は盛り上がり始めてる。もう間もなく本番が始まるんだ。騒ぐ胸を押さえて、その時を待つ。
「それでは、行きましょう」
荒木田さんが合図を出し、先陣を切った。
私もそれに続き、打ち合わせ通り水無瀬さんは最後方でカメラを構える。
私たちが動き出した気配を察知したのか、サラマンドラの首がぐるりとこちらを向く。瞬間、威嚇するように姿勢を下げ、サラマンドラが唸り声をあげた。
「『
私はすぐさま疾風と共に中空に飛び出す。
いよいよ戦闘開始だ。
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