第9話 とっておきの解決策
昼休みが終わり、午後の授業に入って私の眠気はピークに達した。
そして、気が付いたら午後の授業の大半を寝て過ごしてしまっていたらしい。先生のお叱りを受けて目覚めてはまた寝落ち、というのを繰り返しあっという間に放課後が訪れていた。
「ふわぁ、よく寝たー」
先生たちには悪いけど、十分な仮眠が取れて助かった。おかげで夕方なのに私は気力に満ち溢れていた。
頭もハッキリして、荒木田さんからの依頼についてもある程度考えがまとまった。
結論。動画には出ずに、事件を解決すればいい。
Sランクモンスターが地上を目指しているのなら、その原因を突き止めてなんとかすればダンジョンを封鎖する必要はなくなる。
私は動画に出演しなくてすむし、ダンジョンの平和も守られる。これこそ、誰も不幸にならない最善の手段だよね。
手がかりはなにもないけど、とにかく下層を探索してなにか異変がないか調べてみよう。そうと決まれば、早速行動開始だ。
私はいつにも増して気合十分でダンジョン、サイト21に向かった。
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ささっとダンジョン36階層に到達し、私は休憩しようと岩場の影に腰を下ろした。
「ふー、順調順調」
荒木田さんは、現在Sランクが出没するのは40台の階層だと言っていた。この前のパトロールもそうだったけど、今日もここまでの階層ではSランクモンスターは影も形も見当たらない。
やっぱり32階層に現れたサラマンドラはかなりイレギュラーだったのかも。それなら、下層で原因を探る猶予は十分ある。
「よし、休憩終わり。先に進みますかぁ」
探索を再開しようと身体を大きく伸ばして、ゆっくり立ち上がったその時。
ズシンと地鳴りが響いた。
「ん、今のは?」
震源を探して辺りを見回し、思わず目を見張る。
自然と視線が上を向く。立ち並ぶ木々の影から、山のような巨体が姿を現した。
その巨人はギロリと大きな一つ目で私の姿を一瞥した。
Sランクモンスターのサイクロプスだ。
ついに遭遇してしまった。驚きと共に、この異常事態は早く解決しなければという思いが改めて胸の内に去来する。
それはともかく、中層でコイツを野放しにはできない。とりあえず、ここで倒さなきゃ。
一つ目の巨人は大地を揺るがさんばかりの咆哮と共に、こちらに向かって駆け出した。一歩一歩があまりにも大きい。地響きが轟き、
「う、速いっ!」
右手に持った大木のような棍棒が恐ろしい速度で迫る。
『
ドゴオォォン!
まるで爆発音みたいな轟音が鳴り、さっきまで私がいた場所に巨大なクレーターが出来上がった。私の姿を見失ったサイクロプスが、素早く首を振る。瞬時にこちらに気づくと、持っていた棍棒を突然放り投げた。
「げっ!」
豪快に回転しながら私の頭上に棍棒が降ってくる。できるだけ離れた場所に座標を指定。『
間一髪で投擲攻撃を回避。冷汗が頬を伝う。
「ヤバイ。これはちょっと厄介かも」
私の『
だから、コイツみたいに私の反応速度に迫るスピードで動ける相手にはすこぶる相性が悪い。ちょっとでも油断すればあっという間にペシャンコにされてしまうだろう。
「でも、私も弱点対策くらいはしてるんだよね。『
私の身体を中心に風が逆巻き始めた。吹きすさぶ突風の推進力で機動力を底上げする汎用スキル。これでサイクロプスから視線を切らなくても、回避行動を取れる。
岩に刺さった棍棒を引っこ抜いて、サイクロプスは首をゴキゴキと鳴らした。
真っすぐにこちらを睨みつけ、サイクロプスは棍棒を両手で持って構える。次の瞬間、大地を抉らんばかりの踏み込みから、爆発的な加速でサイクロプスが突っ込んで来た。
真上に構えた棍棒が渾身の力を込めて振り下ろされる。私は素早く右手に横っ飛びした。巻き起こった風が私を包み、身体が高速で宙を舞う。棍棒の一撃が地面を吹き飛ばし、岩石が派手に飛び散る。
身を翻し、疾風を
「『
指先から弾けるような稲光が迸り、一条の光線となってサイクロプスへと放たれる。攻撃の反動で動けずにいるサイクロプスの肩に雷撃は見事直撃した。
それでもサイクロプスはほとんどダメージを受けていないようで、すぐさま振り返ろうとする。しかし、そこでガクンと膝をつき、巨人の動きが止まった。
「やった、そのまま動かないでよ!」
『
正直これだけではただの足止めにしかならない。だけど、私には必殺の一撃がある。
即座にサイクロプスの真後ろに転移。屈強な背中に右手を押し付ける。
「『
一瞬で胴体が消し飛び、サイクロプスはそのまま倒れ込むようにして絶命した。
『
「ふう、ちょっとヒヤッとしたかな」
ここでサイクロプスに遭遇したことでハッキリした。確実に、Sランクモンスターの地上への移動は進行しているみたい。はやく下層に行って原因を見つけないとマズいことになる。
気を引き締めて下層へ向け歩き出した所で、ふと気づく。
ズシン。
まただ。さっきと同じ、地面の振動。
嫌な予感が脳裏をよぎり、頬を冷たい汗が伝う。
まさか、そんなことって……。
徐々に地響きは大きくなる。そして、視界の端に巨大な影が映り込んだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。さすがに冗談きついって」
木々を掻き分けて現れたのは、今倒したはずの魔物。サイクロプスだった。
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