第6話 突然の訪問者
ぐったりして帰宅した私は、ベッドに寝そべりながら珍しくスマホを弄っていた。
というのも、私はまだ実際にネットがどんなことになっているのか一切知らなかったからだ。せめて、今どんな状況なのかは確認しておきたかった。
「うーん、やっぱりネットって慣れないなぁ。あ、もしかしてこの記事かな?」
サラマンドラで検索して、目についたそれっぽい記事をタップする。
記事のタイトルはに「有名配信者、水無瀬しずくをサラマンドラから救った謎の探索者まとめ」とあった。
さらさらと記事に目を通していくと、知らない情報が山のように出てきて驚く。
まず、水無瀬さんがチャンネル登録者20万人越えの大人気ダンジョン配信者だというのが初耳だった。
「私、こんな有名人を助けちゃってたんだ……」
われながら、同じ学校に通ってて存在をちっとも知らなかったのはどうなんだという気持ちが湧いてきてしまう。
「もうちょっと、周りにアンテナ張る様にしたほうがいいかな」
まあ、それはひとまず置いといて。記事にはさらにこの救出劇がフェイクではないかと考察する内容が続いていた。そこにはSNSでの複数の書き込みが引用されている。
“一般の探索者が単独でSランクを倒すのは無理。よってこれはヤラセでFA”
“サラマンドラの頭に穴が開くとこ不自然すぎ”
“映ってる探索者の動きが明らかにおかしい。編集にしか見えないな”
“サラマンドラが火を噴く直前に背景が切り替わってる。加工失敗してないか”
「この流れ、いいじゃん。フェイクってことになってたら騒ぎもすぐ収まるかも」
一瞬そう思ったけど、実際はそんなにうまくいかなかったみたい。Sランクを倒した探索者の実在を信じる声は、希望的観測も相まって圧倒的に多かった。その結果、フェイク説を唱えるコメントとのリプライ合戦が発生し、それが拡散されてしまったらしい。
あっという間にトレンド1位になり、元動画は300万再生を突破。切り抜き動画の存在も合わせるともっとたくさんの人の目に触れていることになる。
数字で見ると改めて事態の深刻さが身に染みてきた。動画に映った自分の姿が脳裏にフラッシュバックする。
「うっ、やめよう。考えただけで恥ずかしくなってきちゃう」
結局、フェイク説に対しては事実に基づく反論があがっていた。
“実際にこの時間に救助隊が動いてたって目撃情報がある”
“現場見に行ったらサラマンドラ倒れてたからガチ”
ふむふむ。それで、今はネットでも本物説が濃厚ということみたい。
さらにいくつかのサイトを飛び回っていると、今度はサラマンドラを倒した探索者のスペックや正体に関する話題を見つけた。
“本物ならこの女、特級探索者ってことになるんか?”
“特級探索者ってなに”
“ダンジョンの出現と同時に能力に覚醒した人”
“ちな、特級はチートスキル持ってるから鬼強いぞ”
“あの強さなら、十中八九そうだろうな”
うわ、特級探索者の話がでてる。特級は『プライムアビリティ』持ちを区別するためにできた用語で、もちろん私も特級探索者だ。
なんか自分の素性を言い当てられたみたいで少しびっくりしちゃった。でも、一般探索者では勝てないSランクを倒したとなれば、順当な推測だし。
ちょっと神経質になり過ぎかな?私は気を取り直して画面をスクロールする。
“特級ならワープできてもおかしくないな”
“特級はもうほとんど引退したって聞いたけど”
“なら絞り込みやすいんじゃない”
“つーか、顔映ってんだから誰だか分かりそうなもんだけどな”
“近くの高校に通ってる女子高生だって噂”
ここまで読んで、ドキリとする。いやいや、近くの高校って言ってもいくつかあるし、たまだまだよね?嫌な予感を押さえつけながらコメントの続きを目で追う。
“それマ?くわしく”
“確定じゃないからぼかすけど灰戸って名前の女子”
“珍しい苗字だな。ぼかせてないじゃん”
“なんか根拠あんの”
“水無瀬しずくが礼を言いに来たんだと”
“それもう決まりだろ”
えええぇぇえっ!?怖いっ!ネット怖い!!なんで今日の出来事がもう広まっちゃってるの!?っていうか、私の名前までバレちゃってるし!こんなのヤバすぎるよぉ!
ひとしきりベッドの上で悶えた後、深呼吸して気持ちを落ち着ける。
状況を再び脳内で
「もう、考えるのやめよう」
私は本棚の漫画に手を伸ばす。とりあえず、なにかして気を紛らわせないと。
その時だった。玄関からチャイムの音が鳴った。
こんな時間に誰だろう。まあ、お母さんが出てくれるよね。そう思って漫画を読んでいると、しばらくして部屋のドアがノックされた。
「亜紀、あなたにお客さんよ」
「え、私に?誰だろう」
わざわざ私の家まで訪ねてくるような知り合いに心当たりはない。
頭をひねりながら、リビングに足を踏み入れる。
そこにいた男性は、たしかに私の知人ではあった。
「灰戸さん、お久しぶりです。大きくなりましたね」
親戚のおじさんみたいなことを言って、その人は首だけをこちらに向けた。
相変わらずのボサボサ頭で、覇気のない死んだ目をしている。
社会人らしくスーツだけはキッチリ着こなしているところも、昔と変わらない。
「荒木田さん。なんであなたがここに?」
「単刀直入に言うと、仕事の依頼です。ダンジョン管理局からのね」
荒木田さんはそう言って、手元のお茶をズズズと啜った。
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