別の姿

色々とミスった・・・

サヤが出て行った後の寒々とした部屋を見ながら、僕は時間に遅れたこと。そしてギリギリまで会話をしてしまった事を後悔した。

いつもだったらあえて終了15分前に打ち切っていたのだ。

そうすれば、家を出るまで21時以内なのでサヤは「みーちゃん」のままで部屋を出て行ってくれていた。

(じゃあパパ、行ってくるね!また金曜日に。・・・私が居ないからって泣いちゃダメだよ)

(泣くもんか。お前こそ寂しくて泣くんじゃないぞ)

そんなやり取りの後、サヤはアッカンベーをして出て行ってくれていた。

それはみーちゃんが良くやっていた事だった。

それが今回は・・・

事務的なサヤの様子を見てしまい、部屋だけでなく身体まで冷えてしまったような気がした。

冷蔵庫を開けると、野菜の煮物と肉じゃがが入っていた。

みーちゃんの得意料理だった。

せっかくだから、とレンジに入れて温めた後、ビールと一緒に口に入れる。

だが、それはまるで砂を噛んでいるように思えた。

サヤと一緒に食べている時だけは食事も美味しいのに。

そう思ったとき、サヤの言葉が頭に浮かんだ。

(業務時間外での・・・)

「業務・・・か」

目の前の肉じゃがと煮物の皿を取ると、キッチン横のゴミ箱に全て捨て、ソファに座ると飲みかけのビールを一気に飲んだ。

「召し上がってください」なんて言う娘がどこの世界にいるんだよ。


ふらつく足取りで隣の部屋に入る。

そこにある仏壇には妻の聡子とみーちゃんの遺影がある。

サヤもいつも月曜と金曜の仕事終わりには、手を合わせてくれる。

「死人の振りしてるんだから、手ぐらい合わせるか・・・」

苦笑いしながらそう言うと改めて2人の遺影を見る。

そうしていると、目が熱く痛くなってくる。

くそ、まただ。

いつになったらこれが無くなるんだ・・・うっとしい涙め。

そう思いながらも、溢れてくる涙を引っ込めることが出来ず、声を上げて泣き出した。

もう嫌だ。だれか僕を殺してくれ。

なんで僕ばかりこんな・・・

もう終わりだ、レンタルファミリーなんて。

惨めなだけだ。

あんな事務的な態度の女なんて、クレーム入れて解約してやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る