1-2

「なにか、訳ありで? 俺で良ければ話を聞きますよ?」

 関係ないはずの進藤の言葉に、常盤は戸惑いながらも口を開いて言葉を発する。

「……実は……助けて頂きたいんです」

「……ん?」

「助けて頂きたいんです」

 落ち着いた手で一通の封筒をカバンから取り出し、常盤は進藤に渡す。普通の茶色い封筒に入った厚みの無い手紙。

「俺が一番最初に開けても?」

「山野さんに伝えていただけるなら」

 常磐から了承を得て進藤が手紙の中を確認すると、ピリついた緊張感が文字から感じ取れた。

「………。これ。遺言状ってやつですか?」

 読んだ手紙を一度すっと閉じ、常磐を見れば小さく頷く姿が。

「遺言書にある、曾祖父の遺産を探して頂きたいんです」

「曾祖父の遺産……。」

 もう一度手紙を開けば『芽唯子、お前はいい子だから、教えてあげよう。私の遺産は無いと言ったが、本当はあるんだよ。山野さんを訪ねなさいきっと協力してくれるから』と添えてある。

「……はぁー、なるほど。山野教授がなんか知ってるってわけか」

「それで山野さんに会いに来たのですが……」

 今、自分が置かれている状況を思い出したのか、芽唯子の顔が再び下へさがっていく。

「うーん。常磐さんは、その〝遺産〟があることは初めて知ったの?」

「はい。曾祖父の傍によくいましたが、そんな話は一度も聞いたことがありません」

「……ねぇ、もしかして。常磐さんてどっかのお嬢様だったりする?」

 朝早くからやって来てここで寝ていた事。遺産相続なんて進藤自身にはほぼほぼ縁のない話。話し方が進藤の知っている女子より品を感じる事。何となく一般人ではないと進藤が勘づいて発した言葉に、常盤は目をぱちくりとさせ。

「はい! 進藤さんのおっしゃる通りです!」

「……あぁ、そうなんだ」

 脱俗したような微笑みを返されては、これ以上踏み込む事も無い。話を戻すために進藤は手紙に視線を戻す。

「んー……この遺産の手掛かりが、教授しか持ってないんじゃなぁ……」

「すいません……勢いで来てしまって」

「いーや、大丈夫です。とりあえず教授に連絡とってみますんで」

「ありがとうございます」

 進藤に礼を述べ山野への連絡が繋がるのを待つ間、緊張が解けた常盤は、ソファから立ち上がり部屋をキョロキョロと見回してみた。

 棚には標本が飾ってあり、中身は全て石になっており、その物珍しさから常盤はその石の標本を眺める。

「……。(綺麗な石がいっぱい)」

「常盤さん……なにか珍しいものでもあります?」

 連絡を終えた進藤が後ろから声を掛ければ、常磐は驚いて短い悲鳴をあげた。

「あっ! ……ごめんなさい。ジロジロ見たりして……、石が沢山置いてあるものですから」

「あぁ。……説明がまだでしたね。この部屋は地層学と鉱物学を専門としている研究室なんですよ」

 常磐は進藤の言葉に軽く相槌を打ち、標本に入っていない石に近づいた。

「これは、標本にいれなくてもいいんですか?」

 進藤もその石に近づいてそれを手に取った。その目は優しく慈愛に満ちている。

「これはウレキサイト。テレビ石なんて呼ばれてる」

 進藤がその辺にあるプリントの文字の上にその石を置くと、その文字が少し大きく浮かび上がって見えた。

「わぁ! 凄い!」

「この石には光ファイバーの性質があって、文字や絵に当たった光が反射しあって浮かび上がって見える」

「面白いですね!」

「他にも面白い鉱石がたくさんあって——」

 鉱物や地層のことが分からない常磐でも、進藤の話は楽しく聞くことが出来た。

「ただいま戻りましたー……っ! 目が覚めたんですね! 良かったぁ!」

 常磐を見るなり喜びながら、テーブルに視線を移す高柳。そこには何も置かれておらず、進藤が読んでいた漫画雑誌が一冊。

「やっぱり、お茶のひとつも入れてない!!」

高柳は急いで急須に茶葉を入れ、お湯を注いで常盤に温かいお茶を出す。

「まったく、進藤さんは気が効かないんだから!!」

「……すまん。ちょっと話し込んでて」

「うちの先輩がすいませんでした。俺は高柳壱彦、この大学の二回生です」

「ご丁寧にありがとうございます。私は常磐芽唯子と言います」

「芽唯子さんですかぁ、素敵なお名前ですね」

 鼻の下が多少伸びている高柳の脇腹を、進藤がつつく。

「いだっ! 何するんですか!?」

「お前、彼女は遊びに来たんじゃねぇからな?」

「わかってますよ! 山野教授のお客さんでしょう」

 二人のやり取りをみて常盤が楽しそうに笑っていたが、高柳がその名前を出すと、常磐も思い出したようで。進藤の方へ顔を向ける。

「そうでした! 山野さんとはご連絡ついたのですか?」

「……いや、実は留守電で」

 連絡がつかなかったと伝えようとした時だった。進藤の携帯が震え、急いで携帯を開く。

「もしもし。山野教授!」

「はい? どうしました? 進藤くん」

「あのっ、山野教授にお客が…」

「ふむ……今日は予定はなかったはず。かわってもらっても?」

 進藤が携帯を常磐に渡し、常磐は受け取った携帯を耳に当てた。

「先日は曾祖父……。山仲謙三の葬儀に来て頂きありがとうございます」

「…あぁ!常盤さんだね。すまないね、外出中で」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る