「揺り籠を名乗る者」

 不思議な世界に迷い込んだ私に、話しかけてきた声があった。クレイドルと名乗る陽気な声だ。


 クレイドルは、この不思議な世界について色々教えてくれた。


 この世界の名前もまた声と同じクレイドル。

 エネルギーだけで構成されたこの世界は、干渉力というエネルギーを制御する力によって思い通りに変わるようだ。


 それにしてもエネルギー、か。


 そして私は、その干渉力が異様に高いらしい。クレイドルが言ったことから推察するに、私が干渉力を支配下に置いていたなら、クレイドルは私の意思に反して列車を止めることはできなかった。


 クレイドルが話すことが全て真実とするならば、どうにか干渉力とやらを制御できるようになれば、この世界で私を脅かす存在はいなくなる。まだ内容が不明な『使命』とやらに翻弄されるよりは、話さずにまず安全を確保するのが無難だろう。


 この際、世界を思い通りに変える力なんて無視でいい。安全を確保できるのなら、私にはここを出る必要はない。


 それはそう、なのだけれど。


『吐き出せば、少しだけでも楽になれると思うぜ』


 私の抱えた過去が余りにも重いのも確かだ。誰も信じずに、この安全かも分からない世界で精神を張り詰めながら生きていくなんて、この過去を独りぼっちで抱えたままでは正直、辛いだろう。


 話してしまっても、いいだろうか。


 ふとそんな気持ちが湧いて、私の心に居座り始める。私の目指す安全とは程遠い選択肢だから、話すべきではないのに。


 無理やり抑え付けていた心が叫んでいる。全て吐き出してしまいたいと。

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