異形
咲月 青(さづき あお)
第1話
時計の針が、午後8時を
細長いテーブルには3本立ての
8つ目の鐘が鳴り終えた瞬間、僕の全身がガタガタと
もうすぐ〝あれ〟がやってくる――。
「どうした、
お父様が、口の
隣からナイフで皿をこする音が響き、続いて慌てたように「失礼」と
けれど次の瞬間、突然
――その
黄ばんだ頭には無数の
身長1メートル程度の
本当に、なんて
〝あれ〟は音もなくテーブルに近付き、骨ばった右手でお母様の皿から海老を
僕は周囲に視線を走らせた。この異様な光景に、僕以外は誰ひとりとして反応していない。〝あれ〟を見ることも、〝あれ〟に
「これは良いトカイだ。特に香りが素晴らしい」
お父様はワイングラスを
「どうです、
先生は答えようとして、少し
「……失礼しました。そうですね、こんなに甘く濃厚なワインは初めて味わいました」
先生は
お母様は相変わらずぼうっとした表情で、皿の上いっぱいにパンを
「なんだ
そう問い掛けるお父様の目には、言葉以上の何かが
「あ、あの……お父様――」
「まさかまた『ここに
「いい加減に、嘘をつくのは
「嘘じゃありません! 僕、僕には本当に見えるんです!」
こうしている間にも、後ろでくちゃくちゃと
「まだ
「あ、はい。何でしょうか」
「ここにいる私の息子がね、この部屋には毎晩
「はあ」
「夕食が始まってからたった一度でも、ここで何か異常なものを見たり聞いたりしたならば、正直に言って欲しい」
僕は息をひそめて、先生の答えを待った。先生は僕をちらりと見たけれど、すぐに目を
「――いいえ、私は何も見ていません」
「本当だな?」
「はい」
お父様は満足げに
「聞いた通りだ、
僕がなお食い下がろうとしたとき、いきなり背後から薄汚れた腕がにゅっと伸びてきた。僕は悲鳴を上げ、ナイフを取り落としてしまった。
「馬鹿者! 一体何をやっているのだ。
「……はい。申し訳ありませんでした」
僕が席を立つと、〝あれ〟は僕の皿に半分以上残っていたヒレ肉に
僕は
お父様はひどく満足そうに、
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