抱きつき

 マルクエンはモソモソと目を覚ます。少し仮眠をするだけのつもりが、窓から差す日差しが朝であることを告げていた。


 いつぶりか分からないが、全身筋肉痛に見舞われている。


「マルクエン様、朝食の準備が整っております」


 部屋をノックされ、返事をし、マルクエンはベッドから降りた。


 食堂では先にラミッタが座っている。


「宿敵、遅いじゃない。死んだかと思ったわよ」


「あぁ、いい歌のせいでぐっすりだ」


 マルクエンがニコニコと笑いながら言うと、ラミッタは顔をみるみる赤くして怒る。


「う、うっさいわね!!!」


「まぁ、良いじゃないか」


 ラミッタを軽くなだめ、城の素晴らしい朝食を堪能した。


「それじゃ、行くか」


「えぇ、そうね」


 まるで食後の散歩にでも行くかのように、軽いノリで二人は地下を目指す。


 長く続く階段を一歩一歩二人は降りていった。


「おや、逃げ出したのかと思いましたよ」


 ラミッタの顔を見てヴィシソワは言う。


「逃げるわけ無いじゃない、今日こそさっさと倒してやるわ!!」


「やる気はよし。ですが、その前に気になっていたことがありましてね」


 気になっていた事と言われ、思い当たることのない二人はキョトンとする。


「ラミッタさんがマルクエンさんを抱えて飛ぶことが出来ないかと」


「それは……、試したこと無かったけど」


「丁度いい、ラミッタさん。マルクエンさんに抱きついて飛んでみなさい」


 急にヴィシソワから言われ、意味を理解するとラミッタは照れてあたふたし始めた。


「なっ、何で私が宿敵に抱きつかなくちゃイケないのよ!! い、嫌よ!!」


 ラミッタに嫌がられ、何か少し傷つくマルクエン。


「モノは試しです」


「そ、そんな事言ったって!!」


「いいから、早くしなさい」


 ヴィシソワに睨まれ、ラミッタは心の中で「仕方がない、これは仕方がない不可抗力よ」と自分に言い聞かせて両手を広げる。


 マルクエンはそんなラミッタを見てドキドキとしていた。


 ラミッタの両腕にがっしりと抱きしめられるマルクエン。残念ながら鎧のせいでその柔らかさは味わえないようだが。


「んー!!! んー!!!!」


 目を瞑って無我夢中で飛ぼうとするラミッタ。


 すると、驚いたことにマルクエンは十数センチ地上から足が離れ、浮かび始めた。


「なっ、浮いている!! 浮いているぞラミッタ!!」


 不思議な浮遊感を感じてマルクエンは興奮している。


「あっ、あぁ!! もうダメ!!」


 ラミッタがを上げて地面へふわりと着地した。


「うーん、重さが原因かもしれませんね。マルクエンさん。鎧を脱いでみなさい」


 先に驚きの声を上げたのはラミッタの方だった。


「えっ!? それって、その!! 生身の宿敵に抱きつけっての!?」


「あ、あの、ラミッタ。嫌だったら良いんだぞ……」


 しょんぼりマルクエンが言うが、ヴィシソワはそんな事お構い無しだ。


「良いかどうかは私が決めます。さっさとやりなさい」


「わかりました……」


 マルクエンはそう言って鎧を脱ぎ始めた。

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