歌声

 ラミッタは構わず歌い続けた。


「その目で何を見て その手で何を掴むのか


 やがてその足で 地を踏みしめ


 子は何を望む 刹那の夢よ 神よ どうか祝福を」


 マルクエンはラミッタの歌を初めて聞く。優しい歌声だった。


「ルーサの子守唄よ。おこちゃまにはお似合いね」


 ラミッタはニコリと笑う。


「あぁ、とても良かった」


 マルクエンがまっすぐ見据えて言うので、ちょっと目線を逸らして顔を赤らめた。


「……ド変態卑猥野郎」


 しばらく会話もなく、マルクエンは膝枕されたまま横になっていた。


「ラミッタ、もう動けそうだ」


「ホント、頑丈さだけは取り柄ね」


 マルクエンは上半身を起こして、足に力を入れた。


 何とか立ち上がるが、まだフラついている。


「ほら、行くわよ」


 ラミッタがマルクエンの左腕を肩に回して歩き出す。


 やっとの思いで部屋に戻ったマルクエンは、ベッドに座る。


「ほら、その鎧を脱がなくちゃ」


「すまんが、手伝ってくれるか?」


「分かっているわよ」


 マルクエンは防具を脱ぐと、ベッドへ仰向けに倒れ込んだ。


「あぁ、満身創痍まんしんそういだ」


「でしょうね」


 ラミッタは片目を閉じてため息を吐く。


「何だか、久しぶりにこんな修行をした。疲れたが悪い気分ではないな」


「え、アンタはマゾヒスト?」


「違う!!」


 ラミッタにからかわれるマルクエン。


「アンタこういう修行とか好きそうだもんね」


「ラミッタは嫌か?」


「私は修行なんて好きじゃないわ。でも、強くなるため、仕方なくよ」


「そうか……」


 マルクエンはそう返事をしたかと思うと、目を閉じた。


「ラミッタ。頼みがあるんだが」


「内容次第ね」


「また、歌を歌ってくれないか?」


 言われ、ラミッタは赤面する。


「い、嫌よ!! 私の歌なんて聞いてもつまらないでしょ!?」


「そんな事はない。良い歌声だった」


「なっ!!」


 マルクエンは目を閉じていたが、顔を赤くしてプルプルと震えるラミッタの顔が目に見えるようだった。


「と、特別ね、特別だからね!!」


 目を閉じているマルクエンにラミッタは歌を披露する。夢見心地のまま、眠ってしまった。

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