第37話 魔力の流れ


 短剣も弩も、技術面はともかくとして、振り回す・飛ばすというだけであれば正直誰でも出来るので、『扱えた』という表現は正しくないのかもしれないが、これ以外はまともに扱える気がしなかった。


 なのでしばらくは、この二種類の基本的な構えや、取り扱い方を1時間程学んだ。


 デグはどの武器を扱っても慣れた手付きで使いこなしてみせてくれる、正に戦いのスペシャリストであった。


「短剣なら、適当な短い棒とかで訓練も出来るから、帰ってからもやってみるといい。スキルが身につきゃ幾分動きもマシになるだろうしな」


「はい……わかりました。そうしてみます」


 一度休憩を挟む頃には、ヘトヘトになっており、その場に座り込んで休んでいた。


 肉体労働のスキルは高いはずなのだが、この体力の減り具合を見るに、戦闘となると完全に別枠のスキルのようだ。


 ルリアはというと、隅の方で何かの本を読んだり、たまに思い立ったかのように武器を適当に振り回したり、振り回されたりしていた。


 十五分程休憩し、次は魔法について書かれた書物を読みながら、超初級魔法習得のための特訓が開始された。


 その内容はというと、手のひらに魔力を集中させ球体状に放出し、魔力を具現化させるというものなのだが、説明を聞いただけでは正直良くわからなかった。

 デグはいとも簡単そうに球体を出したり消したりしてみせている。


 しかし、魔力の流れを感じろと言われても、そもそも魔力が良くわかっていないので、どう感じればいいのかも分からないのだ。

 あぐらをかいたまま目をつむり、うーんと唸っていると、不意に背中に重みを感じた。


「魔力の流れが分からないんでしょ。ちょっと手伝ってあげるねぇ」


 隅っこにいたはずのルリアが、背中にもたれかかりながら、両腕で俺を抱きしめる。

 すると、ふんわりとした暖かな何かが、体全体に流れていくのを感じる。


「分かる? これが、魔力の感覚……。魔力が流れるイメージだよ。この流れを、手のひらに集めていくイメージでやってみて。」


 俺は言われるがままに、手のひらに意識を集中させる。

 すると、少しずつ暖かな何かが手の方へと集まっていくのを感じる。

 しばらくそのまま続けていると、後ろから


「おめでとうレイちゃん。初めての魔法だね」


 その声で目を開けると、手のひらの上に、光る球体のようなものが浮かんでいた。


「ほぅ。魔力適性はあるようだな」


 デグが片方の口角だけを上げながら、良かったじゃないかと声をかけてくれる。


「これが、魔法……。俺、魔法が使えるんだな……」


 光る球体を見ながらしばらく感動に浸っていたが、次第に背中の重みに違和感を覚え、冷静になっていく。


「……いつまでくっついてる気だ」


「えーっと、しばらく?」


 俺はグイとルリアを後ろ手に押して引きはがす。


「もー、ボクのおかげなのにぃ、もうちょっと優しくしてもバチは当たらないと思うなぁ」


「悪かったな。まぁ、でも助かった。ありがとう」


「……にへへ」


 ルリアがだらしない笑みを浮かべる。


「魔力の流れが掴めたんなら、あとはその球体を出すまでの時間をどれだけ短くできるか、しばらく訓練だな。すぐに出せるようになったら、初めて次の段階だ」


 喜んだのも束の間、魔法を自在に操るには、まだまだ道は遠いようだ。


 しばらく反復練習や、魔法についての講義を聞いていたが、結局うまく球体を出せたのは先程の一回だけで、今日の訓練はお開きとなった。


 実際はもっと長時間続けて行うものらしいが、初日かつ俺がドのつくほどの初心者であることを考慮し、短めに切り上げるとのことらしい。


 正直、疲れがかなり溜まってきていたので、個人的にもちょうど良い長さであったし、それをもきっと見越していたデグは、教官としてとても優秀なのだろう。


 また、武具等の片付けはデグが全てしてくれた。

 次からは自分でやるんだぞと、豪快に笑われながら言われる。

 なんとも、面目無い。


 このまま帰宅するには、少し体が気怠けだるかった為、しばらく休憩室で体を休めてから、家に帰る事にした。


 俺は一人、部屋の奥にある仮眠用のベッドで横になる。

 ルリアはというと、デグの手伝いを強制的にさせられているようだった。


 目をつむり、水で濡らしたタオルを目元に被せて休んでいると、休憩室の扉が開く音が聞こえた。

 ルリアが戻ってきたのかと思い、タオルをどけてゆっくりと起き上がり入り口に視線を向けると、目に飛び込んできたのは、想定していた人物ではなく、予想外の人物であった。


「あれあれ? 君って冒険者か何かだったの?」


「あ、この前、図書館で会った……」


「久しぶりー。こんなとこで会うなんて思っても見なかったよー」


 そこには以前スキルについて書かれた本を探してくれた、桃色髪で猫耳の女の子が立っていた。


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