第35話 ギルドの横道
ルリアは家の鍵を閉めると、不意に俺の腕に抱きついてくる。
「じゃあ出発ぅ!」
「おいやめろ。男と腕を組んで歩く趣味は無いぞ」
「相変わらずノリが悪いなぁレイちゃんは……。もう1ヶ月以上経つのに、
そういう問題じゃねぇだろと、腕に少し力を入れて払うとルリアは渋々絡めている腕を離す。
家の中でじゃれてくるのならまだしも……いや、それも鬱陶しいが、大っぴらに外でやられると、周りの目が気になるというものだ。
ましてや男同士であるので、あらぬ噂を立てられても困る。
そう考えていると、家の前の道に立ち止まり、こちらを見ながらにんまりとした表情でこちらを見つめるひょろっとした男性が一人……。
以前も同じような事があったような気がする。
男性は、うんうん若いっていいね、と言い笑みを浮かべたまま立ち去っていく。
絶対に何らかの勘違いをされている気がするので、今度会ったら話しかけて、色々と正しておかなければ。
ギルドに着くと、ルリアに先導されてギルドの裏手側に通じる道に入る。
こちら側の道には来たことが無いので新鮮だ。
途中、冒険者の人たちとも何組かすれ違う。
思わず、すれ違う度に小さく頭を下げて会釈をしてしまうのは、未だに日本の社会人精神が抜けきっていない証拠だ。
長年の癖というものは、一ヶ月程度では抜けるものではない。
ただ、数人は会釈を返してくれたので、やらないよりは良かったのかもしれない。
途中で左右にカウンターが現れる。
そして、左手側に座り頬杖をついて、しかめっ面をしている男性に、ルリアが声をかけた。
「やっほー。今日もめんどくさそ―にしてるねー、デっくん」
「その呼び方は辞めろといっただろう。ルリアン」
「そっちこそ、私の事はルリアちゃんって呼びなさいって言ってるじゃんかー」
「きゃんきゃんうるせーぞ。ったく、何しにきたんだ」
デっくんと呼ばれた男性は、片耳に小指を突っ込んで、やかましそうに目を細めている。
互いに軽口を吐けるくらいの仲である事だけは、なんとなく分かった。
「あ、紹介するねー。今、私の家に居候してる、レイちゃんだよぉー」
「……レイジ=クライ、です。よろしくお願いします」
「あー、この女装野郎のとこに居候してるっていう変わりモンってのはアンタか」
ルリアがギャーギャーとデッくんに噛みついているが、それよりも変り者扱いされていたことに、いささかショックを受ける。
「あんたも苦労してんだな。ハッハッハ。俺はデグール。気軽にデグって呼んでくれや」
デグールは、爪で引っ掻いてこようとするルリアの顔を片手で軽々と抑えつつも、豪快に笑いながら、こちらを見てそう名乗った。
デグールは、一言で表すと"野性味溢れる男"といった印象であった。
肌は褐色に焼けており、髪はショートでチリチリとしており、顎には同様にもじゃもじゃとしたヒゲが生えていた。
ルリアを抑えている腕や首元も太く、いかにも戦士といった風貌である。
種族は、恐らくだが人間と思われる。
背は、座っているので正確には分からないが、恐らく俺よりも大きいと感じた。
「ではこちらも、レイジと呼んでください」
「おうよ。んで、レイジ。ここに何しにきたんだ?」
「ちょっとぉ、私が連れてきたんだから、私に聞いてよね……!」
「ちょっと戦闘訓練を受けたくて、初めてなのでルリアに連れてきてもらいました」
「レイちゃん! 私が説明するのー!」
暴れる駄々っ子を無視して話を進めていると、ポカポカと胸元をグーで叩かれる。
全く痛くはないが、鬱陶しいので、わかったわかったとなだめて、ルリアに一通りの経緯を説明してもらった。
正直なところ、現時点では、一人で来たほうが良かったと思っているが、それは黙っておく事にする。
「まぁ大体は理解したぜ。なら、俺が見てやるよ。あと10分もしないうちに交代の時間だからよ」
「よかったねーレイちゃん。デッくんは、こんなんだけど、いろんな武器や魔法を使えるスペシャリストだから、色々試してみたいレイちゃんにとっては丁度いいと思うよって、いただだだだギブギブギブ」
「何がこんなんだ、一言多いんだよテメェはよ」
デグのアイアンクローが炸裂し、ルリアの額がミシミシと音を立てて軋む。
これは痛そうだ。
「ま、このバカは放っておくとして、奥にある休憩所で少し待っててくれや。準備したら迎えにいくからよ」
「ありがとうございます。正直、何も分からない状態なので、初歩的なところから教えてもらえると助かります」
「あぁ任せとけ。休憩所は少し進んだ先にある最初にある右側のドアを開けたところにある。間違えるなよ。んじゃ、後でな」
「はい、また後ほど」
そういって軽く会釈をすると、デグが口元を緩めながら、手を軽く振ってくれる。
俺がそのまま休憩所に向かうと、後ろから置いてかないでよー、と言いながら小走りでルリアが追いかけてきた。
「レイちゃんまでひどいよー」
「大体お前が悪いじゃねぇか」
「ボクは事実をありのままに表現してるだけだもんねー」
「……子供だな」
「あ、今、子供って言った! ひどい!」
聞こえないように言ったつもりだが、どうやら聞こえてしまったようだ。
背中をポカポカと叩かれるが、良いマッサージくらいにしかなっていない。
特に害は無い為、休憩所に着くまでは、そのまま放っておく事にした。
「ちょっとー! かまってよぉー!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます