第47話 鍛冶師、峰岸紅蓮
「悪いがお前はクビだ」
俺がそう告げられたのは、Sランクダンジョン出現なんてニュースを見た翌日の出来事だった。
相手はCランクギルドのマスター。
これで解雇通知を受けるのは、今年で三度目だ。
高校三年の時初めてギルドに入ってから数えると、そろそろ二桁超えそうだ。
「分かりました」
最初は噛みついた。
なんでクビ何ですか、と。
けれど、その度に俺は同じ事を言われて来たからもう噛みつく事も無くなった。
『お前のクラスじゃ戦力にならない』
そんなこの世界で最も単純な当たり前の才能の差が、俺の前には立ちはだかる。
俺に与えられた唯一のクラスの名は、他に例を見ない様な代物だった。
その名は『鍛冶師』。
装備を作りだす能力だ。
けれど、少なくとも今の俺が作り出せる装備は石製の物に限られる。
【錬成】の名を冠した俺のスキルは、今の所石の形状を変化させる効果しかない。
そんな力がダンジョン攻略で一体何の役に立というのか。
俺の無力は、俺が一番分かっている。
そんな時だった。
ダークエルフ討伐の立役者、先のスタンピードの鎮圧で大きく被害を抑え、そして何より全国、果ては海外の探索者から大きな支持を得ているモンスター情報の動画配信、そんな今最も注目されているギルドからの新規探索者募集動画が流れて来た。
別に、本気で合格できると思った訳じゃない。
俺が行った会場だけでも、数百人の参加者がいた。それを四日に分けて行っているというのだから、希望者の数は嫌でも伺い知れる。
その中で合格予定者は10人以下との事だ。
そんな1%もない可能性に俺なんかが受かる訳もない。
けど、それでも応募したのは、まだ俺は俺に期待したいとか思ってるから。
面接は簡素な物だった。
ギルドのマスターと話して、志望動機とか今までの経歴とか聞かれただけ。
いや、彼は『鑑定士』としても有名だから、俺の能力なんて一々聞く必要が無いのだろう。
そしてそれは、俺が絶対に合格できない事を意味している。
俺の力の浅瀬を見せただけで、殆どの人間は無能と評する。
石を変形させる力。しかも同時に変形させられる量は決して多くなく、変形にはかなりの時間が掛かる。
だから、ダンジョンでは使い物にならない。
それを誰よりも綿密に見抜ける鑑定士が、俺を必要とする訳が無い。
そんなネガティブな思考と共に受けた面接だった。
その、一週間後だった。
俺の住所へ合格通知が届いたのは。
出社してみると、俺の他に合格者が二人いた。
彼らは元々大きなギルドに入っていたらしく、活躍もしていたらしい。
そんな中に俺が混ざって居る事には場違いな感じがした。
合格できたのは嬉しかったが、それでも活躍できる姿は想像できなかった。
なのに、そんな俺にアナライズアーツギルドマスターである天空秀は言った。
「峰岸紅蓮が取り仕切り役で、まぁ部長ってとこかな……」
俺がこの中で一番役職が上?
そんな訳無いだろ。この人アホか、と思った。
けど、その後に見せた黒々とした深淵の様な目からは息を忘れてしまうような恐怖を覚え、他の人達からの反論は早々に打ち切られた。
相手の方が俺よりずっと年下なのに、それでもその人の発する覇気の様な物は、やはり英雄のそれなのだろう。
本当に、この人の期待に応えるような成果を俺が出せるのだろうか。
俺は命じられた剣の作成に取り掛かった。
石の剣、攻撃力や耐久力はダンジョン素材で作られたそれに比べると低いと言わざるを得ない様な武器だ。
何故そんな物を欲しがるのか分からなかったが、仕事は仕事だ。
製造させられた剣の数は、一日に30本。
まぁ、スキルで作るから苦ではない。本を読みながらでもそれくらいならできる。
しかし、やはり初仕事だし少し気合を入れて武器を作った。
「それじゃあこれ持ってくから」
社長が『収納』という特異なスキルを発動し、俺が作った全ての武器を持ち去って行った。
その後、一時間程経った頃だった。
『経験値を200獲得』
『経験値を400獲得』
『経験値を320獲得』
『経験値を260獲得』
…………
……
『レベルが1上昇しました』
「あぇ?」
俺は、モンスターを倒す事なく経験値を獲得しレベルアップを果たしていた。
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