第8話 最難関ダンジョンと最高位探索者


 一体、どれだけの人間がA級ダンジョンから現れるスタンピードモンスターに命を奪われた事だろうか。


 しかし、今このスカイフォートレスを攻略するために集められた鮮血の偶像のギルドメンバーは、そんな現実などまるで感じさせない様な圧倒的な力でモンスターを蹂躙していた。


 スカイフォートレスは転移階層迷宮、つまり転移する毎に敵の強さが上がっていくタイプのダンジョンだ。

 現在、俺たち第一先遣隊が探索しているのは五度目の転移をした先。つまり第六階層だ。


 ただ、出てくるモンスターはどれも他のダンジョンでも現れた事のある既存のモンスターで、その対処法を一線級の探索者である彼らが知らない筈がない。


「はぁっ!!」


 大男が大剣を振るうと、その風圧が飛翔しモンスターを両断する。


「爆ぜろ」


 魔術師の一言は現実を改変し、たった一つの単語で敵のモンスターを吹き飛ばす。


 その様はまるで言葉通りに現実を歪めているかのようでもあった。


「凄いですね……」


「だね」


 俺とリオンさんはその光景を唖然とした表情で見ていた。


 しかし、何よりも凄いのは戦況の管理をしながら、その上で最も相手にダメージを与えるギルドマスターの彼女の戦いだ。

 血染めと呼ばれる事もある彼女は、『吸血鬼』という特異なクラスを持つ。


 彼女の扱う『血痕魔法』は敵味方関係なくその場にある全ての血液を操作し、それを全て武器へ変える。


 彼女によれば、たった数滴の血が鋼の弾丸に代わり、軽い傷が致命傷に変化する。

 仲間が多少でも斬ったモンスターであれば、その傷口から血を抜き出して相手を殺す事ができる。


 故に、相手の血を浴びる『血染め』の黒峰静香。


 俺とリオンさんは殆ど手持ち無沙汰の状態だ。

 荷物は全て俺の収納に入れているから、俺たちの仕事があるとしたらポーションとかが必要な傷を負った人が出て来た時とかだけど、とてもこの程度の相手に彼らが傷を負うとは思えない。


 荷物を全部俺が持てたから、リオンさんには俺を護る役目を担ってもらっている。

 しかし、彼女が腰に携える剣を抜いた事はまだ一度も無い。


 これ、もしかしたらこのまま攻略できるんじゃ……


 そんな事を思ってしまったが、しかし俺は直ぐにそんな甘い場所では無いのだと自覚する事になった。


「ッチィ!」


 前衛で剣を振るっていた男が、少しの傷を負った。

 それは俺たちがポーションを使うまでもなく、回復ヒーラー系のクラスを持つ人に治癒されて事なきを得た。

 しかし、そんな小さな怪我が色々な人に幾つも現れるようになっていた。


 よく見ればモンスターが一度に現れる数が少しずつだけど増えてきている。

 それに、階層を進むごとに今までよりも強力なモンスターが現れる様になっている。


 モンスターランクD相当の敵しか出て居なかったのに、少しずつCランクのモンスターが出現し始めた。

 ここに居るのは俺とリオンさん以外は、全員が50レベルを越える猛者たちである。それが14人。


 普通に考えればCランクの相手程度に負けるはずはない。けれど、もしもその相手の数が倍以上に多ければ怪しくなってくる。

 事実、数が増え相手のランクが上がった事で傷を負う探索者の数は増えてきている。


 まだ、負ける事は無いだろう。

 しかし、このままのペースで敵が強くなれば最悪死人がでる可能性もある。


 それに一番の問題は、ここに現れるモンスターが鳥獣種が多いという事だ。

 草原フィールドで鳥系、つまり飛ぶモンスターを相手にするにはこちらも遠距離攻撃を行う必要がある。近接系はカウンター狙いしかない。


 そんな相手にヒットアンドアウェイで来られると、やはり全てを防ぐ、もしくは回避するというのは上位の探索者にも難しい物があるのだろう。


「不味いな……」


「え?」


「そろそろ、Bランクが……」


 俺の予感は悪い方は割と良く当たる。

 それに、DからCに上がった段階の進行階層数を考えれば、そろそろ更に上のランクのモンスターが出てくるという可能性は十分に考えられた。


「グゥェエエエエエエ!!」


 予感は当たり、そいつは現れる。


 翼竜ワイバーン種。

 幼体のドラゴン。


 それがついに、俺たちの前に姿を現した。

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