第5話 遠征のアルバイト
あれから一週間後、俺の所に採用通知が届いたので指定された場所まで出向いて来た。
バイト内容としてはダンジョン探索の荷物持ち、所謂ポーターと呼ばれる職種である。
どうやらかなり大規模な遠征をするらしく、その中にはAランクと呼ばれる殆ど最強に位置する上位探索者も加わるらしい。
「あの、ポーターの仕事を受けたんですけど」
集合場所はギルド『オルトロスの主』本部。
そこの受付に名前を伝える。
「天空秀様ですね。かしこまりました、案内致します」
「ありがとうございます」
受付の女性に連れられて、俺はギルド本部の奥の部屋の一つ「第一会議室」と書かれた部屋に通された。
そこはかなり広い部屋で、中には何人もの探索者たちがいた。彼らの注目が、部屋に入って来た俺へ向く。
「こんにちは、ポーターとしてやって来ました天空秀です。今日はよろしくお願いします」
俺は、全体に聴こえる様に挨拶する。
初対面の相手に失礼だなんて思われたら最悪だからな。
ただ、俺がポーターと名乗った辺りで皆興味を失せてしまったのか目を逸らされてしまった。
「こんにちは、俺がここのギルドマスターの
「あ、よろしくお願いします」
海妻さん、結構厳ついガタイを持っている大男だ。
盛り上がった筋肉は格闘技の選手みたいで、彼が近接戦闘系のクラスを持っているのだという事は容易に想像できた。
「あぁ、今日はよろしくね」
俺と握手を交わして、海妻さんは去って行った。
去り際に俺の席を教えてくれたのでそこに座る事にする。
会議室は30人以上が座れる卵型の円卓になっていて、俺は一番扉に近い方の端に座る。
「今日はよろしくお願いします。私もこの遠征に
そこに居たのは金髪の美人だった。
顔の形的に外国人っぽい。肩程まであるサラッとした金髪は彼女の奇麗な顔に最高にマッチしている。
可愛い。
「あ、よろしくお願いします。天空秀です」
「はい、さっき聞いてました。私はリオン・エヴァです」
「外国の方ですか?」
「両親はアメリカ人とロシア人です。でも日本生まれ日本育ちですよ」
「なるほど、今日は一緒に頑張りましょう」
ビックリした。リオンなんていうから一瞬動画にコメントしてくれてる人かと思った。
けど、ネットネームを本名にしてる人なんて早々居る訳ないよな。
「はい、頑張りましょう!」
そう言った彼女は、何か俺を観察しているようでもあった。
「あの、それで失礼なんですけど、どうして鞄を一つも持ってないんですか?」
確かにそうだ。ポーターというのは通常なら巨大な鞄を持つ物である。リオンさんもそこそこ大きな背負い鞄を持ってきている。
しかし、動画投稿によってレベルが上がり、『収納lv3』を持つ俺は既にそんな鞄など容易に越える容量の収納空間を抱えている。
「良く見てて」
俺は彼女に向けて、手を翳す。
「? はい」
そこには何もない。
けれど、一瞬でそこには水の入ったペットボトルが握られる。
「えっ? これって……」
「俺のスキルです。色んなものを異空間に収納して、それを好きな時に取り出せるっていう感じ」
「凄いです。っていうか、私そういうスキル全然持ってないのにこんな所に居るのが急に恥ずかしくなってきました」
「いや、これを持ってる人は中々いないと思うよ」
俺も鑑定士なんてクラスを得た時に検索をかけてみたけど、それらしい結果は出なかった。
前例が無いとまでは言わないが、相当マイナーなクラスなんじゃないかと思っている。
「そうなんですか。私は戦うスキルばっかりです」
そっちの方が俺はうらやましいけどね。
動画の収益化でも出来たら自分のクラスに感謝するんだろうか。
「俺は戦うスキル一つも持ってないから、男らしくないかもだけど護ってくれたら嬉しいな」
「適材適所ですね。勿論です!」
そんな会話をしている所で、部屋の電気が消えた。
「皆、会議を始めるから席について静粛に」
そう海妻さんが部屋全体へ呼びかける。
他の探索者の人たちもその指示に従って席に着く。
どうやら、荷物持ちは俺とリオンさんの二人だけっぽい。
それ以外の人たちは武装度がマックスって感じだから。
「今回の遠征は3つのギルドの合同遠征だ。他のギルドマスターたちと今から回線を繋げるから、気になった事以外は静かにしてくれ」
そう言うと、海妻さんはプロジェクターの電源を入れる。
俺たち側の壁にその映像が映し出される。真ん中で二つに割れた映像内部には、ここと同じような2つの会議室の様子が映し出されている。
どうやらこの遠征、結構な大規模作戦かもしれない。
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