守り人よ、君は愛を乞うても良い

朝来

目覚め、出会い、使命

第1話

 誰かに呼ばれている、と思った瞬間に大洋まさひろの自我はその世界に生まれた。

 まぶたの向こうで光がチカチカと瞬いている。眠りから覚めるときだ。だがしかし、いつもより重い。まぶたも、体も。この身動きのとれなさは、いつぞや祖父の家に泊まった時の古い綿布団を思わせる。

 浮上しはじめた意識の中で何かを思うが、考えはあちこちに散らばりまとまらない。

 チカチカ瞬く光は徐々に強くなり、自然と眉が寄る。指を動かす。足も。喉の奥から声を絞り出す。

 そうしたわずかな動きを少しずつとることで、ゆっくりと自分の輪郭が世界に浮かび上がってくるかのようだった。

 耳が周囲の音を拾い始める。そうだ、自分は誰かに呼ばれていたのではないか。

 まだ目が開かない。だが自分を呼ぶ声はすぐそばにいるはずだと、謎の確信に導かれるまま必死に手を伸ばした。

 果たしてそれに、何かが触れた。

 柔らかく、温かな、何か。

 逃すまいと大洋が手に力を込めると、触れた何かはそれに応えるように、更に柔らかな感触を返してきた。


「お目覚めください」


 柔らかな何かがそっとささやいた。そこでようやく、自分が誰かの手を掴んでいるのだと分かる。


「どうか、お目覚めを」


 平坦に繰り返す声が急速に大洋の意識を引き上げていく。とうとう、大洋は目を開いた。光が溢れかえる。次に大洋の視界に飛び込んできたのは輝く『美』だった。

 ぼんやりとした視界の中でも、はっきりそうと分かる。何もかもおぼろげな世界で、大洋はその美しさに息を呑んだ。


「……お目覚めか!」

「ついに!」

「なんと、真であったとは……」


 次の瞬間、一気に音が溢れた。あれほど全身にまとわりついていた重さは霧散し、まばたきを繰り返す度視界もクリアになっていく。

 そこは高い天井と冷たい雰囲気のある石壁の建物の中で、なんとなくテレビや映画で観た外国の教会を連想させる。どこからかまっすぐに光が差し込んでおり、眩しいのはこのためだろう。

 周囲をうかがいながらも、だがやはり目の前の美しいものから、大洋は意識を逸らすことが出来なかった。

 とても、とても美しい、少女だった。

 白い、いや銀色だろうか、光に当たって静かに輝く長い髪と、薄い水色の虹彩。色だけではない。目鼻立ちも、纏う空気もすべて、この世に初めて咲いた花のような。個人の好みを超えていっそ神々しいほどの、純然たる美しさがあった。


「……夢?」


 思ったより声はまともに出た。手に力がこもる。いや、違う。大洋の手を誰かが強く握ったのだ。その誰かとは、今大洋の目の前にいる少女にほかならない。


「いいえ。夢ではありません」


 そう告げられた声まで、酔うほどに美しかった。

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