メサイアの旅路
@takeokokoubou
第1章 グッバイ日常ハロー超常
第1話 見知らぬ森
俺、椹木《さわらぎ》
重い瞼を唸りながら開いた。
目の前に広がるのは晴れ渡った空と、大きな木の枝や葉。
体を起こし、辺りを見回す。
聞き心地の良い小鳥の歌声が木々の間から聞こえてくる。
うん。どこよここ。
俺はこんな場所知らん。
360°自然に囲まれた空気の美味しい場所! なんて言えば聞こえはいいが、まあ、森だな。
見慣れた住宅街やスーパーマーケット、ショッピングモールはとてもじゃないがここでは見つけられないだろう。
高校の帰りに新刊のラノベをウキウキで購入した帰り道にいきなり気を失って、気付いたらこのザマだ。
あ、勿論1人で。
辺りは見慣れない景色、手元に物は何も無い。
せっかく買ったラノベも、高校の教科書の入った鞄もどこかへ消えてなくなってしまったらしく、辺りにも落ちていない。
ただ、服は着慣れた制服のままだ。
まさか、夢でも見てるのか?
ベチィン!!
なるほど。ほっぺたを引っ叩いたりしても特に変化なしと。
夢じゃないんか。
よし。一旦状況を整理だ。非常事態こそクールにいこう。クールに。
えーと、学校帰りに気絶したら森でした。
意味わからねーよ! どうゆう事!? マジでおかしいだろ!
おっと、落ち着け。クールにいこう。
てか、何で気絶したら森なのよ?
常識的に考えてあり得ないけど、可能性としては誘拐?
でも誘拐するなら森に放置なんかしないだろうし
じゃあ、復讐とか?
でも、俺恨まれるような事何もしてないんですけど。
そもそも人間関係終わってるし。
俺、
当然一緒にラノベ買いに行くような奴は居ない。
なんせ学校じゃボッチ飯を毎日食ってんだ。
だがひとつ言わせてくれ!
俺はトイレで飯を食った事はない!
俺にもプライドがあるんでな。教室で堂々とボッチ飯だぜ!
……自分で言ってて悲しくなってきたわ。なんだよ孤高の一匹狼って。
まあ、親友が1人いるから何とかやっていけていた。
飯は別々だけど。
……飯別々だけど本当に親友だよね?
とにかく、今は現状把握、やんなきゃいけないことを考えよう。
俺は森の中で遭難してる状況だ。
電話は鞄の中で、その鞄は無くなってしまった。
あるのは制服を着た俺の身体だけ。
「とりあえず、水を確保かなぁ。食料も寝床も必要だなこりゃ。川でも探すか」
どうせ警察とか消防も捜索してくれてるだろうし。
まあ、何とかなるだろ。
俺は膝ほどの背の低い草を掻き分けながら川を探し歩き始めた
* * * * * *
何時間歩いただろうか?
俺は少し森を舐めていた。
少し歩けば川くらい見つかるだろと、たかを括っていたがそう甘くはなかった。
川どころか、池や沼、水溜りでさえ見つける事は出来なかった。
喉はカラカラ、お腹も鳴りっぱなしだ。
俺は高校からの下校途中で気を失ったから、昼に学校で弁当を食べてから何も口にしていない。
数時間歩いたのに日が沈む気配は一切ない。
正確な時間は分からないが、どうやら日をまたいでいると考えるのがまあ妥当だろう。
そうなると、俺はかなりの時間何も口にしていないことになる。
さらにだ、水を求めて無闇に歩き回ってしまった為か、余計にエネルギーを消費してしまった。
そんな道中でキノコを見つけたが、色がもうすごくて。
紫と赤が混ざったような色のキノコで、もう毒がある事を隠す気が無かった。
もっと隠す努力しろや。バレてるぞ。
でも、あまりの空腹に何度も手が出そうになった。
空腹って恐ろしいねホント。
もう何か今は腹が減り過ぎて逆に感覚がおかしくなってきて、逆に空腹を感じていない。
哲学的な何かに目覚めそう。
しかし、喉の渇きは重大だ。
喉の奥がカラカラでくっつきそうだ。
急いで水を見つけなくてはいけないとわかってはいる。
だが、残念ながらもう歩く体力はどうやら残っていない。
マジで体がキツイ。立っているだけでしんどい。頭にモヤが掛かってるみたいだ。
俺が諦めてその場に倒れそうになった時、頬にヒンヤリとした風が吹きつけた。
俺は最後の力を振り絞って、その風の吹いてる方向に向かって歩く。
そして、そこには俺の求め続けたものがあった。
「……川だ」
俺の疲労しきって走れるはずの無い体は、勝手に走り出していた。
その川はまさしく清流だった。
水は透き通った透明で、泳いでいる魚の姿が目視できるほどだ。
鏡のように俺の顔が反射している。
俺は川にすぐさま顔面を突っ込んだ。
そして、これでもかというほどの量の水を胃へ流し込む。
プハァ! マジでウメェ。いや、おいしーヤミー感謝感謝だな。
自然に感謝感謝。
腹がたぽたぽになるまで飲んでやった。
喉の渇きが無くなったからか、めちゃくちゃ腹が減ってきた。
もちろん、まだ食べ物は食べていない。
どうにか食料を手に入れなきゃいけないんだけど、どうするか?
ダメ元で川の魚でも取ってみるか。
ということで、早速学校の制服を脱ぎ捨て、パンツ一丁になった。
どうだ!
俺の特に腹筋が割れているわけでもなくかと言って太っているわけでもない普通のボディは!
まあ、一人なんで誰も見ている人はいないんですけど。
いや、学校でも誰も俺のことなんて見ていない……おっとこれ以上はやめておこう。
俺のガラスのハートが粉々になっちゃう。
水泳の授業にはあまりいい思い出はないが、思い切って川に飛び込んでみるかね。
とう!
なるほど。深さはそれなりにあるが、足はしっかり川底に着き流れも穏やかだ。
さあ、魚のつかみ取りだ!
ようやく水が見つかりテンションもかなりハイになっていた。
そんな時、下流の方向にふと目を向けると、奴がいた。
もうバッチリ目も合ったね。
長い尻尾に、生え揃った鋭い歯。
茶色と緑の中間のような色をした大きい体。
ワニだ。
それもかなり大きい。体長は4、5m程だろうか。
ヤバい目してるってマジで。
じんわりと嫌な汗が背中を流れていくのがわかる。
ワニなんてテレビでしか見たことないんだけど。
よし! 平和的解決だ! 俺に敵意はないぞ!
俺はワニに向けて満面の笑みを浮かべながら両手を挙げて川から出ようと、ゆっくり一歩ずつ後退する。
笑顔は種さえ超える!
ゆっくりと後退する俺に対し、ワニは深い緑色の巨大な体を左右にゆっくり揺らしながら近づいてくる。
このままだと絶対食われるやつだこれ!
まてまて! おいしくないから!
クソ。こうなったら……。
「や、やあ。ワニさん。アリゲーターさんと呼んだほうがいいかな? こんな所で会うなんて奇遇だね。いやぁ。君の体イケてるよ! 柄がカッコいい! よく高級バックにされてるのを見てるけど、ホントカッコいいよ。あー、バックにしてるのは俺じゃなくて君らワニのこと軽視してる馬鹿野郎だけだ。それじゃ失礼します」
「GAAAAAAAAA!」
えー会話できませんでした。
ワニは雄たけびを上げると、一気に加速した。
「ごめんなさいィィィィ!」
ワニ超怒ってるんだけど! ブチ切れじゃん!
川から飛び出し、川辺に投げ捨てた制服を拾って、パンツ一丁で全力で走る。
チラッと振り返ると、ワニとの距離はもうそれほどなかった。
クソッ! なんであんな巨体でそんな速く走れるんだよ! こっちはパンツしか履いてないんだぞ! 走りやすいのに!
でも愚痴ってるだけじゃ解決しない。なんとか打開しないと……。
あいつはワニで俺は人間だ。戦ったって勝てるわけない。
分厚い体に鋭く大きい歯。勝てる要素ゼロ。
だが、俺は人間。元はサルだろ? なら……。
俺は近くにあった大きな木に飛びつき、必死に登った。
手のひらが擦り切れ血が出てきたが、そんなことは気にしてる場合じゃない。
なんとか座れるほど太い木の枝までたどり着くことができた。
何とか登り切ることに成功。
高さは5,6m程だが、ワニの追跡をしのぐには十分な高さだ。
下を見ればワニが木の幹に思い切りかぶりついていた。
だが、この木はかなり太く大きいのが幸運だった。
先ほどからビクともしていない。
何とかなったけど、あいつがどっかいくまでここから動けないよね……。
ビクビクしていると、ワニはあきらめたのかテクテクと木から離れ始めた。
ふううう。助かった……。
てか、ワニって日本にいないよね?
てことは、外国かよここ。
マジか……。
これじゃあ消防や警察の救出なんて期待できないないじゃん。
どうすりゃいいんだよ。
目の前が真っ暗になった気分だ。
これからの事を考えるのはいったんストップ。
飯だ。とにかく何か食べたい。
少し時間がたったらまた川へ向かおう。
魚のつかみ取り再開だな。
そんなことを考えていたら、いきなりワニが振り返った。
目が合う。
まだ、諦めていない? 登ってこれないのに?
すると、ワニは俺に向かって大きく口を開けた。
なんか嫌な予感するんですけど……。
俺の嫌な予感は……よく当たる。
しばらくすると、ゴオオオオという音と共にワニの口の中が赤く染まる。
炎の玉のようなものがワニの口の中で燻っている。
オイオイオイ! そんなのアリかよ!
ヤベェ!
俺は木の下のクッションになれるような茂み目掛けて、飛んだ。
次の瞬間、熱いものが頭上を通過、耳には木が砕ける音が飛び込む。
無惨にもぼろぼろになった木の奥から、ワニは再び走り出しているのが見えた。
また鬼ごっこってか! 上等だ! 絶対巻いてやる!
* * * * * *
十分ほど逃げ回っていたが、もう限界だ。
火の玉を放ったあとのワニの動きはかなり鈍くなった。
火の玉一発撃ったらかなりへばるのか? なんて考えてる余裕はない。
丸1日ほど何も口にしてないのに加え、この森に来てからひたすら動き続けていたんだ。体力は残されていない。
もはや気持ちではどうしようもないほど身体は追い込まれてしまっている。
動きが鈍くなったはずのワニにかなり距離を詰められてしまっている。
そしてついに限界を迎えた。
右足が攣った。
痙攣する右足は体を支える事は出来ない。
転がるようにして倒れる。
後ろを振り返ると、ヨダレをダラダラと垂らしながらゆっくり近付いてくるワニが視界に入る。
ヤツは笑っていた。
もう終わりか?
いや、まだだろ!
俺は這うようにして、ワニから必死に離れる。
こんなとこじゃ終われないって!
気絶して気付いたら森で、ヘロヘロになるまで彷徨って、最後はワニに食われて終わり?
絶対に嫌だ!
まだ彼女だって出来たことないんだっての!
童貞だし! エッチなこと一回くらいしたいわ!
おっぱい大好きなんだよこっちは!
だから俺は生きて家に帰りたい!
前を向いた時に俺は見つけた。
洞窟の入口だ。
入口の大きさは人間がギリギリ入れそうなぐらい、ワニは多分入れない。
行くしか無い!
痛みに耐えながら、攣った右足を引き摺るようにして洞窟の入口目掛けてひた走る。
もう足にワニのヨダレが飛んできている。
「いける! 飛べぇ!」
思い切り地面を蹴り、頭から洞窟に突っ込んだ。
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