嫉妬ほど醜いものはない

ゆーすでん

嫉妬ほど醜いものはない

お気に入りのマグカップの中で湯に浸るティーバッグを眺めていた。

徐々に葉が開いていき、ゆっくりと靄がカップの中を進み透明な世界を

茶色く染めてゆく。

漠然と感じる焦りと不安。この感覚は、ずっと前から知っている。

ただ前に突っ走れば良かったあの頃とは状況が違う。

長く居たいと願った場所に留まり続けて、何故か私は疲弊している。

長い年月の中で周りに対して愛着も沸くはず? 否、私は逆だった。

いい面を見ようとしてきた、けれどそれも役に立たない。

塵も積もればなんとやら。じりじりと積もった不満は、今限界を突破しつつある。

語尾を上げて電話が来たことを伝える者、自己承認欲求不満でとにかく

褒められたい者、失敗したくなくて確認作業が止められない者。

ただ、同僚と笑っているだけなのに気に障る声の高さ。

些細な行動が、気になる。

チリチリと火の粉が時折噴き出しそうになるのを、奥歯をぎりっと噛んで耐える。

自分では気を付けているつもりの仕事に、案の定、後輩からの指摘が入る。

丁寧に見てくれている事に、逆に疑われているかのような錯覚に陥る。

仕事も出来て、家庭もあり、まだ若い。

なんの必要もない相手への嫉妬がドロドロと腹の底にたまり続ける。

去年の冬から酒の量が一気に増えた。

忘れたいと願っても、酒は叶えてくれないと分かっていても飲み続ける。

不安を隠したいのに、二日酔いが不安を増幅させていく。

朝から夕方近くまで体の中に居座り続け、帰る頃またまやかしの楽しさを

思い出させる。

家に帰れば、世話焼きの母があれこれ差し出してくるのを無表情で受け流す。

年を取るごとに話好きになっていく父の呟きを、右から左へかわす毎日。

風呂に入り、部屋の扉を閉めてからやっと自分のペースで呼吸が始まる。

テレビやパソコンの灯りを頼りに、また飲み始める。

昨日の記憶があいまいなまま、また一日が始まる。

絶え間なくため息を続けながら一日を終える。

いつからこんなに嫌な人間になったのだろう。

自分で選んできた道を誰かの為だったと偽り、自分の行いを誰かのせいにして

殻に閉じこもる。

誰かの笑顔に嫉妬して、無意味な妬みを生み続ける。

どんな人間よりも、私は自分自身が一番嫌いだ。

今が嫌なら、変えればいいのだ。

けれど、自分の中の溜まり続ける嫉妬と性が変えることを許さない。

嫉妬している自分の顔は、とても醜い。

鏡を見る度思い知る。

嫉妬の中に妙な愛おしさを感じるから。

そうして今日も一人、酒を飲み文字という名の毒に乗せて愛おしさを解き放つ。

誰かが読んでも読まなくても、私の証が残るから。

嫉妬ほど、醜いものはない。

それでも、その醜さは私自身に言葉を与える。

体に溜まった毒を、毒の言葉で吐き出す。

毒を持って、毒を制す。

自己満足を世に吐出して、明日の為に眠りにつこう。

くそくらえ、世界。

おやすみなさい、僕の嫉妬。


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