第10話 11月2日「いいふたりの日」


 「何であんたはいつもそうなのよ!」

 タブレットから発せられたドラマティックな女のセリフが、テーブルに相席していたミルクティーへ波紋を広げる。開かれたままの本は何も動じずでいた。

 

 時間は8時になる頃で、私は髪の毛をクルクルとアイロンで形作っていた。もうそろそろ本格的なケアが必要なので、それも楽しみの一つとして心のツリーに掛けておく。

 今日の休みもやる事満載になるから、それをツリーに見立ててやるのだ。そうすれば鬱蒼めいたその山積みもカラフルなツリーになるのだ。

 手帳にツリーを書き足して、色を選択しながらやる事を飾り付けていく。

 

 「私だけを見て、お願いだから」

 ドラマの女は男にそう言い寄る。

 そんな事を実際に言う人に会った事が無い。

 私ね、この前彼にさ、私だけを見て、お願いだからって言ったの!なんて事を聞いた事が無い。

 いや、実は皆言っているけど公言してないだけで、「テスト、勉強してなかったわ〜」的な物なのかもしれない。だとすれば、怖い世の中ではある。

 

 あんなのが横行したら、男が須く女にドラマを追求し始める世の中になってしまう。

 

 「もうすぐ会えるから、少しだけの辛抱だよ、もう君しか見えない」

 ドラマの男は言った。

 

 ああ、これなら成立するのかと、私はドラマに納得した。

 

 お似合いのいいふたりが、私のミルクティーを勝手に甘々味にさせた。

 

 「甘い」

 私はミルクティーを飲んで、敢えて声に出してみた。

 

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